其の百五十 忌々しい朝がやってきた
文字数 1,661文字
制服を着用した女の子が歩みを寄せる。
土砂崩れにより斜面がパラパラと音を立てていく中を、たどたどしくも【化け物】に足を近づけていく。
「ナオ…ミ……、儂は……」
化け物の口から、掠れた声が聞こえる。
少女から目をそらしながら影の落ちた声が、流れている川に溶け込む。
「いいのよ……、いいんだよ……無理にしゃべらなくて。」
12月という時期、そしてあの女が散らした氷がない交ぜになっている川に、ナオミは靴もタイツも着用したまま、足を踏み入れた。
じゃぶじゃぶ
じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶと、水を引っ張りながら歩き続けた。
そうして、パックリと切り裂かれた生首に、ペタリと手を触れた。
「……」
「…………。」
2人は口を開かなかった。
お互いに口は開かなかったが、だいだいのことは推測できるために、聞いても無駄な事だと分かっていたからである。
すこし離れたところで、流されながら、切断された胴体がべちゃりと音をたてた。
「どうしてここにきた……?」
「電話が掛ってきたんだって。」
黒猫の問いかけに、ナオミは一言で打ち切った。
空は気持ちいいくらいに晴天だった。太陽が山影から現れて空をオレンジ色にしていく。
「ラックはさ、人間が許せなかったんだよね。」
「……。」
「私は新聞読むタイプなのよ。
大きく取り上げられてたよ。夏から色んな人が食い殺されたって。【獣事件】とか言ってた気がするけど。」
黒猫は目をそらし続けている。
「わたしね。ずっと考えてることがあるの。
1学期のような学校生活が続いてたらどうなってたかなぁって。
普通に考えたらさ、いまの時期は大学受験をする季節なんだよね。推薦とか一般とか。いまは学校自体が無くなって、どうなるか分からないけど。
ほんとは1月15、16日には共通テストがあるってのにね。
でもさぁ……――なんでどいつもこいつもいなくなるの?」
少女の声が苛立ちを込めたのか、がなりを含んで低くなる。
「知ってる?生徒会のメンバーで普通に生活してるのって、堤ヨウと私だけなんだよ。
アヤカは殺人罪で刑務所行き。
ハチミツは意識不明の重体。
シンやスイは、なんか……――死んでるし。
それで、今回はあんたなんだ。あんたも私を置いていくんでしょ…?」
影の影響で、ナオミの顔は赤く色づいた唇以外、黒く塗りつぶされている。
「黙ってないでさ…、否定、ぐらい、しなさいよ……っ」
黒猫は、彼女の涙を聞くことしかできなかった。
実際、首を切断された時点で致命傷ものだった。
それに加えて、胴体部分の肺と心臓は潰れてポッカリと大穴を開けている。
分かっているのだ。 お互いがどういう状況にあるのか分かっているために、頭のなかで予想した会話をたんたんとなぞるだけになっている。
だが、そんななか、黒猫には1つ気になる点が残っていた。
「ナオミよ、どうして泣くのだ…?」
それは、唯一黒猫の分からないところだった。
「おまえと会ってから、まだ一年も経っておらん。
どうして、そこまで肩入れしてくれるんじゃ…?」
まだ出会ってからそんな経っていない。
学校があるときは、仲良くしてもらったが、人を食い殺すような化け物に涙するだろうか?
実際、目の前にいるのは2メートルの生首である。
それに手を置きながら、涙を流す彼女に疑問だった。
――悔しいのよ。
それは一言で解決するものであった。
「悔しいのよ……っ!!
【三尾アヤカ】も【早妃カズミ】も【黒猫】も!!みんな被害者じゃない!!
どうして、どうして……あんた達が酷くなっちゃうのよ!!
終わり方くらい、望みたいのよ……っっ」
少女の叫びに、黒猫は思わず笑ってしまった。
やはり人間のせいで自分の生は狂わされたんだと、それが間違っていなかったからだ。
「ラック………?」
「ブハハハ―――ッ!!
ははは……、
はぁ、その名前を黒猫につけるお前のセンスは、忘れん。」
川の周りをひとしきり調査した後、桜は橋下にみえる黒猫の姿をみて、右手を頭に添えて敬いを表した。
「あ、ああ、あああ……」
日が差し込み、凍り付いた血管が溶けて、少女の足元を真っ赤に、絵の具を溶かしたように流れていっていた。
土砂崩れにより斜面がパラパラと音を立てていく中を、たどたどしくも【化け物】に足を近づけていく。
「ナオ…ミ……、儂は……」
化け物の口から、掠れた声が聞こえる。
少女から目をそらしながら影の落ちた声が、流れている川に溶け込む。
「いいのよ……、いいんだよ……無理にしゃべらなくて。」
12月という時期、そしてあの女が散らした氷がない交ぜになっている川に、ナオミは靴もタイツも着用したまま、足を踏み入れた。
じゃぶじゃぶ
じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶと、水を引っ張りながら歩き続けた。
そうして、パックリと切り裂かれた生首に、ペタリと手を触れた。
「……」
「…………。」
2人は口を開かなかった。
お互いに口は開かなかったが、だいだいのことは推測できるために、聞いても無駄な事だと分かっていたからである。
すこし離れたところで、流されながら、切断された胴体がべちゃりと音をたてた。
「どうしてここにきた……?」
「電話が掛ってきたんだって。」
黒猫の問いかけに、ナオミは一言で打ち切った。
空は気持ちいいくらいに晴天だった。太陽が山影から現れて空をオレンジ色にしていく。
「ラックはさ、人間が許せなかったんだよね。」
「……。」
「私は新聞読むタイプなのよ。
大きく取り上げられてたよ。夏から色んな人が食い殺されたって。【獣事件】とか言ってた気がするけど。」
黒猫は目をそらし続けている。
「わたしね。ずっと考えてることがあるの。
1学期のような学校生活が続いてたらどうなってたかなぁって。
普通に考えたらさ、いまの時期は大学受験をする季節なんだよね。推薦とか一般とか。いまは学校自体が無くなって、どうなるか分からないけど。
ほんとは1月15、16日には共通テストがあるってのにね。
でもさぁ……――なんでどいつもこいつもいなくなるの?」
少女の声が苛立ちを込めたのか、がなりを含んで低くなる。
「知ってる?生徒会のメンバーで普通に生活してるのって、堤ヨウと私だけなんだよ。
アヤカは殺人罪で刑務所行き。
ハチミツは意識不明の重体。
シンやスイは、なんか……――死んでるし。
それで、今回はあんたなんだ。あんたも私を置いていくんでしょ…?」
影の影響で、ナオミの顔は赤く色づいた唇以外、黒く塗りつぶされている。
「黙ってないでさ…、否定、ぐらい、しなさいよ……っ」
黒猫は、彼女の涙を聞くことしかできなかった。
実際、首を切断された時点で致命傷ものだった。
それに加えて、胴体部分の肺と心臓は潰れてポッカリと大穴を開けている。
分かっているのだ。 お互いがどういう状況にあるのか分かっているために、頭のなかで予想した会話をたんたんとなぞるだけになっている。
だが、そんななか、黒猫には1つ気になる点が残っていた。
「ナオミよ、どうして泣くのだ…?」
それは、唯一黒猫の分からないところだった。
「おまえと会ってから、まだ一年も経っておらん。
どうして、そこまで肩入れしてくれるんじゃ…?」
まだ出会ってからそんな経っていない。
学校があるときは、仲良くしてもらったが、人を食い殺すような化け物に涙するだろうか?
実際、目の前にいるのは2メートルの生首である。
それに手を置きながら、涙を流す彼女に疑問だった。
――悔しいのよ。
それは一言で解決するものであった。
「悔しいのよ……っ!!
【三尾アヤカ】も【早妃カズミ】も【黒猫】も!!みんな被害者じゃない!!
どうして、どうして……あんた達が酷くなっちゃうのよ!!
終わり方くらい、望みたいのよ……っっ」
少女の叫びに、黒猫は思わず笑ってしまった。
やはり人間のせいで自分の生は狂わされたんだと、それが間違っていなかったからだ。
「ラック………?」
「ブハハハ―――ッ!!
ははは……、
はぁ、その名前を黒猫につけるお前のセンスは、忘れん。」
川の周りをひとしきり調査した後、桜は橋下にみえる黒猫の姿をみて、右手を頭に添えて敬いを表した。
「あ、ああ、あああ……」
日が差し込み、凍り付いた血管が溶けて、少女の足元を真っ赤に、絵の具を溶かしたように流れていっていた。