其の百三十一 つなぎ

文字数 2,798文字

12月4日

「25区校が全壊した以上、私がこの島に居る意味は無くなった。
この事件を挙げて、実家の長崎に帰ればいい。
………。
そう……、自分の可愛い後輩たちを残したまま。」

避難地区の24区から、25区全体を見渡しながら、大浜ナオミは新聞紙を広げる。

「長崎の70区から、25区校という進学校にやってきて3年が経った。
そのまま勉強しようと思ったら、なぜかバレー部に入ってて、
カズミとアヤカと会ったんだっけ……
懐かしいなぁーー黒猫(ラック)とジャレて、コンビニに行って、お菓子買って、いっしょに帰ったことがもう昔のように思えちゃう。」

ナオミは、ぐっと背伸びして、避難している人々を眺める。

「贅沢よね。寮が無くなったからここにいるだけで、私自身失ったものはない。
………―――。
いや、失っちゃったか。」

そういいながら新聞紙を閉じて、ボランティアを再開した。
もう早妃カズミにも三尾アヤカとも黒猫とも会えない――会わないことを感じながら。




11月1日――『冷夏事件』『奇怪死事件』その他諸々の事件の首謀者である『吉田ミョウ』の死から1ヶ月間が経過した。

25区校は四つの棟並びにホール丸ごと崩落し、全焼した。
その跡地は、いまも黒黒しくゴムの焼けたような匂いが漂っている。
そんな大災害とも呼べる火事に対して、死傷者はごくわずかだった。
突如現れた『福栄シンゾウ』らしき人物・消防警察の誘導により、400人もの生徒は無事に難を逃れた。

久木山レン(ハチミツ)』は肺欠傷におよび肋骨全骨折になるも、万樹の蘇生方法・病院側による集中治療で命を繋いだ。

死者は『雨宿スイ』『吉田ミョウ』のわずか二人だった。



-―――――――――――-―――――――――――
警察本部

「鹿島刑事……、たったいま吉田ミョウ(首謀者)の遺留品検証が終わりました。
結果――『冷夏事件』に関する指示や、日程表がスマホから検出されました。
ですけど……」

三島刑事は、中央の机に座っている鹿島刑事を目に入れる。

あれから一か月が経過した。

首謀者は命を落とした。
事件に関する情報は、首謀者自身のスマホから検出された。

されど事は収まる方向に一直線――とはいかなかった。

「情報は集まった。証拠もそろえた。首謀者は命を落とした。
だが、なにも解決しちゃいねぇ。
なにもわかってねぇ。」

鹿島は苦虫を噛み潰しながら言う。

「吉田ミョウって人間が、
24区校の『宮城キョウコ』とはどういう関係だったのか。
人間を食い殺す『黒豹』とはどこで知り合ったのか。
朱い眼の洗脳人間とは何だったのか。
そもそもあの化け物たちが、なぜこうも人間らしい事件を起こしまわっていたのか。」

「まだ、終わりではないってことですね。」
三島の足に巻かれている真っ白な包帯が血で滲む。

「化け物には『神官(化け物)』をぶつければいいが、
真相を明かさないと警察として事件解決にはならねぇ。
病み上がりで悪いが、お前には人探しをして欲しい。」

鹿島は女刑事のまえに、一枚の写真を提示する。

「名前は『上崎レイジ』
現在はSC(スクールカウンセラー)として25区校の教師をしている。
なんだが、25区戦線のときにこの教師は休暇を取っていた。」

「休暇……、出来すぎですね。毎日出勤している人がその日だけ休暇だなんて。」

「もう一つ、こっちが大事だ。
上崎レイジ――親が転勤族であちこちに引っ越していたらしいんだが、
10年前――福島やそこの地方に住んでいたとわかった。」

「10年前……2011年って、あの、大震災のときに……」

鹿島は立ち上がって、窓のそとの景色を覗きみる。
「そのときに出会った人が『宮城キョウコ』ということもな。」

彼女は大きく見開く。
『自分よりも幸福な人間と不幸な人間が気に入らない』
あの魔女のような尖った声が耳によみがえる。
「あの、女と………!!!」

「関係が無いとは言い切れん。
お前にはこの男を探してもらいたい。
桜刑事には病院内で今一度情報整理してもらっている。
……首謀者は亡くなって危険性は低くなったが、気を付けて行け。」



三島は資料と写真を持って、敬礼をして飛び出していった。


「三島にはその男を。
桜には25区校の生徒関係を。

俺は――3年前、雨宿スイや久木山レンの前に現れたとされる『朱い眼の女子大学生』。
そいつを探すとするか。」


鹿島は白い息を吐きながら、パソコンに向かった。


-―――――――――――-―――――――――――
浅界

地球は冬の寒気に包まれたころ、浅界は春のような空気に溢れていた。
その聖堂のような、教会のような玉座で座りながら、一人の女性が眠気を帯びていた。

「あ……のぅ、シネスティア様……?
今よろしいのですか……?」

「……ん…っ、大丈夫ですよ超鳥。
今回は謝罪をと思いましてね。」

玉座には、小さく縮こまった超鳥と頬杖をついて眠そうにしているシネスティアの二人だった。

(『現実は夢を見た人間の墓場』――雨宿スイという人間の中を覗いたからでしょうか?
身体がやけにだるいですね……。ですが、この言葉がやけに耳に障って不愉快です。」

「ひぇ!!なんか申し訳ありません!!」
彼女の考えが口に出ていたのか、超鳥はさらに小さくなって土下座した。

「……あぁいえ、いまのは私のアレですから。
――呼び出したのは他でもありません。
以前あなたには、不甲斐ない神官と言ってしまいましたが、あれは私の間違いでした。
こちらこそすみませんでした。」

彼女は杖を下ろして、少し頭を下げた。

「と、とんでもありません……。
『多次元』という神官ともあろうものが、不意打ちとはいえ、無様に凍らせちまったのは私の弱さから来てますよ……。」

超鳥はおずおずと、下手に出ながら物を言う。

「24区のことは不問にします。
そこで聞いておきたいのですが、あなたは『宮城キョウコ(あの女)』に対して何を思ったのです?」

急な問いに戸惑いながらもカラスの神官は口を開く

「え……っとですね、あの女もまた目が朱色だったのですが、
あの目は『別次元』のムー大陸に住んでいた種族の目なのです。
白人が白いよう、黒人が黒いよう、その種族は目が朱いことが特徴でした。

それがいまから2万年前の話です。
なにぶん『この次元』のその時代は、原始人よりちょっと進化した程度でしたので退屈だったものですから、ちょくちょく盗み見していたのです。
ただ……そんな途方もない存在が、なぜ今になって現れたのか、どうして小さな離島の教師の目に現れたのかと、一瞬疑問を持ってしまって、それでですね……。
えっと、惑星が敵とか言ったのは、その場の勢いでしたので、」

「その種族は滅んだそうですが、原因は『神』ですか?」

その言葉に、超鳥は荒ぶるように首を振った。

「そそんなことはありません!!
『神』とか『大災害』とかじゃなくて、
『種族同士の戦争』で滅びましたぞ……!!
たしか、1万2000年前に!!」

シネスティアは立ち上がって歩き出した。

「ど、どちらに……?」

「……20区中央病院――『早妃カズミ』に会いにいきます。」

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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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