其の四十一 破戒
文字数 1,367文字
彼はあふれ出る感情を押し殺し、沈黙を維持して聞いていた。
幸い、体育祭の練習が始まったこともあり校舎には何一つ物音がすることはなかった。
「………。」
だからこそ、聞き間違いを起こす要素はない。
「フっ――。」
目の前にいる彼は吐き出すように、鼻を鳴らし目を合わせる。
「お前が――もし本当にそうなのだとして何故、吉田の体を?」
「それはもちろん、そう望んだからだ。」
カップのコーヒーに目を落とす。
波紋が消えては表れ、冴えない自分が映し出される。
「知りたいことはそれだけか?」
確認するようにシンは、吉田に目を合わせた。
「せっかく二学期まで協力してきたんだ。聞けるときは聞いておけよ。」
さながら親のような立場で声を聴かせる。
「そういう約束だったじゃないか?『生徒会長になる、事情を聞かせる。そのかわり七人目として所属、生徒会を組織させる』って。」
吉田は爽やかな笑顔を浮かべている。
その人間味のある顔を見ていると、シンは本当か嘘か分からなくなり戸惑いを覚える。
彼のカップをみるとコーヒーは飲み干されていた。
熱い、苦いといった文句を言わず淡々と喉に入れていた姿は、あれら全ては演技ということの証明になってしまっている。
「まぁ普通人間は生き返らんしな。」
「僕としてはどうして吉田の体で生き返り、去年の冬に何食わぬ顔で学校に登校を始め、生徒会に興味を持っていたのかってことだよ……。」
情報過多なのかシンは机に顔をうずめる。
「そうしたかったってだけだ。……学校には行ってみたかったし、家族がどういうものかって知りたかった。ため息がでたのは私のほうでも同じだったんだぜ。家は無いし、家族は全員死んだし。」
「‼――おじいさんは!?」
「あぁ?記憶のない人間なんて死人と同じだろうが!!!―――」
思うところがあるのか吉田の声は大きくなり、窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げていった。
最後の方は愚痴だった。自分の環境に対して、世界、果ては惑星どうのこうのと。
その姿を見ているとシンとしては寂しさが沸きあがっていた。
吉田とは一年のときに知り合ったが、今とは全く異なるものだった。
シンは陽だった。
吉田は陰だった。
タンとドアを閉めて吉田は出ていった。
カップはおきぱっなし。
椅子はだしっぱなし。
外にでるための無駄な動きは一切せずに。
『どうした?ここがわからないのか?しようがないな~おしえてやるよ。』
昔、自分の吐いた言葉が脳みそを腐らせていく。
「もっと――アイツと向き合ってればよかったな………」
虚空の椅子を見つめて、力なく立ち上がった。
汗はつめたく、
微妙な眠気を感じる。
「お主も、大変じゃな。」
「!?」
ベランダの手すりにラックがちょこんと座っていた。
「ラック、お前……いたのか……?」
「あぁ、気づかなかったか?」
ここに入ったとき、ベランダにも教室にも何も無かった。
壁をのぼってきた?
それはあり得ない。
学校の壁を上ってくるなんて。この教室は3階なんだぞ。
「ここには誰もおらんくなった。お主も早く黄組の練習場所に行くといい。」
「わかってるよ……行ってくる。」
シンもまた教室を出ていった。
名残惜しそうに。
「人間もまた様々――十人十色じゃな。」
黒猫の目が朱くぼんやりと輝いた。
幸い、体育祭の練習が始まったこともあり校舎には何一つ物音がすることはなかった。
「………。」
だからこそ、聞き間違いを起こす要素はない。
「フっ――。」
目の前にいる彼は吐き出すように、鼻を鳴らし目を合わせる。
「お前が――もし本当にそうなのだとして何故、吉田の体を?」
「それはもちろん、そう望んだからだ。」
カップのコーヒーに目を落とす。
波紋が消えては表れ、冴えない自分が映し出される。
「知りたいことはそれだけか?」
確認するようにシンは、吉田に目を合わせた。
「せっかく二学期まで協力してきたんだ。聞けるときは聞いておけよ。」
さながら親のような立場で声を聴かせる。
「そういう約束だったじゃないか?『生徒会長になる、事情を聞かせる。そのかわり七人目として所属、生徒会を組織させる』って。」
吉田は爽やかな笑顔を浮かべている。
その人間味のある顔を見ていると、シンは本当か嘘か分からなくなり戸惑いを覚える。
彼のカップをみるとコーヒーは飲み干されていた。
熱い、苦いといった文句を言わず淡々と喉に入れていた姿は、あれら全ては演技ということの証明になってしまっている。
「まぁ普通人間は生き返らんしな。」
「僕としてはどうして吉田の体で生き返り、去年の冬に何食わぬ顔で学校に登校を始め、生徒会に興味を持っていたのかってことだよ……。」
情報過多なのかシンは机に顔をうずめる。
「そうしたかったってだけだ。……学校には行ってみたかったし、家族がどういうものかって知りたかった。ため息がでたのは私のほうでも同じだったんだぜ。家は無いし、家族は全員死んだし。」
「‼――おじいさんは!?」
「あぁ?記憶のない人間なんて死人と同じだろうが!!!―――」
思うところがあるのか吉田の声は大きくなり、窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げていった。
最後の方は愚痴だった。自分の環境に対して、世界、果ては惑星どうのこうのと。
その姿を見ているとシンとしては寂しさが沸きあがっていた。
吉田とは一年のときに知り合ったが、今とは全く異なるものだった。
シンは陽だった。
吉田は陰だった。
タンとドアを閉めて吉田は出ていった。
カップはおきぱっなし。
椅子はだしっぱなし。
外にでるための無駄な動きは一切せずに。
『どうした?ここがわからないのか?しようがないな~おしえてやるよ。』
昔、自分の吐いた言葉が脳みそを腐らせていく。
「もっと――アイツと向き合ってればよかったな………」
虚空の椅子を見つめて、力なく立ち上がった。
汗はつめたく、
微妙な眠気を感じる。
「お主も、大変じゃな。」
「!?」
ベランダの手すりにラックがちょこんと座っていた。
「ラック、お前……いたのか……?」
「あぁ、気づかなかったか?」
ここに入ったとき、ベランダにも教室にも何も無かった。
壁をのぼってきた?
それはあり得ない。
学校の壁を上ってくるなんて。この教室は3階なんだぞ。
「ここには誰もおらんくなった。お主も早く黄組の練習場所に行くといい。」
「わかってるよ……行ってくる。」
シンもまた教室を出ていった。
名残惜しそうに。
「人間もまた様々――十人十色じゃな。」
黒猫の目が朱くぼんやりと輝いた。