其の八十 役者たち

文字数 930文字

11区の牛神神社――そこは人気のない小高い山にある神社である。周りは放棄された田畑が占めており、それを分けるよう一本の道が舗装されただけの、さびれた場所であった。

「メアリー……女史……」
色素の薄れた瞳を以て桜は、目の前の少女にすがった。
「すみ……ません……。俺…なにも…できなくて……――」
血を吐き出しながらも上体を起こそうとする刑事を、少女は制止してスカートの一部を破いた。

「桜刑事、人間でありながらあなたは『特別措置者(奴ら)』に屈しなかった。その勇姿、私は忘れません。」
そういってメアリーは、桜の切断された左腕に布を巻きつけて止血をし、瓦礫と化した社に体を向けた。

メアリーの背後に、空から駆け下りてきた犬神が地に足を付ける。

「犬神さん。桜刑事を頼みます。」
振り返らずに、メアリーは歩を進めていく。

「俺の生体エネルギーを与えれば、多少マシになる。メアリー、気を付けろ。」






瓦礫の中から、男と女が服をはたきながら、岩やらを踏み砕きながら姿を現した。

「ひでぇことしやがる。そんなヤツに育てた気はないんだがな。」
「あの子が”救済の”?まったく……パーフィット様の台本通りね。これじゃ。」

男は口に溜まった血を吐き出して、メアリーの前にそびえ立った。

メアリーは嘆息ともとれるような深呼吸をした。


4つの朱い目と2つの蒼い目が交差する。



「あんた等が『特別措置者(イレギュラー)』?」

「そうともいえるわね。」

「……そう。何しにこの『惑星(地球)』に降り立った?」

「俺たちの目的は、『地球生命体の殲滅』だ。
虫類、植物、魚類、霊長類――人類もだ。」

「自分の住んでいた星を、自分で壊すというの?」

「私たちは、役者にすぎないわ。台本どおりの動きとセリフ――それ以上のこともそれ以下のことも求められない。死ねと言われれば死ぬし。殺せと言われたら殺す。どんな奴であろうとも。」



蒼い青い空は、重厚で真っ黒な雲に覆われた。

ポツリポツリと生暖かな雫が降り落ちる。




「あっそ。これ以上あんた達と話しても意味は無さそうね。」

メアリーは淀みなく戦闘態勢を取った。

「さて、と。それじゃあ見せてもらおうか。
――かかってこい『救済の代行者』」



少女の足が地面に食い込み

舗装された道路を破壊し

雨を散らしながら、『特別措置者』を殺しにかかった。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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