其の百五十三 虚空の記憶

文字数 1,291文字

「痛ったぁ~……」
土埃を払いながらメアリーは、仰向けのままで手をパタパタとする。
着用している黒スーツにホコリがついているのを、手で払いながらパチパチと瞬きをする。
【黄色】とも【オレンジ色】ともとれる空を覗きながら、一息つき

「なにかわかりました…?」

ルシフェルの考えはバレバレらしい。

「私を馬鹿にしないでください。これでも自覚はあるんですよ。
自分の調子の良し悪しぐらい考えてますし、あなたがそんな変態でないことも。」

ブーティに映る、自分の濁った顔を煩わしそうに思いながら、メアリーはため息をつく。

ルシフェルはコートをなびかせながら、
「フう……単純明快なコトだな。」
コンコンと自分の胸元を小突いていた。


「いまさら――【心】が原因とでも言いたいんですか?」

「だから、単純明快でばかばかしいことといったろ。
いまのお前のままじゃダメなんだよ。全然パワーを出し切れてねぇ。」

メアリーは、煩わしそうに顔をしかめた。

「そんなこと、分かってますよ。
記憶さえ戻れば解決することぐらい…!」

「そこから違う。 
いいか、まず万全な状態は維持できないということを知れ。

そもそも――口では【戦う】といっても心が【戦いたくない】と言ってたら、何もできないことは【普通】のことなんだ。 そういうときは休むことが一番だが。」


彼は咳払いをして、あとを続ける。


「まぁ、お前にとってそれが【許されない】ことだからここにいるんだろうが。
もっとも言えることとしたら、振り切ってしまうことだ。」

「振り切ってしまう――」

メアリーの蒼い目は接着材を付けられたように、動かなくなっていた。

女王(シネスティア)と神官たちは【地球を守るため】に動いている。
メアリー、お前はそれに気を遅らせてしまったんだろう?
自分に対しての価値を無くしてしまうくらいに。」

【名前すら忘れた木偶の坊が。】
先日、女性教師がつぶやいた言葉が彼女の胸を冷たくする。

「よくできた人間は、筋とか、義理とか、論理とかってのを大事にする。
だがよ、それってそんなに大事なことか??」

「………」

「復讐したいからする。殺したいから殺す。守りたいから守る。
とにかくやりたいからやるってことが大事なのさ。
やって気分がいいことを、偉そうに言ってるだけで、全員同じ穴のムジナだよ。」


その言葉は、ほんの少しメアリーの体を軽くしたようなものであった。


「俺の見込み違いでなければ、
記憶を取り戻したお前は、俺ばかりか、
神官すべてを軽くを超えるレベルになるはずだ。」


「わ、わたしが……」
風が、一回強く通り過ぎていく。

「最初は手抜きで作られた代行者と思っていたが、
さっきの手合わせでそんな考えは無くなった。

単純明快で【見事】な方法だ、千流のやつめ。
お前の状態と事情を熟知したからこそ、記憶を封じたんだ。

【不安定な精神】が代行者にどのような作用をもたらすか、
あの千流でも計り知れなかったんだ。」


ルシフェルは後ろを振り返った。
周囲の花々が風になって、空に舞い上がった。

メアリーは蟲を食べているような、苦い顔をうかべながら、すがるように手を胸に当てた。

「近いうちに見せてくれよ。
【本当のお前の本気の凄さ】ってヤツをな。」

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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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