其の百四十三 宮城キョウコと黒猫

文字数 1,868文字

11区 深夜4時

「ル、ルシフェルさん……!いま通っていったのって……!?」

「あぁ…、24区に現れたっていう【黒豹】だろうな。」

鹿島刑事の頼みによって、11区の偵察に来ていた【ルシフェル・ミラ・イース】と【メアリー】は、スマートフォンで、戦車や銃火器などの撮影を行っていた。
そんなとき、視界の端で朱いラインが描かれたのに一瞬で気づいたのだ。

「あっちの橋の方に向かってましたよね!?
あそこってたしか……!」

「【宮城キョウコ】の気で間違いないだろう。」

2人は月に照らされた川の上をフワフワと、宙に浮かびながら戦慄していた。

メアリーは眉間にシワを寄せながら、すがるような顔でルシフェルを見る。
彼は冷静な面を保ったまま、スマホをポケットにしまった。

「追おうか。」

「はい……!」


-―――――――――――-―――――――――――


24区 避難キャンプ

「あれ?黒猫(ラック)?」

違和感を覚えたのは【大浜ナオミ】だった。
寝るときはいつも寝袋に入っているのに、その日はどこにも姿を表さなかったのだ。

仕方なく、重い瞼をこすってテント外に出る。

「どうしたんすか、ナオミ先輩?」

「わ、ミナコちゃんか。
実はラックがいなくって。」

「ラック?
あぁ、25区校で飼ってたっていう片目がつぶれた黒猫すね。
あ! たぶん魚スポットに行ったんすよ。」

指をパチンと鳴らして、有喜ミナコはどや顔する。

「さかなすぽっと?」

「そうですそうですそれに違いありません。
最近、【堺キンノスケ】が寒中水泳だーーっていって【川原ケンジ】と【黒猫】を連れまわしてましたから。
魚いっぱいとれるようで。」

「ふぅ……っん、とこでミナコちゃんはどうして外にいるの?」

「うちすか、そりゃあオシッコのためすよ。
こんな夜更けの時間に女があるくのってそれくらいじゃないすか。
いや、ほんと、いっぱい出――」

「もう怒られそうだから喋らなくていいよ。」


-―――――――――――-―――――――――――

11区 桟橋

橋の両端で3つの朱い目が交わった。

(うわッ!黒猫のやつこの前とムードが全然違いますじゃ)
タコ坊主が目を開いた。



「よく来たわね、歓迎するわ。」

流れている川の音だけが木霊し、周囲にいる朱の者たちはザワザワと浮足立っていた。

「リーダーである【吉田ミョウ】が死んだ以上、私たちで行く先を決めないといけないわ。
【惑星崩落】か【別の道】か、ね?」

宮城キョウコは不敵ににやける。
黒猫は、残っている右目を開くのみである。

「どっちにするか強制はしないわ。
――私がいつかあなたにいった言葉を覚えている?【海の飲みかたを知っているか】って。
こうやって偉そうなことを言っているけど、私も下等生物であるあなたと変わりはないわ。
どうして【朱】になったのか、自分の欲を満たすためだけってのはね。
でも、【なんのために】そうするかってあなた達考えたことないでしょう??」

わざとらしく誇張されるイントネーションに、黒猫の顔が険しくなっていく。

「か弱い人間が世界の頂点に立った理由が分かる?
力だけが取り柄の野生動物や【家畜・畜生】が持っていない【想い】があるからよ。ただ生きてるだけのあんた達と違ってね。」

「…………。」

「私は【想い】を以て、吉田についたの。
同情を買われただけの【畜生】と違ってね。」

舌の根が渇く勢いで宮城は喋り倒す。
黒猫は身動きせずちょこんと座っているだけである。目がキラキラと朱く光っている以外は。

「ワシは、人間を駆逐するつもりだった。」

「へぇ……。」

「そのために無関係な人間も食い殺した。
嫁との約束を破って人を殺し、ナオミ達との関りで殺す気も無くなった。
もう猫でもなんでもない。ほんとうの自分すらも見失った、ただの化け物じゃ。」

黒猫の骨格が音をたてて変形し始める。
抱きかかれるサイズは瞬く間に、2,3メートルの黒豹に成りあがる。
満月に照らされて。黒い体毛は、白く光沢をまとう。



「だが、貴様らに協力してきたこの愚命1つで地獄には行かん。
貴様ら全員、道連れじゃ――ッ!!」



黒豹の口から、体内から赤く炎のように灯されていく。

決裂した雰囲気は自明だった。

宮城は口から牙を見せるように、これ以上ないくらい口端が上げていった。
地面に残っている水たまりが、薄く氷を張っていく。

(ほんっと動物に生まれたら人生楽なんでしょうね。)
「始めにいっとくけど、私はこれがバトルだなんて思ってない。
【想いを紡ぐ人類】と【ただ生まれただけの獣】、その違いを、

あなたに教えてあげる。

これは授業(セミナー)よ。」



…………。

………………。


アスファルトにヒビを入れて、黒豹は空中を駆けた。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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