其の三十七 どうしてお前らが死ななかった?

文字数 1,474文字

 コンビニの中に、慌ただしく女子生徒が入り込んできた。
 「す、すいません――!だ、誰か、きてくれませんか!?」
 そのただならぬ気配に、店内にいる客、店員ともに体を強張らせた。
 「いま、さっき、男の子が、ふ、不良につれていかれて、」
 息切れと焦りが混ざりながらも、口だけは動かす生徒。
 しかし店員も客もどうするべきかと、頭と目を動かすだけで体は動かさない。
 (どうしよ、どうしよ、どうしよう、ほかにだれか――)
 店員たちへの期待を捨てて、外にとびだし頼りになりそうな人を探す。
 車が次々に通り過ぎるたびに、焦りを募らせていく。
 生徒が泣き出しそうな顔をうかべたとき、
 「あーー、嬢ちゃんどうしたのかな?」
 ネクタイを締め直す、黒スーツのオヤジが大股で歩いてきていた。


 不良の一人は電信柱に寄っかかって、リーダーの姿を凝視していた。
 「ガッ――わ、わるかった、おれたちが悪かった……。だから、たすけてくれぇぇ――」
 コンクリートの壁に足で押し付けられ、左手首は電池が切れたようにグニャグニャと波を立てている。
 「ぼくはね、」
 少年は、緑髪の瞳をとおして遠い場所を覗きみる。
 「三人――いや四人の中で最も弱かったんだよ。」
 木箱が音をたてて崩れた。
 「だから、いつも僕は泥まみれになった。」
 少年は足を、腹につき立て直す。八つ当たりの様に。
 ぐえ――潰れたカエルみたいに唾とタンが噴き出る。
 「でも、僕はお姉ちゃんに憧れてた。セーラー服をまとって如何にも『女の子』って感じなのに、強くて、何より綺麗だった。」
 前兆なく、少年は不良に目を移した。
 ブタの様に、喘ぎながら足早に去っていく。
 「『強さを以て悪を挫き、誇りを以て生道を歩み、魅力(カリスマ)を以て先導する。』――これがお姉ちゃんの口癖でね。僕達は毎日毎日、泥まみれ、血まみれになりながら戦い合った。痛かったさ、……いつも泣いて帰ってた。」
 未だに、少年は瞳の奥を覗く。自分をみているのか、それとも過去をみているのか、共通することは見ることの敵わないということ。
 「でも楽しかったんだ。お姉ちゃんをリーダーとして僕たちは、戦い、探検し、そして思った。明日は何をするかってね。――11年前までは。」
 怒りを多分に含み、肺を震わせながらため息をつく。
 「お姉ちゃんは行方不明になった……。そして――そして!!!おじちゃんもおばちゃんも死んだ!!!!」
 感情のままに、本能まま踏み続ける。
 「残ったのはカズミちゃんだけだ!!あぁぁ!?なぜこうなりやがる!!」
 内臓の感触が靴ごしに伝わる。
 「あの人たちの代わりに死ねばよかったんだ!!」
 緑髪は瞳を消していった。
 「息するだけで価値の無いお前らが死ねば良かったじゃねぇか!!誰も悲しまずに済むってのにッッ!!」
 緑髪の口からの液体は透明ではなく、いつしか赤いシャボン玉に変わっていた。


 糸の切れた人形のように、緑髪はうつ伏せに倒れた。
 グレーの地面を血液で色替えをしている。
 「―――――」
 不良たちはたおれ、スイの乱れた呼吸だけがその場の空気を動かす。
 ――――
 ――――――
 ………。
 不意に、スイの背中に大きな手が置かれた。
 「雨宿のボウズ、そこまでにしときな。」
 スイを責めず、冷静な眼差しでオヤジは声を掛けた。
 「ハ――はは、

――。」
 嘲笑って、スイはあたりを見渡した。
 女子生徒が路地裏の入口で、立ち尽くしていた。
 手持無沙汰な口はパクパクと動くだけだった。
 その目は、少年と刑事と右下の朽ちた木箱を行き来するだけであった。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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