其の三十六 八つ当たりもまた必要かと

文字数 1,272文字

 夕方の退屈な誘いを断り、スイはコンビニへと足を運んだ。
 一学期と変わらぬ形。
 まばらに車と人が入り込みながら、店を訪れる。
 訪れた理由は不明。
 何かを確認したかったのか。
 何か安心感を得たかったのか。
 「や、やめて、ください……!」
 ふんわりとした空気に、聞き覚えの無い声が張り詰めていくのを、スイは感じた。
 「なぁなぁ、お嬢ちゃん。オレたちゃあちょっとだけ、時間を取ってくれるだけでいいんだぜ?」
 けひひと、下卑た笑いが、スイの心情をべったりと赤く染めていく。
 「だ、から、嫌と言ってるじゃないですかッ!」
 「そうつれねぇことを言うなよ~~、俺ら五人とちょっと遊んでくれればいいだけなんだぜぇぇ~~」
 不良グループのリーダーと思われる緑髪が、女子生徒の二の腕を無理やりに掴みかかった。
 げひゃひゃひゃっと祭りのように、周りの男たちは騒ぎ立てた。


 「あん、俺ちゃあ、この女に用があるんだがッ」
 「ヒッッ――」
 「………。」
 スイと生徒を委縮させるためか、緑髪はオオカミのように吠えたてた。
 掴まれた震えている左腕から、染み込んだ瞳から、生徒が『怖がっている』という状況は、スイを激情に駆り立てていった。
 『あの日の光景』もまた油として注がれていく。
 コンビニの玄関口でまとまっている虫たちに、餌をあたえる感じでスイは話した。
 「なぜ、あの大事件のとき、お前たちのような、低俗な輩が死んでくれなかったんだ?」
 その言葉に、生徒しか見てなかった男たちは一斉に目を向けた。
 「あ?てめぇ、俺らに喧嘩売ってんのか?」
 「あーほんっとに、お前らが死ねば良かったのにな。」
 他人の言ったこととだが、生徒は息をのんでスイを見つめている。
 頭に包帯をまいて、
 片腕はギプスで固定されて、
 顔にはシップを張られて――
 生徒にとって、スイの助けはあまりにも、頼りがなかった。
 「言ってくれるじゃねぇか、女々しいガキが!!!」
 場を支配するためか、生徒を突き飛ばし、緑髪はスイの胸倉をつかんで怒号をあげて、拳を振り上げた。
 「いいのか?」
 「!?」
 「ここじゃ目立つ。人気のないところが思い切りやれるだろ?」
 さらに挑発するように、一人一人の目を見ながらスイは提案する。
 「ヒュー、いいぜ、望み通り路地裏にいこうや。」
 不良たちは、確信を得たのかスイの腕を掴んで、路地裏へと連れ去っていった。


 「あ――、ど、どうしよ―、だ、だれか――」
 一人取り残された生徒は、自分を助けてくれた人の安否が気になり、震える身体を押さえながら店内へと入っていった。
 背景は、場違いと言えるくらい、雲一つないぼんやりとした綺麗な夕張を展開していた。


 「けひひ、さぁ、勇者様の言う通りに路地裏にやってきたぜ~~」
 不良が獣のように、高笑いを続けるなか、スイは緑髪の手首をつかんだ。
 「そうそう、せいぜい楽しませてくれよ~~」
 自分たちが負けるはずはなく、弱者をいたぶる楽しさをしってる不良は、その真っ白な手首を面白がって見ている。


 ぱきんっとクルミが弾けたような、空っぽな音が響いた。


 
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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