其の二十二 七夕より四日後
文字数 1,163文字
音楽室から不協和音が、世界に向けて轟く。
その音は音程もデタラメで、リズムも壊滅的だった。
「――っ、っ――っ――」
バイオリンを手に汗をにぎながら、吉田は演奏を続けた。
「くっそ、楽器ってのは難しいもんだな……」
「当たり前だ。そんなぽんぽんとできるわけないだろ。」
監督役は堤ヨウ。実のところヨウはバイオリンの元演者だった。
「なぜ、突然…楽器を弾こうと思ったんだ?」
「さぁ――、ただ何か違うことをやってみたかったってのはあるかな。」
持ち直しながら吉田は返答する。
「それに、夏休みも近くなってる。その期間に弾ければいいかなって。」
そしてまた演奏する。鼓膜を割く音が響き渡る。
(今日は7月11日、夏休みまであと二週間か……)
苦戦している吉田を目に、ヨウは窓の外を見据える。
緑の葉がゆさゆさと揺れて、蝉の鳴き声も微力ながらに夏を思わせてくれる。
「――違う。もっとこう~~~って持て。そして、ゆっくりリズムを意識しろ。」
鼓膜がビリビリと軋みながらも、ヨウはこの時間が楽しく思えていた。
生徒会室には三人の生徒がいた。
長身の魅惑的な男子生徒。
中性的な男子生徒。
髪をほどいた女子生徒。
三人はそれぞれ書類整理だの、レポートだの役割をこなしていた。
「アヤカちゃん、髪結ばないの?」
不意にスイが問う。
「うん、もともとはこっちの方が好きでね。」
似合ってるぅーっとスイは感嘆する。
「すみません。最近は気分が優れず仕事ができませんでした……、だから――」
突然の宣言じみたアヤカの言葉に、ハチミツが待ったをかける。
「アヤカ――人間の『苦悩』は
「ぇ――?」
「そうだよアヤカちゃん。それは同じ役員として、気付かなかった僕たちにも非はある。君だけのせいじゃないよ。」
二人は体をアヤカに向けて静かに告げた。室内でさえ絢爛にさせるほどの夕日が二人の背を照らす。あまりに眩く目を薄めてしまう程に。
「っ――、あ、りがとうございます!!」
アヤカは叫び交じりのお礼を言って、乱雑に資料を掴みとって顔を伏せた。
耳が真っ赤になった彼女を、二人は安心した表情で顔を見合わせた。
そうして順当に、仕事に終わりの兆しが見えてきたとき、
コンコンと空虚なノックがされた。
「会長かな?どうぞー。」
調子を取り戻したアヤカが、凛とした声で言う。
スイもハチミツも、元気に彼女が対応してくれたため、特に気には留めなかった。
「ぁ――」
大窄カイが入室してくるまでは。
その音は音程もデタラメで、リズムも壊滅的だった。
「――っ、っ――っ――」
バイオリンを手に汗をにぎながら、吉田は演奏を続けた。
「くっそ、楽器ってのは難しいもんだな……」
「当たり前だ。そんなぽんぽんとできるわけないだろ。」
監督役は堤ヨウ。実のところヨウはバイオリンの元演者だった。
「なぜ、突然…楽器を弾こうと思ったんだ?」
「さぁ――、ただ何か違うことをやってみたかったってのはあるかな。」
持ち直しながら吉田は返答する。
「それに、夏休みも近くなってる。その期間に弾ければいいかなって。」
そしてまた演奏する。鼓膜を割く音が響き渡る。
(今日は7月11日、夏休みまであと二週間か……)
苦戦している吉田を目に、ヨウは窓の外を見据える。
緑の葉がゆさゆさと揺れて、蝉の鳴き声も微力ながらに夏を思わせてくれる。
「――違う。もっとこう~~~って持て。そして、ゆっくりリズムを意識しろ。」
鼓膜がビリビリと軋みながらも、ヨウはこの時間が楽しく思えていた。
生徒会室には三人の生徒がいた。
長身の魅惑的な男子生徒。
中性的な男子生徒。
髪をほどいた女子生徒。
三人はそれぞれ書類整理だの、レポートだの役割をこなしていた。
「アヤカちゃん、髪結ばないの?」
不意にスイが問う。
「うん、もともとはこっちの方が好きでね。」
似合ってるぅーっとスイは感嘆する。
「すみません。最近は気分が優れず仕事ができませんでした……、だから――」
突然の宣言じみたアヤカの言葉に、ハチミツが待ったをかける。
「アヤカ――人間の『苦悩』は
相対的
に測らないといけないのよ。絶対的
に測ったら『苦悩』を比べる度し難い生物になってしまうわ。――あなたの『苦悩』は、個性を見失うほどに大きなものだったのよ。あたし達はそのことに気づけなかった……。いつもの通りでいいのよ。アヤカはもう、頑張ってたじゃない。」「ぇ――?」
「そうだよアヤカちゃん。それは同じ役員として、気付かなかった僕たちにも非はある。君だけのせいじゃないよ。」
二人は体をアヤカに向けて静かに告げた。室内でさえ絢爛にさせるほどの夕日が二人の背を照らす。あまりに眩く目を薄めてしまう程に。
「っ――、あ、りがとうございます!!」
アヤカは叫び交じりのお礼を言って、乱雑に資料を掴みとって顔を伏せた。
耳が真っ赤になった彼女を、二人は安心した表情で顔を見合わせた。
そうして順当に、仕事に終わりの兆しが見えてきたとき、
コンコンと空虚なノックがされた。
「会長かな?どうぞー。」
調子を取り戻したアヤカが、凛とした声で言う。
スイもハチミツも、元気に彼女が対応してくれたため、特に気には留めなかった。
「ぁ――」
大窄カイが入室してくるまでは。