其の五十 冷夏事件、及び――
文字数 1,337文字
「なぁ、言っただろ?ナナは意識してるって。」
「ッ、あぁ、まったく驚きだよ。」
宙に浮いているバレーボールをソウマは打つ。
「だけど、雨宿さんだったら、文句なんてないよ。カッコいいもんなあの人。」
ダムンと壁に当たったボールが跳ね返ってきた。
「ふぅ、食後の運動にはなったんじゃないか?ミナコ。」
「あぁ、おかげで目が覚めた。文化祭のためとはいえ、料理を覚えるのはたいへんでな。」
そうして二人は体育館に散らばったボールを片付け始めた。
同じころ、諫早ナナは教室のまどから晴れ晴れとした空を見ていた。
硬い笑みを浮かべながらも、
自らを落ち着かせようと、指で胸を撫でていた。
「ふふ。なんかちょっとくすぐったいな。」
呼吸を整えて、その白くきめ細やかな指を机に乗せた。
「刑事さんも来るといいんだけれど……。」
45区 警察本部
刑事課
寒気すら覚える人気のなさと、真っ白な壁と床が、日光を乱反射させゆくなか、
会議室であろう大扉のまえに看板がそっと立っていた。
『冷夏事件・猟奇的連続殺人事件 対策本部』
「全員揃ったな。三島、始めてくれ。」
鹿島の声を合図に、三島というスーツを着た女性が前と進み、小さなリモコンを持って司会を務め始めた。
「8月13日、突如として仕掛けられた大虐殺 ――冷夏事件。私が言わずとも、諸君には無念さ極まる事件だろう。当然私もその一人だ。この資料をみているだけで、はらわたが煮えかえる気分になる……!!」
ガンっと鈍い音が響いたあと、三島は
「失礼――。資料は見ての通り犯行中に取られたものだ。私たちに託すため様々な人が撮影してくれたらしい。」
資料の写真は事件の凄惨さを物語る。
下半部が潰れて、穴という穴から血を噴き出した男性――
子供を庇ったのか、背中に何発も銃弾の跡がある女性――
暴走車に押しつぶされたのか、体全体がペチャンコになっている男児――
どこか、遠いところに逃げるように背を向けて転がっている女児――
二人仲良く、壊れないようにそっと置かれている老夫婦――
いずれも刑事たちの怒りを――無念さを引き立てるのは自明の理だった。
「このパニック状況だ。犯人と思われる証言も多数あるが、どれもバラバラだ。ただ――」
一呼吸おいて
「朱い二つの目。」
薄紅の空の下
炎が辺りを抱き込む中
人々が逃げまどい、泣き叫ぶなか
『それ』は意図的のようにカメラ目線に、朱い瞳をぎらつかせていた。
「見ての通り、この朱い目しかはっきり映ってはいないが、犯人には間違いない。綿密に調べてみると、カラーコンタクト等によるものではない。
静聴している刑事たちと目を合わせながら、三島は続けいく。
三島が降壇したあと、彫刻のように硬い表情を刻んだ鹿島が口を開いた。
「冷夏事件が最重要捜査にあたるわけだが、」新人刑事と三島に目を合わせて、
「この事件に
資料をめくる音が、いやにうるさく聞こえてくる。
「おそらくは、人間ではない。
「ッ、あぁ、まったく驚きだよ。」
宙に浮いているバレーボールをソウマは打つ。
「だけど、雨宿さんだったら、文句なんてないよ。カッコいいもんなあの人。」
ダムンと壁に当たったボールが跳ね返ってきた。
「ふぅ、食後の運動にはなったんじゃないか?ミナコ。」
「あぁ、おかげで目が覚めた。文化祭のためとはいえ、料理を覚えるのはたいへんでな。」
そうして二人は体育館に散らばったボールを片付け始めた。
同じころ、諫早ナナは教室のまどから晴れ晴れとした空を見ていた。
硬い笑みを浮かべながらも、
自らを落ち着かせようと、指で胸を撫でていた。
「ふふ。なんかちょっとくすぐったいな。」
呼吸を整えて、その白くきめ細やかな指を机に乗せた。
「刑事さんも来るといいんだけれど……。」
45区 警察本部
刑事課
寒気すら覚える人気のなさと、真っ白な壁と床が、日光を乱反射させゆくなか、
会議室であろう大扉のまえに看板がそっと立っていた。
『冷夏事件・猟奇的連続殺人事件 対策本部』
「全員揃ったな。三島、始めてくれ。」
鹿島の声を合図に、三島というスーツを着た女性が前と進み、小さなリモコンを持って司会を務め始めた。
「8月13日、突如として仕掛けられた
ガンっと鈍い音が響いたあと、三島は
自分の手
を無視してサラリと続ける。「失礼――。資料は見ての通り犯行中に取られたものだ。私たちに託すため様々な人が撮影してくれたらしい。」
資料の写真は事件の凄惨さを物語る。
下半部が潰れて、穴という穴から血を噴き出した男性――
子供を庇ったのか、背中に何発も銃弾の跡がある女性――
暴走車に押しつぶされたのか、体全体がペチャンコになっている男児――
どこか、遠いところに逃げるように背を向けて転がっている女児――
二人仲良く、壊れないようにそっと置かれている老夫婦――
いずれも刑事たちの怒りを――無念さを引き立てるのは自明の理だった。
「このパニック状況だ。犯人と思われる証言も多数あるが、どれもバラバラだ。ただ――」
一呼吸おいて
「朱い二つの目。」
薄紅の空の下
炎が辺りを抱き込む中
人々が逃げまどい、泣き叫ぶなか
『それ』は意図的のようにカメラ目線に、朱い瞳をぎらつかせていた。
「見ての通り、この朱い目しかはっきり映ってはいないが、犯人には間違いない。綿密に調べてみると、カラーコンタクト等によるものではない。
裸眼
であることが確認できた―――」静聴している刑事たちと目を合わせながら、三島は続けいく。
三島が降壇したあと、彫刻のように硬い表情を刻んだ鹿島が口を開いた。
「冷夏事件が最重要捜査にあたるわけだが、」新人刑事と三島に目を合わせて、
「この事件に
合わせるように
、薬、賭博、闇金など、いわゆる暴力団組織、を狙った猟奇的殺人事
件
も起こっている。」資料をめくる音が、いやにうるさく聞こえてくる。
「おそらくは、人間ではない。
肉食動物によって起こっているものと推定している
。」