其の六十 生きるべき理由なんていらないの

文字数 1,197文字

動機――そのようなものわしは覚えておらん


「泉いいぃぃぃぃい!!!」
「ゲンジいいいぃぃぃ!!!」
ガチンっと
二人の口からルビーのような硬い血がこぼれおちた


そんなもんだ。誰も自分が『何故こうしたのか』と覚えている者はおらん


「あっはははは!!蹂躙よ!誇り高き蹂躙よ!!!」
メイクをした男は和気あいあいと
血を流しながら、10人ぐらいのヤクザ集団に突っ込んで行った。


ただ『取るに足らないモノ』に惚れて、そこにそれっぽいメッキを張り付けてるにすぎん


「フッ! ハっ!! 大丈夫?立てるか?」
中性的な少年は適格に相手の急所を突き
倒れている学生に手を差し伸べる。


なんだ?お前の胸に巣食っているもの(なやみ)はそれだったのか?


「怪我してるものは下がれ!動けるものは先輩方をサポートしろ!
隊長には手出し無用だ。

――行くぞ!無茶はするなよ!!」
副隊長は泥だらけながらも滑らかに指示を下す


当然だな。お前はまだ18歳のガキ、悩むなという方がおかしいものか。


「が、ああああAAAAAAAッ!!!!!」

バきん

折れた鉄パイプの切っ先が
空中に弧を描いて
地面に突き刺さった。



無理に動機をつくる必要はなかろ
生きる理由なくとも、死ぬ理由もない
線路にのってただ生きていければよいではないか


――――――――!!!!!!!!
ヤクザのボスは地に伏せた。
隊長は勝利の雄たけびをはちきれんばかりに吠えた。


そうですよ。私と違ってあなたはまだ生きている
死者からすれば『命』をもってるだけで、限りなく嫉妬してしまうんですから


隊長にあわせて、副隊長も隊員たちも
天に拳をつきだして、赤子のように叫び始めた。
そんな中、二人のOBはどこか遠い過去を想い出していた。


「……………」
観戦者はついにその場から動くことなく見届けるまで至った。
学生軍団の遠吠えを聞きながら
ポケットの煙草を見つめて、そして空想した。

背中を任せられる先輩がいて――
自分を慕ってくれる後輩がいて――
己とともに戦ってくれる友人がいて――

そいつらといっしょに吸う煙草はどんな味なのか。
彼は何も知らなかった。


そんな顔しないで。カワイイ顔が台無しになってる。
………
わたしの上着、そんなに気にいっちゃったの?
仕方ないわね
上着の代わりにこの

をあげます
いつか返しに来てくださいね。
それお気に入りなんですから。


ガールズトークは終わったか?では行くぞ。
……ったく会ったときは生意気娘っだったとけ、別れ時にはしおれおって。
………
生きる理由などいらんそれこそ―――

「『無題』……」

その言葉を忘れるな。
であればわしらが束の間の仲間だったという証明になるだろ



[大学はどこに行くか決めたの!?]
少女は母からのメッセージを泥を飲む思いで開いた。



救いを与えるよう慈愛の月光はより一層強くなる



午前3時30分
真夜中の町はずれで

煙草を持った孤独な少年は

スカーフを握った涙の少女は

鈍い光を求める虫のように

いたたまれなさに支配されていった。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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