其の百二 女は彼より夢を見る

文字数 2,089文字

「儂は強制掃討を提案したはずだが?」

艶と光沢が交じり合った美しき鶴は、眼のまえに座っている亀を睨め付けていた。

全てを飲み込むような瑠璃色の瞳を以て。

「今回の異変は限り無く透明な問題だ。
誰が敵で誰が内通者なのか分からぬ以上、儂らだけで行うべきだと言ったはずだぞ!!」

ピシっと窓ガラスに亀裂が入った。

亀は微動だにしない。

「貴様とて理解しているはずだ。
我らの敵は一歩対応をしくじれば、生命体どころかこの惑星ごと崩壊する危険性があることを!!
そうなれば我らの完全なる敗北を喫することになるぞ!!
この二十一世紀に!!!」

「お前の言う事はもっともだ。千流よ。」

火山のように激昂する鶴とは対照的に、万樹はどこまでいっても余裕のある大海のような瞳を浮かべた。

「お前の言う通りだ。わし等(神官)の最低ラインはこの


生命体が滅ぼうと星さえ残っていれば文明の再起は可能。
強制掃討を行っても五島という小さな島では大した足かせにはならん。」

亀裂の入ったガラスから、一欠けらの粒が落下する。

「だが、大儀を掲げて命を巻き添えにすることは許されるのか?」

「っ――」

「何十億年まえから神官というのは、【特別措置者】と戦い続けた。
あの死闘が星を維持するためだけとは、とても思えん。

今を生きる生命がいることが、脈々と受け継がれる神官の魂だと、儂は感じてしまうのだ。」

「甘いヤツだ………」

「【救済の】と

のは誰だったかの。

それに儂らの問題を聞いた上で協力をしてくれた人々もおる。
彼らの言い分を聞くのは筋というものだ。

もし、取り返しのつかない事態になったら、命を賭けても治めに行くよ。」

それきり二人は口を開かなかった。

ただただ下界を映す水晶玉に、視線を注ぐだけであった。



「来い!!こいこいこいこいぃぃぃいいい!!!!!」

星空を彗星のように駆けずり回る黒鳥を、
見逃さないよう目で追いかけながら女教師は身を固める

「超鳥ぉぉおおおお!!!!」

瞬きくらいの隙間時間――
蒼い閃光とともに大通りから直線300メートルの住宅街まで大地が抉り出され建物が瓦礫と化した。





「ゴホ、ごほ……」

ほんの一瞬だった。防御がわりに腕に冷気を纏い全力でガードした。

「ぺ……」
それも無駄だったらしい。氷どころか左半身の皮膚は全部持っていかれてた。
教師としての服もビリビリ。




「アレを喰らって死なぬとはな。」
奥の方から瓦礫を踏み砕きながら、夜の闇から浮かせた蒼い眼をぎらつかせる。

「あっははははは!!そんなやわじゃないわよ。

女ってのは頑丈なの。」

砕けた氷を改めて新しく冷気を纏う。腕だけじゃなく、次は左半身を丸ごと。
より硬く、より冷たく、より美しく洗練された氷を。
プラスアルファに左手に刀を思わせる刀器を作り上げる。
(難しいわね。この力。)



痛み。痛みこそが己と現実を繋ぐ針の役割。



「よし!!次はこっちの番ッ!!」

砂利と砂とガレキを吹きとばしながら、キョウコは一瞬で姿を消した。

(速い。
生身の人間ではありえない速さだ。)

ち―……チチ……物が掠るような音が周りから発声し始める。

(この音からして、儂を囲むように動いておるな。
だが……!!)


金属をぶつけたように、火花を散らばった。


「あら♡遅かったかしら?」

「人間にしてはありえんだけだ。」

翼が氷刀を受け止める。

「なら、もっと速くいくわ。」
粘液を思わせるような唾液に浸された唇を動かして言った。

「それができればな。」


そこからは変に小細工はせず、正面からの切り付け合いがはじまった。

「えい!!っっやぁぁああ!!!」
素人のような気合声。
それとは裏腹に、切り付けられ掠ったガレキはそこから、白く凍っていく。

「フん。――っ甘い!!」
鉄の壁を思わせる翼で、はたきそして、彼女を打ち落とす。


氷刀は刃こぼれする間も無く再生し続ける。


だが、そんな特殊な力だけであり、超鳥にとっては何の脅威も無かった。

「ガッ――ッああぁぁああ!!!」
頭を、顎を翼で打撃されて、女は後方へと吹っ飛んで行った。

現在、氷を使う点と異常な身体能力ってだけでそれ以外は人間である。

よって、全力を出せば彼女の体を真っ二つにすることはできた。
だが――【それ以外は人間】というのに違和感を覚えていた。

「まだ、まだぁぁああ!!!」
女はまた突っ込んでくる。

(そこなのだ。冷夏事件であれ何であれ、
惑星を崩壊させる危険性の彼らが本当にこの程度か?)

「グッああぁぁ……」
翼がみぞおちにめり込み、女は激しく嘔吐した。

そう。
別の次元を確立し警察と協力し、目標(宮城キョウコ)を安全に確実に殲滅するための作戦を起用した。

尚且つ、住宅街ということもあるため2つの警察隊と1000羽の眷属を率いて有利なフィールドを生成した。


「けほ、けほ、つわりを思い出したじゃない。

どうしたの?私はまだ死んでないわよ!」
またしても左手の氷刀を再生成した。


違和感。翼と保険として足の爪に戦闘の意志を伝える。
ここまで用意周到にした直感的本能、それをそのまま音の形にする。


「何を狙っている?」


この道を選んだのは私。夢より現を選んだのは私。彼より自分を選んだのは私。

『君のことを愛している。』

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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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