其の五十三 ナオミとメアリーと千流

文字数 1,080文字

 ナオミは困惑していた。

 この真夜中に、建物も何もない港に、

 制服を着た少女から声を掛けられるなど、微塵も思ってなかったからだ。
 (男からだったら、何回もあったけど。)

 「そうよ、ここは丸木港だけど。

 ……どうしたの?こんな夜中に?」

 少女は表情を変えずに、
 「ここで待ち合わせしてるんです。」

 そう言った後、ナオミの後ろからペタペタと近づく影があった。










 ふん、と勢いのある鼻息をし『鶴』は打ち付けるように発した。
 「メアリー、遅いぞ。集合は5分前行動を意識せよ。」

 夜中でありながら、

 月光の光を柔らかく抱きしめた、

 その艶やかな羽毛を煌めかせながら鶴は彼女たちに近づいた。

 「ハッ!申し訳ありません!千流様!!」

 少女は、従者のようにスムーズにひざまづいた。

 「亀が言ったように儂らに『様』はつけんでいい。

  ――お前は任務を果たせばそれでよい。」

 「ハッ。分かりました。」

 (なんでこの鶴、こんなに偉そうなのかしら?)
 ナオミはこの緊迫感のなか、あほっぽい疑問を思っていた。

 「そこな女。」
 「え、女?」
 「少なくとも、お前よりは偉い。」
 「ほんとに偉そうね……!この鳥は――」
 引きつった顔でとびかかろうとするナオミを、少女は羽織いじめで止める。
 「やめてください。そのお方は、その、すごく偉いので。」

 納得はいかなかったが、少女から抜け出せなかったため、ナオミは諦めた。

 「離して。

 はぁ、あたしより幼いくせに力は強いのね。」

 「………」


 千流は鋭い目を向けている。

 表情は変わっていない。

 「遅れてすみません、千流…さん。

 今日は、この辺りの調査ですか?」

ナオミは不貞腐れたように、スマホに目線を向けている。


 「うむ、24区~29区。この辺りを調べるつもりだ。

 『特別措置者(イレギュラー)』。

 警察、消防らの人間が『朱い目』を探していることから、間違いなくヤツだろうな。」

 メアリーは押し黙って耳をすませる。

 「『冷夏事件』といったか。

 ヤツが

を使えば、そこに何らかの痕跡は残ったはずだが……。

 わざわざ回りくどい手法を取った意味がわからん。


 今、儂らにできることは地道なことだが、調べることだけだ。」

 こくんとメアリーは頷いた。




 「あのー…。」

 ナオミは間を図ったようにおずおずと声をだした。

 「なんだ。わしらは行かねばならんのだが。」

 「さっき、24区~29区を調査とかって言ってましたよね?」

 「それがなんだ。」

 【一通のメッセージが届いてます。】
 スマホの画面は誰の目にも触れず、彼女のポケットの中で静かに消えた。

 「あたし、案内、しましょうか……?」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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