其の七十八 11区から……

文字数 1,686文字

五十ノ島――吉田ミョウらたちが過ごす島。1~~50区に分けられた区域構成となっている。

別名――五島

その一つ11区は、24区、25区など高校がある区に比べると田舎じみた場所になっている。

辺りを見渡せば田んぼばかりで、水たまりが太陽を反射し続けている。

商店街どころか店は一つもなく、点々と住居があるだけであった。


「11区へようこそ。桜刑事殿。」
「案内いたしますから、どうぞ付いて来てください。」

仏像が破壊されていると被害報告を受けた桜は、単身で11区を訪れた。
そして案内人として、二人の熟年夫婦と落ち合った。

「すみません。わざわざ案内してもらって。」
「いいえいいんですよ~~。わたし達も暇だったので、ねぇ?あなた?」
「そのとおりだ。俺たちも心待ちにしてたんだぜ!!

……11区を治める牛神様の石像があんなになっちまうとは。」

長年連れ添った中なのか、夫婦は和気あいあいと小突き合いながらも案内を開始した。



「あちらに社が見えますか?あそこを上っていったところに牛神様が祭られているのですが、……首がなくなっていまして…。」
「それで被害報告を。」
「全く、どこのばk痛!?……どこの奴がやったのか。」

ちょっとあなた!口が悪いじゃない!!失礼でしょ!
わかった!わかったから足を踏むな!

桜はそんなドタバタ夫婦コメディを困惑顔で見るしかなかった。

「と、とても仲がよろしいのですね……」
「おほほ。そうですか?主人にはいつも困ってばかりですよ~。」
「桜刑事よ。女選びは慎重にな。」
「フッ――!!」
がツンと鈍い音が響いた。


そうして、神社まであと少しときたところ桜は二つの物件を発見した。

「この建物は?」

一目見て、まともではない事が分かった。

手前の住居はデザインから新築であることは分かるが、人が住んでいないのか白色の壁が炭のように黒くそまっている。

そして奥の建物は、壁が無く屋根と土台だけ残っていた。
建物全体で見ても真っ黒に炭化しており、排水のパイプは溶けてねじれ落ちていた。
地面一体も、服や人形や絵や皿やガラスが散らばっており、一部は溶解して一つになっていた。

旦那である男性が口を開いた。
「去年の8月にあった火災事件。その残骸だ。」
感情を落としたような淡々とした口調で語った。
「ここに住んでいた家族は――全員死んだよ。
両親は心中。子供は焼死。祖母は病気。
残った祖父も、認知症で全てを忘れた。」

「もう誰も――この建物に関わる人はいないのよ。
だから、壊されもせず残ってるわけ。」
奥方である女性は、『ま、だから?』というふうに笑みを浮かべていた。


「これが牛神様ですね。……確かに首が無くなってますね。」

桜は、首を失った胴体だけの石像を眺めた。

「それでは調査を行います。報告書を書くのでお名前を聞いても良いですか?」
「早妃ショウゾウ。」
「早妃フミコ。」
「――っと、ありがとうございます。それではしばらくお待ちください。」
ショウゾウとフミコは頭を下げて距離を取った。



…………

……


写真や巻き尺などで石像が壊れている原因が探っていると、不意に桜のスマートフォンが音を鳴らした。

『どう桜くん?問題無い?』
「三島刑事、はい。問題ありません。案内人が出てきてくれて助かりましたよ。」
パチンと巻き尺を戻す。
『フフ、案内人の

は無理してらっしゃらない?電話対応したときはお疲れ気味だったからね。』


「?。案内人は熟年夫婦お二人でしたよ?」
カリカリと石像の状態をメモする。
『あら?変わったのかしら?

そのご夫婦の名前とか分からない?』

「えっとですね、『早妃ショウゾウ』様と『早妃フミコ』様ですね。」

『え――ちょっ、ちょっと待ってて!!」

そういって電話の向こう側から、がしゃがしゃがしゃと音が鳴り響いた。

「桜刑事――少々聞きたいことがあるのですが。」
女の声が聞こえた。

「はい、なんでしょう―――」

女の目が――

そして男の目が――




「『神官』と『代行者』について……教えてくれないかしら?」

『にげなさい!!桜君!!』

カランカランとスマートフォンが転がり落ちる。

『その人たちは、

――!!!!』
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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