其の百三十七 人とロボット

文字数 2,272文字

「なぜです……。
あなたの力を以てすれば音すら出さず、処理できたはずです。
なのにどうして?
自分の代行者相手に抵抗しなかったのですか??」


夕闇が姿を表す頃。
波が赤く染まったときに3人は凪の磯に足を付けた。


「万樹殿も、ベクトルが違うとはどういうことです??」

「ルシフェルとシネスティア様のあの行動は確認にすぎん。
超鳥、お前が反乱と大げさに言っているだけなのだ。
我々の行いが全て正しいというわけではない。」


カランカランと銀の弾が落下する。。

「万樹の言う通りです。
私たちは救済と呼ばれていますが、自分たちを救うわけではありません……っ。
あくまで『生命』を助けるわけであり、その者たちの視点に立つ必要があります。」

シネスティアの白く細い指の隙間から、糸を引く液体が垂れ落ちる。

「その場合、彼らの価値観を尊重することが絶対です。
でなければ、私たちは【特別措置者】と変わりないただの虐殺者になります。
いま、この星の主権が人類にある以上、【道理】を通すことを、避けては通れぬでしょう。」


「特別措置者……、こうも刺客を残しながらリーダーはすでに死亡とは、どこかなんだか不気味です。
本当に【吉田ミョウ】という人間はリーダーだったのでしょうか??」


超鳥が水平線をのぞいたのを、
シネスティアは目だけで見守りながら、口だけ万樹に向けた。

「特別措置者――とは、、私たちは大昔から失敗してたのでしょうか?」

「その点だけ見れば失敗でしたな。
【浅界】に住む者が憧れの目で見るなか、我らだけが民を疑い、
【惑星の代行者】を【特別措置者】と偽って報告したのですから。
我らは目の前にいる超鳥にですら、信頼を置いていない、道理を通していない結果になっておりますから。」

女王は、鶴から目をはなして、空に浮かぶ満月に、その蒼い瞳を移した。

「浅界の民が地球へ失望するのを恐れた、ではありませんね。
私たちが…私が信用しなかった――ただの【我儘(エゴ)】です……。」


-―――――――――――-―――――――――――


『でもね…その【エゴ】で人間は成り立ち、ここまで生きることができたのよ。
三尾アヤカさん、私たちが生まれた理由ってわかる?』

宮城キョウコは白い湯気の立つ浴場に、肩までつかりながら、抱きかかえるように膝に座っている三尾アヤカに視線を向ける。

『え?えっと……、、子供が欲しかったから…?とか……?
だって私だけじゃなくって、女の子は旦那さん持って、家族を持つことが幸せって思うじゃないですか。』

『ふふ、そんなにかしこまらなくったって、私も女よ?
大学生のときに同じこと考えてたわよ。』

俯きがちなアヤカに対して、宮城は天井を見上げながら、クモのような手を動かした。

『ひゃ――!?』

『正解は【性欲】よ。』

同性という免罪符を掲げるように、宮城は女子高生の、白い柔肌マシュマロを手の奥までなじむように揉んだ。


………

…………………

『人間なんて、自分の跡継ぎをつくるため――なんて大層な考えは無いのよ。
ほとんどは、生産性のない性行動で偶発的に命を持った足かせができた、だもの。
それはあなたもわかっているはずだけど?』
うん、ブラとパンツ買ってもらって助かったー。


『私が……?』

『助けてもらってずいぶん経つけど、
買い物の手伝いとかするとき、あなたの目怖いことになっているのよ。』

お風呂からあがった二人はそれぞれ着替えに腕を通す。

『とくに、家族づれとか【害虫】を見る目になってるし。
アヤカさんって子供とか嫌い?』

アヤカは目を背けるようにバスタオルでゴシゴシ顔をこすった。
嫉妬するくらい真っ白だった。

『いえ、【性欲】がなければ繁殖できない人類を嫌いなだけです。
そんなこと言っている自分自身が人間そのもので、子供をつくる【女】に生まれてきたことが、気に入らないだけです……!
花の周りをうろつく虫をみているみたいで吐き気がします……!!』

刺し殺すように鋭い視線をのぞきながら、宮城はカチャっと眼鏡を掛けた

『ずいぶんと人らしくないわね。
【欲】あってこその人間よ?』

『なにを……。私に…、あんな―時間があれば男と性交している母のようになれと言うんですか……っっ!!』

アヤカは宮城の胸倉をつかんで、壁に押し当てる。
その勢いでドアがきしみ、たたんであったタオルが落下する。

そんななかでも宮城は顔を変えず、むしろ優しく少女の顔を、胸で包み込んだ。

『自分の【欲】を許容する強さを持ちなさい。
欲をすてた生き方なんてロボットそのものよ。』

そういってアヤカの顔を両手で支えて、自分の目を合わせる。

『いいこと。この世界は脳みそが下半身にある男どもが勝手に作ったのよ。
私たち女が子供産んでやってるっていうのに、あいつらときたら、女の痛みなんて【知らない】ことをいいことに、ヤりたいとか、子供産めとか、男産めとか、女産めとか、アホしかいない男が女を食い物にするのよ。

だから今度は、女が男を食い殺すのよ!男なんて頑丈だからそう簡単に死なないし、精子工場で十分。女が自由にいられる世界が必要なのよ。』


急に緩急つけずにまくし立てた宮城を見て、アヤカは目をぱちくりしている。
自分よりもすごいやつが来て、冷静になっているそれである。

『大人の私だってそんなくらい【欲】があるってことよ。
高校生のあなたなら、もっと欲もってもいいのよ。』

『もっと……?』

『そうよ。自分のためなら、人を殺せるくらいの、すっごいものを。』

宮城キョウコはパジャマのボタンをはめると、リビングに戻っていった。
脱衣場には裸のままの三尾アヤカだけが残された。

『はっくしゅんッ!!はやく着よ……。』
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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