其の百二十六 次なる目標
文字数 1,702文字
火災が発生して、1時間が経過した。
火は東棟と南棟を飲み込み、空をも滲ませている。
市民はこぞって、赤く猛る炎柱を見上げる。
何もできない。何も変えられない。そもそも何が起こっているのか分からない。
現実感を失わせる程の光景が、彼ら彼女らを呆然気質とさせた。
「ごほ、ごほ…ゥえ……、ま、さか、ここまでしつこいとは思わなかったな。」
そんな状況のど真ん中にいるなか、吉田は息を深く吐いた。
「生徒会を創るとき、面倒だからアウトサイダー系で攻めていったのがここで裏目に出るなんて。
さすが、中学生で暴走族を率いていたことはあるね。」
黒煙が充満するプラザの中、足元のガレキから流れていく血液を目に収めながら、上空を見上げた。
雨を降らす真っ黒な雲、それを背景に救急ヘリコプターが、25区校付近を轟音で旋回している。
(……事を起こしてかなりの時間が経った。
刑事が助けに来なかったのは、洗脳市民たちとの戦いや救助活動あるからだろうが――
なぜ神官はおろか代行者も来ない?気を探ってみても、それらしいものは感じない。
奴らは何を考えている??)
顎に手を当てながら吉田は考えていたが、ふと西棟付近でガラスが割れる音が聞こえた。
「まぁ何にせよ、私 が勝つことに変わりはない。
スイは始末した。と、なれば次はハチミツだな!」
そういって、瓦礫を伝って吉田は校舎へと入っていった。
-―――――――――――-―――――――――――
『もしもし!こちら消防本部長の熊本ってもんだ!
状況は概ね把握している。いま救助隊がマットレスを準備している最中だ!!
なんとかホールの扉を開いて、生徒をマットに着地させてくれ!!
火災のなかでの400人の救助はこれしか方法はないっ!
こちらもサポートする!!頼むぞ青年!!
全隊!放水開始!!』
それがハチミツのスマホに掛かった通話記録だった。
もはや救助とも言えないものだが、ホールを出れたとしても続く廊下は、崩落してしまったのである。
左の廊下は教師たちの手榴弾に、右は南棟の崩壊により、大穴が開き風だけが通っていた。
ハチミツの身体能力なら飛び越えていけるが、一般の生徒では3階から飛び降りするようなものである。
さらに、時間が経てば火災により校舎そのものも不安定と化す。ちょっとしたことで全壊する恐れがあるのだ。
火の進みは猛烈に早く短時間でも1部屋を包める大きさになるが、消防のサポートなのか、校舎に向かって大粒の水が、雨とともに降り落ちていた。
空いた天井から、水が入ってきてびしょ濡れになる。
火の勢いも幾ばくか弱まった気もするが、ハチミツ自体もピンチ状態であった。
「……っ。熊とか猪とか鹿とか人相手なら慣れたものだけどね。
化け物とか戦ったことはないのよ!!」
目の前には、目が5つある犬や、頬が牙歯に覆われたネズミ、触手のようにウネウネと動くアメーバが行く手を阻んでいたのである。
生きるための器官を手当たり次第にくっつけたような、そんな印象を持ってしまう。
「せっかく鍵を見つけて、もうすこしっていうときに……!!!」
手のひらの抉られた部分を見ながら、舌打ちをする。
手のひらサイズのネズミが、自分の皮膚をクチャクチャ咀嚼しているのが腹立たしいのである。
おまけに知性が無いかわりに、人間には無い身体能力をしているのか、攻撃が当たらずじまいであった。
ハチミツのなかで、ただただ苛立ちと焦りが募っていくばかりであった。
そしてそれを分かったように、奥からカン高笑いが聞こえてきた。
「ヌゥハハハハハ!!!まだそんなとこにいたのかハチミツぅ!!!」
「吉田……ッ」
ホール付近の、人一人が辛うじて立てるかどうか程の細い残骸に、学ランを揺らした男が立っていた。
首付近から大動脈が損傷したための血が未だに流れ続け、口元はスパゲッティを押し当てたように真っ赤でドロドロとしており、左腕の関節は砕けているのか、プラプラと風の力で揺れていた。
「吉田……、あなた、スイと戦っていたわよね?どうしてここにいるの?」
ハチミツは取り乱さないように、深呼吸を心掛ける。
「あぁ~~、それ聞いちゃう?
いいよ。雨宿スイは私 が殺した。
そして次は、貴様が死ぬ番だよ。久木山レン。」
火は東棟と南棟を飲み込み、空をも滲ませている。
市民はこぞって、赤く猛る炎柱を見上げる。
何もできない。何も変えられない。そもそも何が起こっているのか分からない。
現実感を失わせる程の光景が、彼ら彼女らを呆然気質とさせた。
「ごほ、ごほ…ゥえ……、ま、さか、ここまでしつこいとは思わなかったな。」
そんな状況のど真ん中にいるなか、吉田は息を深く吐いた。
「生徒会を創るとき、面倒だからアウトサイダー系で攻めていったのがここで裏目に出るなんて。
さすが、中学生で暴走族を率いていたことはあるね。」
黒煙が充満するプラザの中、足元のガレキから流れていく血液を目に収めながら、上空を見上げた。
雨を降らす真っ黒な雲、それを背景に救急ヘリコプターが、25区校付近を轟音で旋回している。
(……事を起こしてかなりの時間が経った。
刑事が助けに来なかったのは、洗脳市民たちとの戦いや救助活動あるからだろうが――
なぜ神官はおろか代行者も来ない?気を探ってみても、それらしいものは感じない。
奴らは何を考えている??)
顎に手を当てながら吉田は考えていたが、ふと西棟付近でガラスが割れる音が聞こえた。
「まぁ何にせよ、
スイは始末した。と、なれば次はハチミツだな!」
そういって、瓦礫を伝って吉田は校舎へと入っていった。
-―――――――――――-―――――――――――
『もしもし!こちら消防本部長の熊本ってもんだ!
状況は概ね把握している。いま救助隊がマットレスを準備している最中だ!!
なんとかホールの扉を開いて、生徒をマットに着地させてくれ!!
火災のなかでの400人の救助はこれしか方法はないっ!
こちらもサポートする!!頼むぞ青年!!
全隊!放水開始!!』
それがハチミツのスマホに掛かった通話記録だった。
もはや救助とも言えないものだが、ホールを出れたとしても続く廊下は、崩落してしまったのである。
左の廊下は教師たちの手榴弾に、右は南棟の崩壊により、大穴が開き風だけが通っていた。
ハチミツの身体能力なら飛び越えていけるが、一般の生徒では3階から飛び降りするようなものである。
さらに、時間が経てば火災により校舎そのものも不安定と化す。ちょっとしたことで全壊する恐れがあるのだ。
火の進みは猛烈に早く短時間でも1部屋を包める大きさになるが、消防のサポートなのか、校舎に向かって大粒の水が、雨とともに降り落ちていた。
空いた天井から、水が入ってきてびしょ濡れになる。
火の勢いも幾ばくか弱まった気もするが、ハチミツ自体もピンチ状態であった。
「……っ。熊とか猪とか鹿とか人相手なら慣れたものだけどね。
化け物とか戦ったことはないのよ!!」
目の前には、目が5つある犬や、頬が牙歯に覆われたネズミ、触手のようにウネウネと動くアメーバが行く手を阻んでいたのである。
生きるための器官を手当たり次第にくっつけたような、そんな印象を持ってしまう。
「せっかく鍵を見つけて、もうすこしっていうときに……!!!」
手のひらの抉られた部分を見ながら、舌打ちをする。
手のひらサイズのネズミが、自分の皮膚をクチャクチャ咀嚼しているのが腹立たしいのである。
おまけに知性が無いかわりに、人間には無い身体能力をしているのか、攻撃が当たらずじまいであった。
ハチミツのなかで、ただただ苛立ちと焦りが募っていくばかりであった。
そしてそれを分かったように、奥からカン高笑いが聞こえてきた。
「ヌゥハハハハハ!!!まだそんなとこにいたのかハチミツぅ!!!」
「吉田……ッ」
ホール付近の、人一人が辛うじて立てるかどうか程の細い残骸に、学ランを揺らした男が立っていた。
首付近から大動脈が損傷したための血が未だに流れ続け、口元はスパゲッティを押し当てたように真っ赤でドロドロとしており、左腕の関節は砕けているのか、プラプラと風の力で揺れていた。
「吉田……、あなた、スイと戦っていたわよね?どうしてここにいるの?」
ハチミツは取り乱さないように、深呼吸を心掛ける。
「あぁ~~、それ聞いちゃう?
いいよ。雨宿スイは
そして次は、貴様が死ぬ番だよ。久木山レン。」