其の二 吉田ミョウの厄日

文字数 8,167文字

 学校が終わった放課後。物理室にある女学生が忍びこんでいた。ガサゴソとあちらこちらの棚を開けては中の物品を手当たり次第に掻き出している。
 「もうどこにおいたのよ……!!」
 苛立ちを含んだ物言いで目と手を必死に働かせながら、それでいて極力音を立てないように注意を払っている。
 (あれは期間限定の、私がずっと心待ちにしていたお菓子なのよ…!最後の一個を駄目押し感覚で頂こうとして生徒会室においてたのに…−まさか無くなってるなんて…!!探してないのは此処だけ。早くしないとアイツが来る!ただでさえ腹立つ人なのにこんな無様ところみられちゃあ堪ったものではありませんっ!)
 このように注意を重ねてもの探しを行っておりましたが、吉田ミョウ本人が近づきつつあることは意外にも思いの外だったのです。
 「本日も~♪良きロマンライフを~~♪♪」
 ヒラヒラと学生服をマントのようにしながら、即興のお歌作って足取り軽く歩みを進めています。
 一方の女は上段の棚を開けて刹那の時間放心していました。学校の、物理室に、あろうことかアダルトな本が無造作に七冊程積みあがっていたのです。無造作に置かれていたため本は崩れてきました。すぐに閉めれば良かったですがそれは叶わず脚立に乗っていた女は本とともに床に落ちていきました。
 「−送るぜ!!−−………。」
 「いった~~っ…。なんでこんな物が−−……。」
 その時だけ空気は凍り付きましたが、女だけはその中で状況把握をしました。エロ本に浸かってる自分。それをこの上無い人物に目撃される。女の堪忍袋は破裂しました。右手で本を取れるだけ取ってミョウの顔面にぶち込みました。
 「ブベラアっっ!」
情けない悲鳴を上げミョウが倒れ切る、前には女は廊下を疾走していました。


 アダルト本で視界を覆われて痛みに悶絶していたとき、男の低い声と女口調の混じった心配声が耳に響いた。
 「ちょ、ちょっと大丈夫⁉ミョウ!」
 頭を支えて本をどかしてくれた。目と鼻に強く打ったので視界はボヤボヤしており鼻も痛いムズムズして落ち着かない。
 「あぁなんとか大丈夫。」
 そう返答しておく。目の前の人間は安堵した表情を綻ばせた。
 「痛みはあったが、超絶美女たちが顔に飛び込んでくるのは存外に悪くない。」
 私は顔をキリリと整えて言い放った。
 「…そういう所よ。ミョウ。」
 安堵の表情を曇らせてしまった。


 「んもーー!改めて思い返すと笑えるわねあれは。」
 「すまないな。ハチに片付けまで手伝わせてしまうなんて。」
 目の前にいる正にオネェキャラな人物は生徒会に所属している、名をハチミツという。もちろん偽名。生徒会のなかでも姉御肌気質であり、このような私にも肩を持ってくれる。
 「しっかし、色々な種類持ってんのねぇ。幼女系に清楚系にギャル系、高校生、大学生、OL 、熟女…これコンプリートしてるんじゃないのー??」
 「うるっさい!ほっとけぇぇ!!」


 教室の中もグチャグチャと散乱してはいたが、特段大事な物はなかったためダラダラと片付けることにした。ハチには適当に席に座ってもらっている。生徒会の仕事はあるらしいがあと一時間以上も時間があるため「暇つぶし♡」と言い教室に入った。正直男から言われても嬉しくはないが、良き人間からの同席は嬉しい限りだ。
 「派手にやられたわね。ナオミちゃんに何かした?さっき偉いスピードで走っていったけど。」
 「さて、ね。何かやったかなぁ。」
 「そもそもこんなに散らかしたんだから理由はあるはずよ。彼女馬鹿じゃないもの。意味も無くこんな事はしないわ。…でも単純なことかもね。」
 「菓子食ったことか」
 お湯を沸かしてるケトルからシューシューと蒸気音を立ててる。ハチはそのことを予想していた顔をして見せた。
 「あぁやっぱり、あなただったのね。彼女ってシリアス空気感だしてるけど中身は我儘お嬢様ってことは、あなたもよく知ってるでしょ?もう猫でも差し出したら?」
 お母さんのようなお姉さんのような柔らかな口調でたしなめてくる。まぁ悪いことをしたのは分かってるけどさ、机の上に置いてたら食べたくなっちゃうじゃない?それも期間限定のスーパーイチゴ味って書いてたら我慢なんて出来るわけないというか。
 「ミョウ、あなた今、人として駄目なこと考えてるでしょ」
 「−っ。…どうっしよ!」
 沸いたお湯をコップにいれ二人分の茶を机においた。カラカラとスプーンで混ぜ込み渦を作る。
 「ハア、数少ない貯金をまた切り出すしかないのかぁ…」
 先日のシンとの賭けの下りが頭によぎる。熱い茶をひとグびりいき、財布を準備して教室から出ようとした。
 「あら何処に行くの?」
 「あの菓子なら、そこのコンビニあったろ?厄介事は早めに片付けようとな。」 
 ズズ、とハチは一口飲み無常にも発言した。
 「あれ二日前には無くなってたわよ。」


 (クソっ!ワンちゃんあると賭けてみたけど、そう上手くはいかないものね。)
 ナオミは苦虫を噛み潰しコンビニを出た。夜の六時五二分。下校する生徒が菓子やらチキンやらを買うため人がごった返して居づらい時間帯となる。期限が過ぎていたことはナオミ自身一番知ってはいたが一抹の希望を見捨てることは出来なかった。
 「待たせちゃってごめんね。アヤカ、カズミちゃん」
 店の外、自転車が置き場にはあまり人はいないため一息ついていたアヤカとカズミと合流する。
 「大丈夫ですよ先輩」
 気負わせないようにとアヤカ。
 「…お菓子は、ありましたか?」
 引っ込み思案ながらに気にかけてくれるカズミ。有難さと同時に楽しみを奪ったあの「クソ虫」に腹立たしさがこみ上げる。
 「ううん、なかった。もうこれで我慢することにしたわ。」
 レジ袋からイチゴ味チップスを取り出すとバリっと開けて豪快ガリガリと食べ始めた。
 「行きましょか。ここにいても冷えてくだけだしね。」
 冷えは女の子の天敵よとお節介をして後輩達と歩き始める。月明かりで薄っすらと影を作りながら帰路につく。


 「まったくあの数学の先公!!もうちょっと分かりやすく教えろってんだ。何が~~~~な式は~~で~~になる、だ!それよりも●●で■■の方が短くて計算間違いも減るだろうが!!」
 「落ち着いてください先輩また口が悪くなっていますよ。」
 「……」
 ほぼ毎日彼女達は三人で帰宅する。前をナオミとアヤカが、後ろにカズミと逆三角形の形で歩く事が多い。学校での出来事(主に不満)をペラペラ連ねることが多いナオミは導火線に火が付いた爆竹がごとくの勢いで口調、内容ともども悪化していく。それを鎮火する役目はアヤカになっていた。カズミは後ろでリスナーになっている。
 「いっちばんムカついたのはアレよ!」
 「あれって…?」
 「アイツが盗った菓子を探してたら、エロ本が崩れてきやがったのよ。しかもそれを意気揚々と鼻歌うたってた本人に見られるなんてっ……!」
 悪態を付きながらナオミはずり下がってきた黒を基調としたリュックをかけ直す。
 「また吉田先輩は…懲りない人ですね…」
 アヤカは呆れ顔をし、ちらっと後ろを見る。彼女は静かな顔している。ナオミに目を戻すと後ろを見て話しかけいた。
 「そうそうカズミちゃん、虫…吉田ん所に行ったんでしょ。どう?最悪だったでしょ?」
 今度はケタケタと笑いを含ませている。
 「し、知ってたんですか?」
 「ごめんねー。ああいうのは秘密事っていうことは分かってるんだけど、吉田の活動って生徒会全員に共有するってルールがあってね。」
 片目を閉じて申し訳ない顔を浮かべてる。
 「え、えっとそんなに話したわけではないですけど、ただ悪い人に見えなかったです。」
 あら、まぁと二人とも同じ仕草を取った。
 「『辞めたら』とは言われたんですけど、優しい言い方で…それだけですけど……。」
 その感触は今でも覚えている。相手に罪悪感を抱かせるような言い方ではなく、『目が疲れたならゲーム辞めたら?』って感じに。
 フゥと一息つき年長者が口を大きく開いた。
 「ぬぁによそれ~~。後輩には優しくしておいて私の扱い方はアレ!?ますます腹立ってきたわ……!!」
 え、え、とカズミが困惑し始めた。
 「カズミぃ教えてあげるわ。害虫の特徴ってやつをねっ!!」
 肩をがしっと掴んで密着させて退路を断たせた。一つだけ年上と言っても先輩は先輩。顔に掛かってきた髪や頭に当たってる胸を意識してしまい、そこから放たれる甘ったるいフェロモンはカズミの脳みそをホワホワとさせていった。なにより…デカかった。
 アヤカから見てこの光景は、下校よりかは仕事帰りを彷彿させていた。
 「まずわぁ~▲▲のことからよぉ。それから~−−。」
 「はわわ…」
 現実は学校帰り、イメージは仕事帰り。その大きなギャップに胸の内側がくすぐったくなってクスりと肺から空気が漏れ出た。空を見上げる。遠く遠くにある三日月が夜のとばりの中で唯一のスポットライトとして私達だけを照らしている。そんな気さえ起こしていた。


 翌日のまた放課後。吉田ミョウは坂道を駆け上るべく足を転がしていた。
 『がぁぁぁぁぁあああああぁあ!!』
 さすがに一人で寄声なんぞ上げたら変人と思われるので心の中で雄たけびを上げて長い長い坂道を上り上り上り上っていった。ハチから情報を聞いたのだ。坂の上にある店ではまだ取り扱っているということにっ!であれば、この問題を早急にピリオドを打ってやるぜい!そう考え坂を上り詰めた。四月とはいえ全力疾走してきたためとても暑い。持ってきた自転車の籠に学ランを投げ入れて、影のある店の縁石に腰を下ろした。腰に体重をかけて息を整える。夕焼け色のお空を何の気も無しに見る。雲が太陽に吸い込まれていくの様を見入っていると
 「小僧ずいぶんとお疲れのようだの」
 声がかけられた。年老いた野太いこえだった。その方向を見ると一匹の黒猫がちょこんと座っている。
 「まあね、さっき坂を上ってきてさ…キツイの何のって。」
 「この店にかいもんか?」
 「そ、ここにあるって聞いてさ。そっちは?」
 猫は足元に近づいた。
 「儂はここらに住み着いてるモンでな。毎度毎度行くあてもないものだから、ほれそこの塀で陽に当たってたんじゃわ。そこにおめぇさがすさまじい形相で駆けていったから興味が沸いて話しかけたってことよ。」
 話終えて後ろ足をカリカリと搔いている。私は自分の顔をさすりながら、
 「ようは暇つぶし?」
 「まぁそんなとこじゃ」
 はいはいと納得し息を整えたところ、立ち上がる。
 「じゃあオレは目的を果たしてくるわ。久しぶりに猫と話せて楽しかったよ。ありがとう。」
 礼を言い手を振り店のほうに歩く。ニャーゴと鳴き見送ってくれた。
 例の物はすんなり見つり手に取った。心にわずかな余裕ができたため店内を散策する。とはいってもそこらのコンビニと大きさは変わらないためすぐに済む、と考えていた。
 「−−っ⁉」
 驚きで足を止める。
 (こ、これはっっ!!)
 それは純白の本だった。写真もイラストもテキストも削ぎ落し、シンプルに頂点を極めた本。数か月前からチェックをしていたが…。日付を確認し大きく息をついた。
 (なんって事だっ!あれっっだけチェックしてたってのにっ、こんな肝心な時にっ!…。確かにこの菓子は限定品だ、しかしこの本は四年前に絶版したものの世の男諸君の声を受けて復刻を遂げたものまさに名の通りの『THE PREMIUM』この機を逃せばまた日の目をみない可能性だっ十二分にある。…………。)
 立ち尽くす。どの手をとれば最善策と言える…。
 「…。……。…………‼」
 瞬間、私の頭に天啓が下された。そして確実に実行するために記憶を探る。
 『猫でも差し出したら?」
 『毎度毎度行く当てがないものだから、』


 「そこのぉ!黒猫ぉ‼」
 店を飛び出し黒猫の下に駆け寄る。幸いさっきの場所を動いてはなかった。
 「うおぉ!なんじゃあそげな顔ばして…!」
 私は猫の手をとり思うままに言葉を吐いた。
 「黒猫よお前確か行く当てないって言ったよな?」
 「言ったは言ったが−−」
 「ならオレん所の学校に来い‼」
 「なんとぉ−−⁉」
 「えっと多分十分な飯は食えるぜ。それに屋根付きだから雨風にだって晒されやしない。」
 よく見ると猫の体は汚れている。泥、雨、風…に長く晒されたのか見てるだけで分かる。硬い。
 「悪くない話だろう?」
 「む、むぅそりゃそうじゃが学校に…?そんな事できるんか?」
 「学校に支障でなけりゃいいんだよ。」
 吐き捨て、目を輝かせる。
 「−−……分かった分かった。そのような目で見られちゃあ断れまいよ。それに儂としても魅力的な提案じゃしな」
 「よっし心の引っかかりもとれたし店に戻るよ。ちょっち待ってくれ。」
 笑顔で話し納めてうむ、と返答を聞いた後踵を返した。ニぃと口を付け上げて心の中で愉悦した。


 帰りは楽。行きが長い上りなら帰りは長い下り。シャーと駆けてツーと滑る。ただそれだけ。
 「ニャっ‼」
 気休め程度に制服を詰めて黒猫をかごに入れた。ガっと乗って思い切り下りに入った。猫にとっては経験したことのないスピードの様で驚いている。事故らないようにスピードは調整してるがやはり驚きを隠しきれていない。
 「さ~すらーお~~♪こ~の~世界中~を~~♫」
 「お、おい小僧‼もう少し落とさんか‼危ないじゃろ⁉」
 「おっとっと、悪い悪い。」
 さらに減速し徒歩と同じ速さになった。
 「まったくいきなり飛ばしよってからに…む。」
 猫は左方向を静観し始めた。表情は分からない。
 「…大きい町じゃな。」
 特別大きな町ではない。世間的には小さい町だ。四階以上の建物はないため余計にそう思える。
 「そう…でかい町だろ」
 心とは逆のことを述べる。通り過ぎていく澄んだ空気を腹いっぱいに吸い込んで学校へと進んでいく。


 「よし黒猫、お前は懐に入れ。」
 「こん中にか?入れ、るか?モガっ−。」
 「−−っし、入ったな。」
 無理やり猫を懐に入れてズシズシと校舎に入っていった。


 ここ生徒会室。奥には一段と大きく豪華な会長机があり、そこでシンは書類を廃人のように捌いていた。
 (もう文字読みたくない。紙に触れたくない。めくりたくない。ペン持ちたくない。)
 そして会長机の手前側の長机にアヤカ、ハチミツ、ナオミの三人でサポートしてる状況となっていた。しかしこの三人もまた悩まされていた。
 「「「がえりたいっっ‼」」」
 この作業続くこと四十分。短い時間だが終わりの見えず、小難しい長文を見落としせずに読むことは大変体力を消耗する行為であったのだ。


その教室に重い足音が近づいている。
 「グっ、思ってた以上に重い…!」
 「小僧、大丈夫か?」
 「ハっ、俺を誰だと思ってやがる…!こんくらい!」
 ズッシズッシと歩を進めていく。


 ナオミが眉間を指で揉みながら、ハチミツに問いかける。
 「ねぇハチぃ…アイツは?吉田はどこに行ったの…?」
 声を出すのも億劫であることが一言で分かる。
 「ミョウなら…買い物に行った…みたい。」
 メイクの剥げた返答を聞きながら、なによ…それ…とため息を付く。責任感の強いアヤカはシャッキリとしているが瞼が痙攣していることから取り繕ってることが見て取れる。そこへドアがキイと甲高い音を挙げて開かれ、左手にレジ袋を持った背の低く学ランの下の方を膨らませた生徒がどうも、と足を踏み入れた。


 入った瞬間私は後悔した。
 (空気メッチャ重いやん。怠いわ~)
 空気は重い。さすがにいつものように軽口が叩けない。
 「…どこ行ってたの…!」
 Oh…一言でありながらも怒気を多分に含んだ言葉がナオミから発せられた。
 「お前は生徒会のサポート係だろう⁉よくもまぁ私達が大変な肝心な時に買い物になんて~~」
 これはマズイ。長くなりそうなことを察した私は切り札をキることを決意し制服を二回指でトントンと合図を送った。
 「ってかなんなのよ‼その膨らみはあぁぁ‼」
 「ええい‼これを見て驚け‼畜生どもがああぁ‼」
 そう言いボタンを開けて黒猫を舞い上がらせた。空中で華麗な回転し見事な着地を決めた黒猫は
 「出番か?小僧?」
 雌を悶絶させるくらいのダミ声を言って見せた。
 「「「「−−−⁉」」」」
 私以外の人間は目を見開いた。


 「か…かわいい……!」
 意外にもいち早く反応を示したのはアヤカだった。フラフラと澱ませた足を動かして猫に覆いかぶさった。
 「お、おい、じょ、嬢ちゃんや、重い…んやが……」
 猫はアヤカの上半身で押しつぶされている。女の子だから軽いとは思うがここは助けてやろう。
 「ちょ、お嬢ちゃん、ふへ…大丈夫…かの……?」
 あ、こいつ満更でも無い顔してやがる。このまま窒息死せんかな。
 「まあまあ、大丈夫?アヤカちゃんも猫ちゃんも?ごめんね~~アヤカったらここ最近働きづめでね~。ささ、アヤカここに座って座って。」
 「う~ん気持ち悪い…」
 チ、ハチミツは本当にいい仕事をする。
 「それで本当に猫ちゃんを連れてきたってわけね。ミョウ。」
 アヤカを介抱しながら疑問を私に投げつけた。
 「まぁな、優しい俺様はほっとけなかったやつよ。」
 てめぇらと違ってなって投げ返してやった。猫の方に目をやる。
 「ナゴナゴ……」
 「……フゥン…?」
 ナオミがしずぅかに顎をさすっている。夕陽に当たっている机で猫の顎を音を立てずにその様は−−。
 「…これが…お菓子のお詫び…ってわけ?」
 鋭い言葉が突き刺さる。それを取り出す痛みを我慢する。女の子ってのは「何か」恐ろしいもの。
 「そう、不服だった?」
 「いや、お菓子よりも上等なものよ。…この子をどうするつもり?」
 「フっここに生徒会マスコット委員長として任命する!」
 ビシシィィと決めポーズを取り声高らかに宣言した。


 「なぁぁにそぉれ~~、さいっこうじゃなあぁぁい!でもでもそんなことって出来るのぉ?」
 落ち着けとハチを手で制して
 「おいシン、できるよなぁ?」
 会長机を目で一瞥する。
 「うん、えいよえいよできるぅできるぅぅ。」
 気を持ってない声が聞こえたが、あいつが死んでも誰も困らんからまぁよかろう。
 「よぉぉし‼決まり決定終わり閉廷解散‼」
 パチパチとハチからは拍手を、ナオミから感心のある目を向けられる。冷や汗を拭いつつご褒美のための長机に置いておいた純白本を手探りで探す。…。……。あるぇ?ない。無いぞ。ふとソファーに横になっているアヤカを見た。あーあぁ顔が見事にタコ野郎になってしまって。お前にはまだそのステージは早すぎるよ。
 「じゃ、じゃあオレは喉が渇いた、から、ハハ…。」
 っと言って全力で廊下を走った。おおかた水を飲もうと手だけ漁ってたら本に手がついたって感じか。ああもうどいつもこいつも私に厄介事を与えやがって。階段が見えた。駆け下りて姿をくらませてやる。ちょっとだけほんちょっとだけ後ろを見た。
 あ−−。ナオミが何故生徒会に入っているのか。学力トップ一位で何より運動性能抜群の才色兼備の女。その実績…州大会一位。それを見込まれて選ばれたのだ。だから…そんな女に私は敵うはずがなかった。
 今眼前には彼女の二の腕が迫っていた。
 「ウオアっっ−−‼」
 教室の壁に私は叩きつけられた。壁にクレーターができるくらいに強く。そして質が悪いことに私の顔を手で覆っている。い、いきが……。
 「−−ッ−−−−ッッ−……。」
 「あぁホンっっとに……蟲は蟲ね。」
 震えるくらいに冷たい声を浴びせて私の顔を二回三回と押し付ける。体力を使いすぎてしまったのか私はばったーんと床に倒れた。


 ナオミは吉田に当てた手を消毒液で拭き取り、
 「きったな…」
 害虫に吐き捨てた後生徒会室へと戻った。
 その後は休憩がてらに黒猫の体をナオミとアヤカで洗ったらしい。ハチから聞いた話だとたいそう気持ちよさそうに洗ってもらってたんだとか。
 『あ、あのプレミアム本はナオミとアヤカの手によってゴミ箱行きになったわ♡』
 吉田ミョウにとってはまさに厄年ならぬ厄日となった。
  ちなみに会長は過労死した
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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