其の六十二 彼女の幻覚
文字数 681文字
ジリ々りりりりりりりりりりりりr――
ある部屋でけたたましく時計が鳴り響いている。
ぐちゃぐちゃに積み重なった毛布に頭をふさぎ込むように、彼女は手でがっちりと頭を抑え込んでいた。
「~~~うるっさいッッ!!!」
そうとう腹立たしかったのか、彼女は目覚まし時計を殴りつけた。
壁に激突し、金具はバラバラとなって時計は息絶えた。
「はぁ―はぁ――はぁ。」
午前9時
カーテンも窓も、全てをシャットアウトするように締め切ったはずなのに
柔らかな朝日も、日常を知らせるような鳥の鳴き声も、
彼女には、全部害悪以外に他ならなかった。
スマホのロック画面に映る、幼い自分と姉を目障りに思いながら、LINEを開く。
【着いた。準備できたら教えてくれない?】
5分前に吉田ミョウからメッセージが届いていた。
「せん、ぱい?」
「あぁ、来た来た。準備は出来てないか。」
吉田は
「あ、たし、は、べつに、」
「ダメダメ!女の子は美しさの象徴なんだ!
せめて、服装は人前に出れるものにしよう!!」
「で、でも、」
「――待ってるから。」
そういって玄関は彼によって閉じられた。
普段の早妃カズミであれば先程の会話は発生しなかったであろう。
寝巻といえど、ズボンははいておらず、上着のボタンは全部外れて下着も外れかかっていた。
彼に言われ、カズミはリビングで服を探し始める。
いつもの見慣れたリビングで。
広くなってしまったリビングで。
父親、母親、姉の姿が、声が、幻聴として幻視として感じてしまう。
あの普通のなんの変化もなかったあの記憶が
ガラスのように彼女の脳みそを突き刺していった。
ある部屋でけたたましく時計が鳴り響いている。
ぐちゃぐちゃに積み重なった毛布に頭をふさぎ込むように、彼女は手でがっちりと頭を抑え込んでいた。
「~~~うるっさいッッ!!!」
そうとう腹立たしかったのか、彼女は目覚まし時計を殴りつけた。
壁に激突し、金具はバラバラとなって時計は息絶えた。
「はぁ―はぁ――はぁ。」
午前9時
カーテンも窓も、全てをシャットアウトするように締め切ったはずなのに
柔らかな朝日も、日常を知らせるような鳥の鳴き声も、
彼女には、全部害悪以外に他ならなかった。
スマホのロック画面に映る、幼い自分と姉を目障りに思いながら、LINEを開く。
【着いた。準備できたら教えてくれない?】
5分前に吉田ミョウからメッセージが届いていた。
「せん、ぱい?」
「あぁ、来た来た。準備は出来てないか。」
吉田は
普段と同じ
、学ランマントで、口調で、目の動きをしていた。「あ、たし、は、べつに、」
「ダメダメ!女の子は美しさの象徴なんだ!
せめて、服装は人前に出れるものにしよう!!」
「で、でも、」
「――待ってるから。」
そういって玄関は彼によって閉じられた。
普段の早妃カズミであれば先程の会話は発生しなかったであろう。
寝巻といえど、ズボンははいておらず、上着のボタンは全部外れて下着も外れかかっていた。
彼に言われ、カズミはリビングで服を探し始める。
いつもの見慣れたリビングで。
広くなってしまったリビングで。
父親、母親、姉の姿が、声が、幻聴として幻視として感じてしまう。
あの普通のなんの変化もなかったあの記憶が
ガラスのように彼女の脳みそを突き刺していった。