其の百二十 吉田ミョウのゲーム
文字数 2,705文字
――これは裁である
――神は告げ、王は下し、万人たる民が断した、公正なる決である。
――おまえはその実行者である。それがおまえの命である。
-―――――――――――-―――――――――――
頬に切り傷が入った。
一切の迷いのない刀傷、その傷口は、犯罪者を侮蔑するような、どこまでも鋭く細い傷である。
「ギギぃ!!こんッッのう……!!」
その傷口から、決壊したダムのように血があふれ出てきた。
血は淀みなく垂れて、ピチャリと音を立てる。
「痛いじゃないか。君の持っている刀を、私 の手の平で受け止めているというのに、
これ以上やると私 の首が切断される。」
「元からそのつもりなんだよ!!この人殺しめ!!!」
雨宿スイは充血した目で訴えた。
「裏切りやがって……!!俺たちの期待を裏切りやがって!!なんのための生徒会だったんだよッッ!!」
言葉の勢いに同調して、吉田の額目掛けて頭突きした。
鈍い音がして、額からも出血する。
「元からこうするつもりだったんだろうがッッ!!だったら、生徒会に入る必要も、カズミちゃんの世話を焼く必要もなかっただろうがッッ!!!
自分が何をしているのか分かっているのか!!??」
次に、ふざけているのか脱力した吉田の顎を、飛びまわし蹴りで吹き飛ばした。
雑巾のように不細工に、地面にぶち当たり、ガラスを割って一階の校舎に突っ込む。
「はぁ、、ハぁ、、」
肩で息をしながら、奥でうずくまっている男を睨みつける。
パワーや武器は勝ってはいるが、日本刀など扱ったことがないため、ズンとした重みが常に負担になっていた。
「――ごめんなぁ、スイ。」
「!!」
そんなとき、ガラスの破片が散ったのを気にせず、吉田は手をついて立ち上がり、あっさりと謝罪した。
「ごめんね。君たちのことを考えずに、こんな事をしでかしてしまって。
悪かったよ……。」
手に刺さったガラスを見つめながら、申し訳なさそうに、スイのもとへ歩を向けた。
「悪かったよ。君のおかげで目が覚めた。警察きてるんだろ?自首するよ。」
そのままスイの肩に両手を乗せた。目には涙が溜まっている。
「吉田……?」
「うん。本当に悪かったと思っているよ。」
その涙目の目に困惑しながら、スイは自分の腹部を見た。
「あの日、貴様の頭を打ち抜かなかったことに、私 は毎日毎日後悔してたんだからな。」
銀色の小さな果物ナイフが突き刺さっていた。
事態を飲み込めないスイは、力のままに髪を引っ張られ、顔面を殴りつけられた。
その衝撃で、地面に顔を擦りむきながら、転がっていく。
「ククク、あっははは。育ちのいいガキは、扱いやすくて助かるよ。
貴様は馬鹿か?自分の行いに後悔するヤツがどこにいるんだ??」
そう言って、スイから抜け落ちた十数本の髪の毛をパラパラと散らしながら、吉田は手を叩いて爆笑した。
「後悔するほど貴様らの命に価値は無いんだよ。『命は地球よりも重い』?
面白いフレーズだね。親父ギャグよりかは面白いんじゃない?
貴様らが死んだところで何も変わらないし、誰も気づきもしないよ。
大した夢も持っていない、惑星のウジ虫の分際でよく言えたね。
その頭の出来だけは羨ましいよ。だっははははは。」
吉田は、ツボにはいったように、空を見ながら大声で笑った。
「ガフッ……、おま、ぇってやつはぁ……!!!」
「口だけなら誰だって言えんだよ。はよ立てボロクズ。
神官どもが来るまで、もう少し楽しませてくれよ。」
腹にナイフが刺さり、軽い脳震盪を起こしているスイに向けて、口笛を吹きながら吉田はスマホを取り出した。
-―――――――――――-―――――――――――
「クソッ!!なんなのよ!!ここまで来て、鍵が掛かっているってどういう事よ!!」
学生が倒れているホール――その入口で騒ぎ立てたのはハチミツである。
「いつもだったら開いてるじゃない!!なんでこんな大変なときに!!!」
あと少しで、ってときにホールの扉は分厚いコンクリート製でふさがっていた。
仕方ないので、鍵のある職員室に向かおうとしたとき、突然、態勢を崩すほどの、大地震のような、ガタンガタンっと音を立てて校舎全体が震えた。
-―――――――――――-―――――――――――
「お、おい、つぎは、、なにをかんがえている……!?」
血を吐きながら、スイは声を荒げた。その声は恐怖か、震えも混じっている。
「25区校って特殊な形してるだろ?東西南北の、3階だての4つの棟と、それを繋ぐ廊下。
そして、棟に支えられているあのホール。」
吉田の真横に、雑然と壊された東棟の屋根が、落下して砕け散った。
「こたえろ……っっ!!」
「クク、今さっき東棟に設置した大型爆弾を起爆した。
いまごろ3年4組教室あたりから発火しているだろう。」
吉田の指さす方向に、揺らめく赤い影が見えた。
薄暗い空のせいか動揺のせいか、やたらと真っ赤にみえる。
「爆弾は他の、西南北の棟にも仕掛けてある。さっきは私 のスマホで起動したが、あとは火が広がれば、勝手に爆発する。」
東棟から爆ぜたのかパンっと、音をたてて火の粉が降り落ちてきた。ひりつくような痛みが、皮膚を通して感じる。
ゴムが溶けたような、刺激臭が鼻の奥に入り込んでむせ返る。そんなぐちゃぐちゃな状況のなか、スイは、恐る恐る口を開いた。
「もし、全部爆発しても、あのホールが、、落下する、、だけだろ、、!?」
「あーー、そっか。貴様は知らないんだな。そう!落下するだけだよ。人質の生徒456人ごとね。
そう全学年だ。君と友達の【木場タカアキ】も、アヤカや早妃と友達の【ロングちゃん】【ウルフちゃん】も、まとめてね。
ホールを囲うように、棟が立っているから、落下したときはこのあたりは火の海。
焦がされて死ぬか、ゼリー状に溶けて死ぬか、見物じゃないか。
――ここでグズグズしてていいのかい?1時間もあれば全焼するんだぜ?」
自分の息の荒さに気づいて、スイは目の前の彼をみた。
喉の奥から嗚咽がするのを堪える。
自分が相手取った存在は手に負えるものではなかった。
人の形をした、まったく別の存在。
ただの殺人者でも、ただの狂った人間でもない。
自分たちとは、異なる基準で確立された自我を持つ存在。
「どうした?頑張れよ。【魅力 】の雨宿スイ」
吉田の言葉を合図に、スイはぬいぐるみにすがる子供のように、刀の柄を握りしめた。
-―――――――――――-―――――――――――
ちょいとステータス
【吉田ミョウ】
パワー E−
ガード E-
体力 C+
【特徴】
惑星からの遺志 (アルターエゴ時専用) ―――。
秩序からの使徒 (アルターエゴ時専用) ―――。
神さま嫌い―――【神】対して嫌悪感を持っている意味。【神】の存在を否定しているわけではない。
――神は告げ、王は下し、万人たる民が断した、公正なる決である。
――おまえはその実行者である。それがおまえの命である。
-―――――――――――-―――――――――――
頬に切り傷が入った。
一切の迷いのない刀傷、その傷口は、犯罪者を侮蔑するような、どこまでも鋭く細い傷である。
「ギギぃ!!こんッッのう……!!」
その傷口から、決壊したダムのように血があふれ出てきた。
血は淀みなく垂れて、ピチャリと音を立てる。
「痛いじゃないか。君の持っている刀を、
これ以上やると
「元からそのつもりなんだよ!!この人殺しめ!!!」
雨宿スイは充血した目で訴えた。
「裏切りやがって……!!俺たちの期待を裏切りやがって!!なんのための生徒会だったんだよッッ!!」
言葉の勢いに同調して、吉田の額目掛けて頭突きした。
鈍い音がして、額からも出血する。
「元からこうするつもりだったんだろうがッッ!!だったら、生徒会に入る必要も、カズミちゃんの世話を焼く必要もなかっただろうがッッ!!!
自分が何をしているのか分かっているのか!!??」
次に、ふざけているのか脱力した吉田の顎を、飛びまわし蹴りで吹き飛ばした。
雑巾のように不細工に、地面にぶち当たり、ガラスを割って一階の校舎に突っ込む。
「はぁ、、ハぁ、、」
肩で息をしながら、奥でうずくまっている男を睨みつける。
パワーや武器は勝ってはいるが、日本刀など扱ったことがないため、ズンとした重みが常に負担になっていた。
「――ごめんなぁ、スイ。」
「!!」
そんなとき、ガラスの破片が散ったのを気にせず、吉田は手をついて立ち上がり、あっさりと謝罪した。
「ごめんね。君たちのことを考えずに、こんな事をしでかしてしまって。
悪かったよ……。」
手に刺さったガラスを見つめながら、申し訳なさそうに、スイのもとへ歩を向けた。
「悪かったよ。君のおかげで目が覚めた。警察きてるんだろ?自首するよ。」
そのままスイの肩に両手を乗せた。目には涙が溜まっている。
「吉田……?」
「うん。本当に悪かったと思っているよ。」
その涙目の目に困惑しながら、スイは自分の腹部を見た。
「あの日、貴様の頭を打ち抜かなかったことに、
銀色の小さな果物ナイフが突き刺さっていた。
事態を飲み込めないスイは、力のままに髪を引っ張られ、顔面を殴りつけられた。
その衝撃で、地面に顔を擦りむきながら、転がっていく。
「ククク、あっははは。育ちのいいガキは、扱いやすくて助かるよ。
貴様は馬鹿か?自分の行いに後悔するヤツがどこにいるんだ??」
そう言って、スイから抜け落ちた十数本の髪の毛をパラパラと散らしながら、吉田は手を叩いて爆笑した。
「後悔するほど貴様らの命に価値は無いんだよ。『命は地球よりも重い』?
面白いフレーズだね。親父ギャグよりかは面白いんじゃない?
貴様らが死んだところで何も変わらないし、誰も気づきもしないよ。
大した夢も持っていない、惑星のウジ虫の分際でよく言えたね。
その頭の出来だけは羨ましいよ。だっははははは。」
吉田は、ツボにはいったように、空を見ながら大声で笑った。
「ガフッ……、おま、ぇってやつはぁ……!!!」
「口だけなら誰だって言えんだよ。はよ立てボロクズ。
神官どもが来るまで、もう少し楽しませてくれよ。」
腹にナイフが刺さり、軽い脳震盪を起こしているスイに向けて、口笛を吹きながら吉田はスマホを取り出した。
-―――――――――――-―――――――――――
「クソッ!!なんなのよ!!ここまで来て、鍵が掛かっているってどういう事よ!!」
学生が倒れているホール――その入口で騒ぎ立てたのはハチミツである。
「いつもだったら開いてるじゃない!!なんでこんな大変なときに!!!」
あと少しで、ってときにホールの扉は分厚いコンクリート製でふさがっていた。
仕方ないので、鍵のある職員室に向かおうとしたとき、突然、態勢を崩すほどの、大地震のような、ガタンガタンっと音を立てて校舎全体が震えた。
-―――――――――――-―――――――――――
「お、おい、つぎは、、なにをかんがえている……!?」
血を吐きながら、スイは声を荒げた。その声は恐怖か、震えも混じっている。
「25区校って特殊な形してるだろ?東西南北の、3階だての4つの棟と、それを繋ぐ廊下。
そして、棟に支えられているあのホール。」
吉田の真横に、雑然と壊された東棟の屋根が、落下して砕け散った。
「こたえろ……っっ!!」
「クク、今さっき東棟に設置した大型爆弾を起爆した。
いまごろ3年4組教室あたりから発火しているだろう。」
吉田の指さす方向に、揺らめく赤い影が見えた。
薄暗い空のせいか動揺のせいか、やたらと真っ赤にみえる。
「爆弾は他の、西南北の棟にも仕掛けてある。さっきは
東棟から爆ぜたのかパンっと、音をたてて火の粉が降り落ちてきた。ひりつくような痛みが、皮膚を通して感じる。
ゴムが溶けたような、刺激臭が鼻の奥に入り込んでむせ返る。そんなぐちゃぐちゃな状況のなか、スイは、恐る恐る口を開いた。
「もし、全部爆発しても、あのホールが、、落下する、、だけだろ、、!?」
「あーー、そっか。貴様は知らないんだな。そう!落下するだけだよ。人質の生徒456人ごとね。
そう全学年だ。君と友達の【木場タカアキ】も、アヤカや早妃と友達の【ロングちゃん】【ウルフちゃん】も、まとめてね。
ホールを囲うように、棟が立っているから、落下したときはこのあたりは火の海。
焦がされて死ぬか、ゼリー状に溶けて死ぬか、見物じゃないか。
――ここでグズグズしてていいのかい?1時間もあれば全焼するんだぜ?」
自分の息の荒さに気づいて、スイは目の前の彼をみた。
喉の奥から嗚咽がするのを堪える。
自分が相手取った存在は手に負えるものではなかった。
人の形をした、まったく別の存在。
ただの殺人者でも、ただの狂った人間でもない。
自分たちとは、異なる基準で確立された自我を持つ存在。
「どうした?頑張れよ。【
吉田の言葉を合図に、スイはぬいぐるみにすがる子供のように、刀の柄を握りしめた。
-―――――――――――-―――――――――――
ちょいとステータス
【吉田ミョウ】
パワー E−
ガード E-
体力 C+
【特徴】
惑星からの遺志 (アルターエゴ時専用) ―――。
秩序からの使徒 (アルターエゴ時専用) ―――。
神さま嫌い―――【神】対して嫌悪感を持っている意味。【神】の存在を否定しているわけではない。