其の十一 お礼の言葉がタイプです

文字数 1,585文字

「ここでまとめて潰してやる……‼」
 「――‼」


 ヨウは砲弾のように突っ込んできたカイに思わず目を閉じ、ただでは済まないと体を強張らせた。
……。
……………。
(……?)
体が吹っ飛ぶのを覚悟していたが、その衝撃はいくら待っても来なかった。しびれを切らして恐る恐る目を開けた。
 「――⁉」
 「……った…」
 カイとヨウの間に吉田が割って入っていた。
 豪速球を捕えるように両手でカイの拳を受け止めている。
それはカイ自身も想定外のことだった。一瞬だけ目を大きくした後、タンっと軽やかに後退した。
 「……。」
 打ち込んだ拳を不満足そうに見たあと、カイは吉田と真正面から向かい合った。
 「クックックッ…」
 笑いを押さえるように喉を鳴らして、
 「ハーーハッハッハッ――‼」
 弾けたようにカイは笑い出した。
 そこに邪な想いは無いように思われた。オモチャを手に入れた男児のように嬉しさのあまりという感じに。
 「……。」
 吉田は痛む手を握りしめながらも、微動だに表情を変えることは無かった。
 「名は?」
 「吉田ミョウ。」
 「吉田ミョウ……?」
 次は困惑顔を浮かべた。
 「フン、いいぜ標的をお前に変える。」
 あらかた飲み込んだのか不敵な笑みに戻っている。
 「大きな区切りが付く時に、もう一度お前の前に出ることにする。」
 カイはそう言うと大雑把に踵(きびす)を返した。


 「――ん……ここは…カイは……?」
 彼が去って一分ほど経過したとき、彼女は目を覚ました。
 「大丈夫⁉」
 「大丈夫か小娘⁉」
 二人は彼女に声をかけた。
 「――大丈夫……ッ…」
 力を入れて立ち上がろうとしたが痛みがあるせいか顔をしかめる。
 「広場の入口に保健室の先生がいる。ヨウ、肩を貸して連れて行ってあげて。」
 手をポケットに入れて振り向きながら吉田は言う。
 「う、うん…!」
 よろけるナオミに肩を貸し一歩一歩重々しくはあるが、広場への道を歩き出した。ラックは二人の後ろを心配しながらついていく。
 「?、吉田は来ないのか?」
 海辺から一歩も動いていない吉田に気づきヨウは問いかけた。
 「うん、もう少しここにいるよ。」
 ……分かった。そう返事をしてヨウたちは広場へと戻っていった。
 その背中を見届けた後、ポケットから、その腫れあがった手をだして白波立てる冷たい海に浸した。
 「……。」
 深呼吸の要領で深く息を吸うと、
 「エッ⁉あれ高校生ッッ⁉」
 一人言とは思えないくらい声量だった。
 あたりは神様が通ったように、シンっとより一層静まり返った。


 「吉田。」
 「――ん。」
 いつのまにか後ろにナオミが立っていた。
 「あまり動かない方が良いかと。お体にさわりますよ?」
 「……。」
 その言葉を受け流すようにナオミは怪訝な顔をしながら首を横に倒した。
 「体の方は大丈夫。ちょっとした打撲みたいなものよ。」
 それと…、しなだれた横髪を、指でクルクル巻きながら湿った顔をして、
 「ごめんなさい。私のせいでヨウやラック、あなたにも危ない目に合わせてしまって……。」
 ナオミは吉田の手を見る。
 「……。」
 
 いっときの沈黙。
 「いいよいいよ、女の前でカッコつけたがるのは男の性(さが)ってものだからね。」
 でもどうせなら、と流れるように、
 「お礼の言葉が聞きたいな。」
 「お礼の……」
 「そう‼やっぱりぼかぁ謝罪よりそっちのほうが好みなんだよねぇ。」
 いたずらっ子のように口元をニマニマとしながら彼女に提案する。
 「まあ~~、私の我儘なことなんだけど、やっぱりお礼の方がすっごく満足すると思うのよね~~……」
 じゃっかんオネェ系になりながらも、吉田は説得した。
 「……りがと…」
 「もう一回……‼」
 「――っありがとッ‼」
 お礼というよりかは怒鳴り声に近かった。フン、と彼女は丁寧に踵を返した。
 「どういたしまして。」
 ポンっと声を響かせた。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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