其の百五十二 ルシフェルとメアリー
文字数 1,714文字
浅界
オレンジ色に染まった空を見ながら、彼女は焦りに追われていた。
先日みた【黒豹】【宮城キョウコ】に戦闘において、ますます焦燥感に押しつぶされるような、そんな息苦しさに駆られていた。
「……」
立ってるだけで息切れを起こすほどである。
それだけの闇が心に浮いているのだが、質が悪いのは何の焦燥感なのか、本人にもわからないことであった。
分からないこと所が分からない、よって行動も起こせずにただの案山子に、メアリーは成り下がっていた。
【自分の身を投げうってまで、ソレ はやり遂げたいことですか?】
はい――と答えてもその中身は無い。
いいえ――と答えたらここにいる自分の存在意義を、自分を否定することになる。
そんな終わりのない反復横跳びを、ルシフェルは見えていたようだった。
『へ……? そんなこと、犬神さんにでも付き合ってもらえばいいんじゃ。』
『おいおいしっかりしてくれよ。
物事にかこつけて、手伝ってもらおうとするなら、男でも獣でもなく、女のほうが得って決まってんだろ。』
『私…、べつにそういうの求めてないんですけど。』
『俺の趣味は…、女にぶたれることだ。
大丈夫だって。俺は既婚者だからお前に欲情してねぇし、1戦してくれたらクレカを貸すからそれで、服でも靴でも買って来い。
あー、でも全力でこいよ。じゃないと……、俺が満足できねぇ。』
そんな真っ向からの変態?カミングアウトの強要により、メアリーは戦闘態勢を取った。
-―――――――――――-―――――――――――
■■■■■ (メアリー) 救済の代行者に任命されたのは2021年の8月。
肉体年齢 14歳
本名・記憶 抹消
抹消理由 本人の精神崩壊による致命的バグを防ぐため
任命理由 本人の希望により
希望理由 妹を守るため
『じゃああいつは、自分がどうやって殺されたのかも覚えていないのか、千流。』
『そこに書いてある通りじゃ。
ルシフェル……彼女の死因は衝撃的か?』
ルシフェルは鉛を吐くように、重い息をする。
『――別に。【強姦致死】なんて珍しくねぇだろ。
俺たち人類にしかできない殺され方だ。』
-―――――――――――-―――――――――――
「はあっ!!」
彼女の足元は気の嵐によって、瞬く間に消し炭になった。
そうして消えていく灰を縫いながら、弾丸のように男に突っ込んで行く。
ルシフェルは何も思うことなく、メアリーの拳を受け止めた。
「――ッ!!」
彼女は拳をそのままに、足腰に力を込めて、飛びまわし蹴りを披露する。
空を切る足は、一見 迷いのない鋭さでヒットした。
「………。」
「やっぱり、ルシフェルさんには敵いそうにないや。」
まわし蹴りは、比較的硬い両腕によって防御されていた。それも片腕で。
その光景に多少のショックを受けながらも、メアリーは後方に距離をとってさらに気を溜めて、もう一度突撃をした。
そうやって、戦いを――はたから見ればレクチャーのようなものを行い続けた。
いつの間にかメアリーは、ルシフェルを攻略することにのめり込んで幾ばくかの軽やかさを取り戻していた。
一方 ルシフェルには違和感しかなかった。
普通に考えると力を溜めれば力が出る。
速く走ろうとすれば速く走れるものである。
だが、その根本的な部分に歪みが生じているのを感じ取ったのである。
気を溜めれば溜めるほど、メアリーの気そのものが歪んでしまっているのだ。
気そのものは大きいのに、パワーやスピードの加速に もたつきを生んでいた。
一言で言えば、パワーを上げようとして逆に弱体化してしまっていたのである。
(これじゃ欠陥品の代行者だぜ。
いくらなんでも千流がそんな、中途半端な真似をするか?
俺のパワーと比べるまでもなく かったるい!
こいつは、メアリーのポテンシャルはこんなものでないはずだ。)
「でぇぇい!!」
突き刺してきた飛び蹴りを、捌いてメアリーと目を合わせた。
蒼い瞳が一際大きく揺れる。
(いまのこいつには、自分が代行者にいる理由すらも知らないんだっけか。
自分の行動に対する動機。
当然か、試合に勝ちたいと思っていないヤツが 懸命にできるわけねぇ。
原因はそこか。)
ルシフェルはコンマ数秒で考えつくと、乱雑にメアリーの足を掴むと、
「キャ!?」
地面に叩きつけた。
オレンジ色に染まった空を見ながら、彼女は焦りに追われていた。
先日みた【黒豹】【宮城キョウコ】に戦闘において、ますます焦燥感に押しつぶされるような、そんな息苦しさに駆られていた。
「……」
立ってるだけで息切れを起こすほどである。
それだけの闇が心に浮いているのだが、質が悪いのは何の焦燥感なのか、本人にもわからないことであった。
分からないこと所が分からない、よって行動も起こせずにただの案山子に、メアリーは成り下がっていた。
【自分の身を投げうってまで、
はい――と答えてもその中身は無い。
いいえ――と答えたらここにいる自分の存在意義を、自分を否定することになる。
そんな終わりのない反復横跳びを、ルシフェルは見えていたようだった。
『へ……? そんなこと、犬神さんにでも付き合ってもらえばいいんじゃ。』
『おいおいしっかりしてくれよ。
物事にかこつけて、手伝ってもらおうとするなら、男でも獣でもなく、女のほうが得って決まってんだろ。』
『私…、べつにそういうの求めてないんですけど。』
『俺の趣味は…、女にぶたれることだ。
大丈夫だって。俺は既婚者だからお前に欲情してねぇし、1戦してくれたらクレカを貸すからそれで、服でも靴でも買って来い。
あー、でも全力でこいよ。じゃないと……、俺が満足できねぇ。』
そんな真っ向からの変態?カミングアウトの強要により、メアリーは戦闘態勢を取った。
-―――――――――――-―――――――――――
■■■■■ (メアリー) 救済の代行者に任命されたのは2021年の8月。
肉体年齢 14歳
本名・記憶 抹消
抹消理由 本人の精神崩壊による致命的バグを防ぐため
任命理由 本人の希望により
希望理由 妹を守るため
『じゃああいつは、自分がどうやって殺されたのかも覚えていないのか、千流。』
『そこに書いてある通りじゃ。
ルシフェル……彼女の死因は衝撃的か?』
ルシフェルは鉛を吐くように、重い息をする。
『――別に。【強姦致死】なんて珍しくねぇだろ。
俺たち人類にしかできない殺され方だ。』
-―――――――――――-―――――――――――
「はあっ!!」
彼女の足元は気の嵐によって、瞬く間に消し炭になった。
そうして消えていく灰を縫いながら、弾丸のように男に突っ込んで行く。
ルシフェルは何も思うことなく、メアリーの拳を受け止めた。
「――ッ!!」
彼女は拳をそのままに、足腰に力を込めて、飛びまわし蹴りを披露する。
空を切る足は、一見 迷いのない鋭さでヒットした。
「………。」
「やっぱり、ルシフェルさんには敵いそうにないや。」
まわし蹴りは、比較的硬い両腕によって防御されていた。それも片腕で。
その光景に多少のショックを受けながらも、メアリーは後方に距離をとってさらに気を溜めて、もう一度突撃をした。
そうやって、戦いを――はたから見ればレクチャーのようなものを行い続けた。
いつの間にかメアリーは、ルシフェルを攻略することにのめり込んで幾ばくかの軽やかさを取り戻していた。
一方 ルシフェルには違和感しかなかった。
普通に考えると力を溜めれば力が出る。
速く走ろうとすれば速く走れるものである。
だが、その根本的な部分に歪みが生じているのを感じ取ったのである。
気を溜めれば溜めるほど、メアリーの気そのものが歪んでしまっているのだ。
気そのものは大きいのに、パワーやスピードの加速に もたつきを生んでいた。
一言で言えば、パワーを上げようとして逆に弱体化してしまっていたのである。
(これじゃ欠陥品の代行者だぜ。
いくらなんでも千流がそんな、中途半端な真似をするか?
俺のパワーと比べるまでもなく かったるい!
こいつは、メアリーのポテンシャルはこんなものでないはずだ。)
「でぇぇい!!」
突き刺してきた飛び蹴りを、捌いてメアリーと目を合わせた。
蒼い瞳が一際大きく揺れる。
(いまのこいつには、自分が代行者にいる理由すらも知らないんだっけか。
自分の行動に対する動機。
当然か、試合に勝ちたいと思っていないヤツが 懸命にできるわけねぇ。
原因はそこか。)
ルシフェルはコンマ数秒で考えつくと、乱雑にメアリーの足を掴むと、
「キャ!?」
地面に叩きつけた。