其の一 物理室の住人 ver2

文字数 956文字

 25区高校は16時には放課後になる。

 それと同時に、生徒たちの声はこもった感じだが活発的にはなる。

 「学校というのは、怠いもんだ。」

 三階の端の物理室で、『吉田ミョウ』は一言ぼやいた。

 「だが、このブラックコーヒーは…んん最高に、」

 カッコつけたようにカップに口をつける。

 「苦いな。」




 彼はふらりと廊下へと出た。

 何気なく歩こうと思っただけだが、そこで一人の女子生徒に出会う。

 「ひゅー、部活はどうした。サボりか?

 とっととボールを受けに行ってこいよ。」
 吉田は冷やかすように言う。

 「…………。」
 女子生徒は、自信なさげに手紙を差し出した。

 『イレギュラーとはいえ、せめて生徒会役員として何か行動してくれ。
 俺の友人からの頼みだ。
 福栄シンゾウより』

 「おいおい、なんだこの手紙はよぉ。

  オレ達は

なんだから、もうちょっとフレンドリーに行こうぜ?

  おっと、教室に入りなよ。暖かいコーヒーを用意してやろう。
 
  『早妃カズミ』ちゃん。」

 手紙を一瞥した彼は、紳士の様に案内した。







 「すみません。急に押しかけちゃって。」
 「いいよいいよ。

 あれだろ?部活が嫌で抜け出してきたんだろ?」

 図星なのか、カズミは顔を硬くする。

 「いやいや良い事よ。

  2月のオレが言った通りのことをしてるんだもの。

  オレあ大満足ってわけ。」

 カップの中にばしゃりと粉を入れて、吉田は乱雑にかき混ぜる。

 「実際、意味もなくあんなキツイ練習なんてやってられるかっての。」
 吉田は、青あざだらけの彼女の足を覗き見る。

 「会ったときから思ってましたが、ずいぶん好き勝手言うんですね。」
 固く閉じていた彼女の口が開いた。

 「馬鹿どもは何も言わんからな。正直者のオレがみんなを代表して言ってあげてるのさ。

 だから、君も正直に言いたまえ。」

 コトンとカップが置かれる。

 底すら見えないどす黒い液体に、カズミは生唾を飲む。

 顔を上げれば、キラキラとした吉田の瞳と合う。


 逃げ場はないと踏んだ彼女はほんのちょっとだけ

 舌の上で転がした。

 「―――」
 「どうよどうよ!」



 彼女は今までの流れの頭のなかで復唱し、

 「………ニガイです、ね。」
 
 「オレのコーヒーにイチャモンつけようってのか!!
  LINE交換しようぜ!!!」

 吉田の咆哮が轟いた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み