其の百四十五 特別措置者 №5 チクシュ・ルーブ
文字数 1,753文字
「ミスファイアリングシステム……!」
「黒豹めいいところに目をつけてやがる。
【オルドビス】や【ぺルム】【サンジョウ】と同系列といっても、パワー、スピード、ガードの物理的な側面でいったら、トップクラスだ。半端じゃなく手強い。」
川を隔てた向こう側の田んぼから、凄まじい冷気と熱気が吹き抜けて来る。
「あの能力の使い方は容易だからな。
【呼吸】という日常動作で完結できるから予備動作もなにも必要ない。
――大気中の酸素を肺へと送り、体内を発火させ熱を生み、莫大のエネルギーを作り出す。
黒豹の体が巨大化していっているのは、エネルギーに適応するためだろう。」
一般の猫だったサイズは、いまや7メートルを超えるほどになっていた。
「だが、デメリットもある。」
「デメリット……。」
「ああ。いってしまえば無理やりエネルギーを抽出しているからな。
体への負荷は計り知れない。
一歩調節を間違えれば、自分自身が爆ぜてしまう。それほどのピーキーさを持っている。
人が使えば、その綱渡り状態で一発で消し飛ぶだろう。だが、黒豹が使えるのは…。」
「野生ゆえ、ですか。」
メアリーがつなぐ。
「人は安定した生活を続けているから感性的なものは使わない。
だけど、野生のなかで常に【生と死の隣りあわせ】の彼なら、その調節が直感的に分かっている。
超えてはいけないラインが見えているから、あの戦闘の最中でも自爆しない、ですね。」
こくりと、ルシフェルは頷く。
「ああいうのはパワーよりも、ブレーキングコントロールがカギになる。
黒豹のテクニックは自然界仕込みだから、精密処理が抜群にうまい…。
それが成り立っている限り、俺でも勝てない。」
「ああ……っ!!?」
宮城が地面に激突する。新調した服はところどころ破け、黒く焦げ目がついている。
「まったく、熱くってしょうがないわ……!!
すこしは手加減しなさいよ!!」
闇夜から一筆の赤いラインがなぞられる。
それに気づき、構えをとるも、
黒豹の巨大な顔が目の前に立ちふさがり―――
「ガ―――あッッ!!」
灼熱の猫パンチを、顔面にもろに喰らう。
肉が焼き付く音が響き、田んぼの泥と枯草といっしょに、血と眼玉が吹き飛んだ。
「さすがに強えや……!
宮城さんを戦いで追い詰めてる…。パワーが良いのかスピードがすげぇのか…!?」
「いや両方だ!!あの黒豹は全部が強い…!!」
目の前で広がっている戦闘をまえに、ギャラリーは語彙力を無くしながら、食いついている。
「宮城しゃん勝って下されよ。でなければ、あなたの計画も何もかもおしまいですじゃ。
それはあなたが一番、望んでおりますまい。」
ギャラリーは熱気と不安で混沌に渦巻いていた。
「ルシフェルさんは二か月前に、宮城キョウコと戦ったんですよね?
どういう戦闘スタイルなんですか?」
メアリーが、戦闘を鑑みながら問う。
「一言でいえばあいつはミスをしないタイプだ。
合理性だけを重視し、勝つために様々な要因を、水面下で組み合わせていく。
テクニックが互角ならパワーでごり押し、
パワーが互角なら自分の有利な領域に引きずり込む。
俺は あの女が嫌いなんだ。
自分の考えに一切の疑問を持っていない、あいつが。」
「………。」
珍しく私情を挟む彼に、メアリーは押し黙った。
火の粉を散らして黒豹が着地する。
熱エネルギーはさらに上がり、黒豹の息遣いで枯れ葉が自然発火するほどである。
黒々しく猛り爆ぜるその姿は豹ではなく、化け物のそれと同じであった。
「いったいわね~~っっ、お陰で左目と前頭葉が吹っ飛んだじゃない。」
そんな豹をまえにしても、宮城はまだ余裕を持っていた。
白く張りのある肌から、ドクドクと止めどなく血液が産声をあげている。
「こんな絶世の美女の顔をつけるなんて、覚悟はできてるんでしょうね??」
「………。」
豹は何も言わない。言葉すらも忘れたように頑なに口を閉ざし続けていた。
宮城は砂地の地面を、コンコンと小突く。
先程から放たれている冷気によって、地面も丸ごと固く凍り付いていた。
「フフ、女は紅く強く彼岸花のように。
遊びはここまでにして、そろそろ仕留めましょうか……!」
左目から額付近の吹き飛んだ部分を、無理やり氷で止血する。
血を吸い込んだせいか、薄紅色の椿のような柄になっていく。
そして新しい髪飾りを買ってもらった子供のように、笑みを作った。
「黒豹めいいところに目をつけてやがる。
【オルドビス】や【ぺルム】【サンジョウ】と同系列といっても、パワー、スピード、ガードの物理的な側面でいったら、トップクラスだ。半端じゃなく手強い。」
川を隔てた向こう側の田んぼから、凄まじい冷気と熱気が吹き抜けて来る。
「あの能力の使い方は容易だからな。
【呼吸】という日常動作で完結できるから予備動作もなにも必要ない。
――大気中の酸素を肺へと送り、体内を発火させ熱を生み、莫大のエネルギーを作り出す。
黒豹の体が巨大化していっているのは、エネルギーに適応するためだろう。」
一般の猫だったサイズは、いまや7メートルを超えるほどになっていた。
「だが、デメリットもある。」
「デメリット……。」
「ああ。いってしまえば無理やりエネルギーを抽出しているからな。
体への負荷は計り知れない。
一歩調節を間違えれば、自分自身が爆ぜてしまう。それほどのピーキーさを持っている。
人が使えば、その綱渡り状態で一発で消し飛ぶだろう。だが、黒豹が使えるのは…。」
「野生ゆえ、ですか。」
メアリーがつなぐ。
「人は安定した生活を続けているから感性的なものは使わない。
だけど、野生のなかで常に【生と死の隣りあわせ】の彼なら、その調節が直感的に分かっている。
超えてはいけないラインが見えているから、あの戦闘の最中でも自爆しない、ですね。」
こくりと、ルシフェルは頷く。
「ああいうのはパワーよりも、ブレーキングコントロールがカギになる。
黒豹のテクニックは自然界仕込みだから、精密処理が抜群にうまい…。
それが成り立っている限り、俺でも勝てない。」
「ああ……っ!!?」
宮城が地面に激突する。新調した服はところどころ破け、黒く焦げ目がついている。
「まったく、熱くってしょうがないわ……!!
すこしは手加減しなさいよ!!」
闇夜から一筆の赤いラインがなぞられる。
それに気づき、構えをとるも、
黒豹の巨大な顔が目の前に立ちふさがり―――
「ガ―――あッッ!!」
灼熱の猫パンチを、顔面にもろに喰らう。
肉が焼き付く音が響き、田んぼの泥と枯草といっしょに、血と眼玉が吹き飛んだ。
「さすがに強えや……!
宮城さんを戦いで追い詰めてる…。パワーが良いのかスピードがすげぇのか…!?」
「いや両方だ!!あの黒豹は全部が強い…!!」
目の前で広がっている戦闘をまえに、ギャラリーは語彙力を無くしながら、食いついている。
「宮城しゃん勝って下されよ。でなければ、あなたの計画も何もかもおしまいですじゃ。
それはあなたが一番、望んでおりますまい。」
ギャラリーは熱気と不安で混沌に渦巻いていた。
「ルシフェルさんは二か月前に、宮城キョウコと戦ったんですよね?
どういう戦闘スタイルなんですか?」
メアリーが、戦闘を鑑みながら問う。
「一言でいえばあいつはミスをしないタイプだ。
合理性だけを重視し、勝つために様々な要因を、水面下で組み合わせていく。
テクニックが互角ならパワーでごり押し、
パワーが互角なら自分の有利な領域に引きずり込む。
俺は あの女が嫌いなんだ。
自分の考えに一切の疑問を持っていない、あいつが。」
「………。」
珍しく私情を挟む彼に、メアリーは押し黙った。
火の粉を散らして黒豹が着地する。
熱エネルギーはさらに上がり、黒豹の息遣いで枯れ葉が自然発火するほどである。
黒々しく猛り爆ぜるその姿は豹ではなく、化け物のそれと同じであった。
「いったいわね~~っっ、お陰で左目と前頭葉が吹っ飛んだじゃない。」
そんな豹をまえにしても、宮城はまだ余裕を持っていた。
白く張りのある肌から、ドクドクと止めどなく血液が産声をあげている。
「こんな絶世の美女の顔をつけるなんて、覚悟はできてるんでしょうね??」
「………。」
豹は何も言わない。言葉すらも忘れたように頑なに口を閉ざし続けていた。
宮城は砂地の地面を、コンコンと小突く。
先程から放たれている冷気によって、地面も丸ごと固く凍り付いていた。
「フフ、女は紅く強く彼岸花のように。
遊びはここまでにして、そろそろ仕留めましょうか……!」
左目から額付近の吹き飛んだ部分を、無理やり氷で止血する。
血を吸い込んだせいか、薄紅色の椿のような柄になっていく。
そして新しい髪飾りを買ってもらった子供のように、笑みを作った。