其の百四十九 裏切りモノの化けモノ

文字数 1,432文字

――人間の世界なら、敗北は奴隷の意を示すんだけどね。

顔の半分が冷たい水のなかに浸かり、辛うじて浮いている目で女の顔を見る。

――始めに言った通り、私はバトルをしたつもりはないから。

その顔は笑ってもおらず、悲しんでもおらず、左目が無い以外普通の顔を保ったままだった。

――………。完全にあなたは死んでるでしょう。いい機会だからあの世で隠居生活をしていなさい。もし、地獄で会えたらそのときはバトルしてあげる。そのときまで預けとくわ―――



女は氷の浮かぶ川からフワっと浮かんで、空を飛んで行った。

黒豹の胴体と生首だけが、その場に残った。



女は、そのまま飛行して、代行者2人の目の前に着地した。
戦意が無い事を示すように、ゆっくりと音を立てずに。

「終わったみたいだな。」

「当然でしょ、あんな獣 余興にもならないわ。」

メアリーは本能的に戦闘態勢をとるが、ルシフェルが手で制す。

「そうか?【過冷却】を仕込んだところを見るとそうは見えないが?」

宮城はシラっと目をそらし、
「…まさか。ここにきたのはね、聞きたいことがあるからよ。どうして仕掛けてこなかったの?私だったら、漁夫の利を得ようと思うけど。」

ルシフェルは腕組を解く。
「あれはお前たちの戦いだ。俺たちには――何も関係ない。」

「うっわぁ、【救済の代行者】ともあろうかたが、そんなこと言っちゃっていいわけ??
困っている人を助けてあげるのが正しいことじゃない?」

宮城はチラリとメアリーを見る。(名前すら忘れた木偶の坊が。)

「…っ」
冷たい視線に少女は身構える

「メアリーは知らないが、俺は望んでこの立場になっているわけじゃない。仕方なくだ。
なんなら、正直にいえば朱に行きたいんだぜ?。世界を壊すほうが楽そうじゃないか。」

男の言葉に女は眉を動かす。
「そうね…。こっちのほうが楽よ? 世のために人のために行動して、気に入らないから処刑されるよりは、ねぇ。」


空っ風が吹き、雲が晴れていく。


「まぁ、いいわ。 どうせこの12月には決まるもの。 
もう【吉田ミョウ】も【黒豹】もいない、私がすべてを決めるから。」

そう言うと、辺りを吹き飛ばして女は飛び立った。



メアリーはついぞ黙ったままだった。
言葉が見つからなかったのだ。

なんのために自分が代行者になっているのか。(記憶は儂が封じた。)

ほんとうならそれを知るべきなのだが。(それは、お前自身に頼まれたからじゃ。)

メアリー。メアリー…。(そうしなければ、救済の代行者として成り立たんのだ。)

違う。わたしの名前は、こんな短い名前じゃない。






氷が解けて、見慣れた景色を取り戻す。

朝の光が差し込み、日常の平日を映し込む。

そんな朝日のなか、黒豹の生首は川に置かれたままであった。

自責と無念を抱え込みながらも、そこにいるしかなかった。

ある日――嫁が人間に殺された。 事故ではない。 歩行者が蹴り殺したのだ。


黒の自分と反対の、純白な猫。 ……白が内臓に侵されていく。 あの景色は…。


この無念はどこにぶつければ良かったのだ? 人を殺してはいけないと、白は言った。

では、この想いを誰が分かってくれるだろうか? 

その結末が、このザマである。 

黒豹は少し安堵した。 

誰にも知られず、思われずひっそりと化け物として死ぬ。

裏切ったモノの末路にはこの上なくふさわしい。

あぁ、4月に拾われたのが昔に感じる。 

はぁ。いつからこうなってしまったのだ。



「ラック…よね……っ?」


感情さえなければと思う。 

感情さえなければ、つらい思いをせずにすむのに。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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