其の百十三 シネスティア

文字数 2,452文字

風が一幕を剥ぎ取るように、大きく過ぎ去っていった。

「ハぁ……、ぁぁ………」

鉛と化した体を、腕を使って、カイは這いずる。

サーベルタイガーは悲鳴ととれる声を上げながら去っていった。

辺りの沈黙が、戦いが終わった、と知らせている。

「ク、、ソ、、が、、、ここまで来て、、、」

体から血があふれ出てくる。
彼の視界はボヤボヤな膜を張って、人間か巨木か土砂か、見分けがつかないものになっていた。

そんな状態でも彼は感じとっていた。

「警官……!!」

身体全体のわたる裂傷、皮膚から飛び出した骨、かみ砕かれた左肩、水たまりを思わせる多量の出血。

「―――――――――――」

風前の灯と誰もが納得する姿であった。

そんな【英雄】を大窄カイは、なんとしてでも、生き残るべきと考えていた。

「ぁ………」

しかし、彼自身虫の息。己が立つことさえできず、猛烈な眠気に襲われれ地面に突っ伏した。





――大窄カイ君。桜刑事。あなた方は本当に強かった。あの黒猫を撃退したんだ
並みの人間だったら、突破されて住民警官もろともに、食いつくされていた……。

「おまぇ、、は、、、」

――体に障るよ。喋ってはいけない。

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が、カイと桜を持ち上げて、

「――!?」

空高く飛び上がった。



――今月は10月だから町一つで済んだ。だけど、11月、12月と行ったらこんなもんじゃなくなる。
だからあなた達の力が必要になってくる。



青年が振り向き、カイと目を合わせる。

「その目は――」

――今回は手助けできずにすまなかった。その分これからは手を貸すよ。



そうして、泳ぐように夜空に浮かびながら、3人は病院へと向かっていった。




「ここに確かな戦闘した痕が残っている。強者とはいえ【特別措置者】と戦闘させたんだ。

五体満足ではないだろう。」

右肩に巨大な鳥を抱えたルシフェルは、血まみれの手で辺りの地面をさする。

「生身の人間とはいえ【洗脳人間】421人は骨が折れる。

ちぃ、神官なんだろこの鳥は。なんって無様な姿か。」


意識のない超鳥に毒を吐きながら、周囲の空気、空模様、小動物にいたるまでの気を探る。


「ッん?」

引っ掛かりを覚えて救済者は顎を指でさすった。

「小さな気が二つ超スピードで移動している、、だと?

いやもう一つの大きい気が抱えてって感じか??

だが大きい気の、、この類は、、

。」

…………

………………

ルシフェルは頭を悩ませる。

生身の人間でありながら、【オルドビス】の氷と水を使う、宮城キョウコ

自然界にしては、不自然な殺意と肉体を持った黒豹、サーベルタイガー

上記二体などを指し示す【特別措置者】

特別措置者――とはなんだ?罰を与える存在なのか?それとも受ける存在なのか?

の代行者――【救済】とは誰のことだ?何に対して【救済】と名乗っているのか。


「クソッッ――!!」
イラつきをぶつけるように彼は、足元にある砂利を蹴飛ばした。


「こうして考えるとなんにも知らねぇんだな。

敵はなんだ?何を狙っている?

……冷夏事件を起こしたのは宮城キョウコだった。

だが、あれは観光バスによる暴走事件――氷やら水やらなんて使われていない。
【力】を使えば楽に行えたものをなぜわざわざ?

あの黒豹は住民を殺していた。警察の情報じゃあ暴力団、カルト教団を襲ったものの、一般市民には被害はなかった。なぜ今回になって突然襲いだした?

そして――【オルドビス】【ペルム】【サンジョウ】、大昔にこの惑星に出現した存在たち、今では生命を絶滅させる者として捉えられてはいるが、、地球の自然物であることに変わりはない。」


ここで一息をつく。


「それが、計ったようにこうも出現するとなると、単純に考えて、、

敵は『惑星の代行者』ってことか、、?」


いままでの出来事を情報を混ぜて、ルシフェルは声に出した。

だが、気にいらないのか眉間にシワを寄せる。

「『惑星の代行者』が敵だと?

ふざけるなよ。

俺たちの目的は惑星の保持だぞ。それを惑星自身がぶっつぶそうてのか??」



点と点を適当につなげて出てきた、自分の馬鹿げた考えを腕で振り払って空を見上げた。


満月――それも一か月間欠けることなく、眩い黄金の光を浴びせる不自然な衛星がそこにはあった。




「戦闘の直後にその頭の回転。

非常に良いことです。

主人として嬉しく思います。

優秀な駒を選んだということは、私にとっての矜持にも成り得ましょう。」





いつからそこに居たのか。ルシフェルの目の前に一人の女性が佇んでいた。


「………!」


一目みて、只者ではない察知した。自分やメアリーと同じ瞳。



いや自分達や神官以上に、瞳の中まで輝くその蒼く、深い目に、呼吸する前に自分が溺れるような錯覚を覚える。



「こうして肉体を持っての対話は初めてですね。

………どうしたのですか?そんな顔をして?

もしかして駒ではなく、【奴隷】として扱って欲しかったのですか?」


両肩に大岩を乗せられたがごとく、ルシフェルの体がグらりと、バランスが崩れる。


「人の話は聞きなさい。そして反応を示しなさい。

――私は自分の手を煩わせる者は嫌いだ。そんな者は存在しない方が良いでしょう。」


奥の景色が見えるほどの、透明な白い長髪をなびかせて、女性は超鳥を指をさした。


「全く、近頃の神官は、気が抜けていますね。」


パンっと風船が破裂したかと思うと、肩に乗せていた超鳥が跡形も無くはじけ飛んだ。


「勘違いするな。超鳥を浅界に移動させただけだ。動けない神官なぞに価値は感じぬからな。

だが、ルシフェルそして■■■■■(メアリー)、貴様等には期待しているぞ?

の代行者】なのだからな。」


「――あんたは、、何者だ……」


ヒールを履いているのか、無機質な音を鳴らしながら女性は、ルシフェルに歩を寄せた。


「貴様等のご主人様であり、四神官の(おさ)――

名を【シネスティア】。

覚えておきなさい。

仕える主人の、名前を憶えていません、などということは、これ以上無いくらい、苦手、ですから。

では、ついて来なさい。続きは浅界にて話します。ついてこれなかったら置いていきますので悪しからず」



二人は空に向かって飛び立った。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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