其の百三十三 ジェンガ
文字数 2,015文字
――それは、どういう意味だ?
『私にもよく分からない…かな。
自分の疑問を言葉にしたら、そういう言葉になっただけだから。
でもね、自分の疑問を解決しないと私は何者にも成れないと思うの』
――だったら俺もいっしょに考えるよ!!ゆっくり考えよ!!
映画とか、紅茶とか飲みながら――『また明日ね』
-―――――――――――-―――――――――――
「君の言う『明日』ってのは7年たっても訪れないものなのかい?」
SCの口からぽっかりとした煙草の煙だけが、黄金色の暖かな空に浮いた。
-―――――――――――-―――――――――――
『うみの飲みかたはわかりましたか?』
『顔がまったく違うんですが。』
行き場のない言葉が巡る中、三島は車を走らせている。
『これ加工とかじゃないんですよね?
私の知る宮城は小柄な女性なんですけど、ビデオの彼女は190センチくらい……大学生のときに30センチ伸びた計算になります。
あと……声は、なんか面影あるんですよね。誰かの声が混じってるけどそのなかに本人の声も入ってるような、』
信号が赤になったため、ブレーキを踏みながら、ガッとサイドブレーキを引く。
「2012年、上崎さんが20歳のときに付き合いだして、姿を消したのがその2年後。
そこから先は完全な行方不明で、突然、何の前触れもなく24区の教師になったのが今年 。
ややこしいわね~……、あの女は7年という空白期間に何をしていたのよ。
それに吉田ミョウとの関連も……。」
信号が変わる頃合いをみて、半クラッチにしながらメモ帳を見つめるなか、1つの文章に目がつく。
『どうしてここまで彼女を待てるか?ですか。
彼女自身知っていましたが、精神に乱れが残っているようで――そんな状態で別れ話をしても正しくないように思えて。』
(精神の乱れ?なにか、重大な疾患でもあったのかしら?
たしかにそれを治すための空白期間なら、筋は通る。)
そこで車内に装備している無線機が鳴り響く。
(――――--!!???)
その連絡内容を聞いたとき、再び頭の混乱がよみがえりながらも、坂道を器用に2速発進して、瞬く間に走り去っていった。
-―――――――――――-―――――――――――
20区中央病院 7階
中央病院のなかでもそこそこの高さに位置する7階は、重大な疾患をもった者、もしく重要な患者が入院している階層である。
立ち入った瞬間に、より濃厚なアルコール臭と規則性のある電子機器と、遺族たちの涙が出迎える仕様になっている。
「これは……」
「ここが現人類の営む病院なるものです。
祈りを救いと考えるのはとうの昔のようで、このような無機質な電子コンピューターを扱って命を救いだす形になっています。」
あっけに取られている超鳥を横目に、医者の替わりに体内エネルギーを治癒能力にする『万樹』がガイドを始めた。
シネスティアは黒いヒールを鳴らしながら、たったいま誰か亡くなったのか悲しみに暮れる家族を一瞥する。
「人間の特徴ですじゃ。
常日頃から群れているからこそ、その空虚に耐えられずああやって崩れて落ちる。
他の生命には見られない光景です。」
「ですが――その唯一の感性があったからこそ、この世界が黎明したのです。
……万樹よ案内なさい。
未だ根差しているあの、忌々しい朱目の子に。」
女王とその側近は、目的の人物に会うために闊歩する。
「注意してくだされ。
心を読むのが得意なあなた様であれば不快な思いされかもしれません。
この万樹と読み取れた限り、『大浜ナオミ』や『三尾アヤカ』なるものが知己な存在のため、会いに来てくれればマシとは思いますが……。」
その病室は白だった。机はおろか、椅子1つなく、ベッドだけあった。
3人用と思えるほどの巨大なベッドの上に、ちょこんと1人の女の子が座っている。
その左目は、ただただエゴによって無責任に塗りつぶされた、朱い目であった。
(さて、あの青年と同じか異なるか。)
亀とカラスが固唾を飲む中、
シネスティアの吟味が始まった。
-―――――――――――-―――――――――――
17区交番
「あれはホントなの!?
間違いだったらどうなるかわかってるんでしょうね!!??」
「厳密に聴取しました……!!
しかし、いまのところ矛盾点はありません……っ」
交番のなかに、イラついたような呆れたような足音が響く。
「三島刑事、あちらの部屋に容疑者がおります。
たったいま自首してきまして、われわれも混乱していて……」
警官のたどたどしい説明を他所に、三島は乱暴にドアを開ける。
部屋は異様に暗くなっていた。
椅子が2つ、机1つの小さな取調室。
その奥の椅子に、ただただ極限まで、冷たくとがらせた黒瞳の女の子が座っている。
「どうして……っ!
傷ついたカズミちゃんを助けてあげられるのは、お友達のあなたが必要なのに……!!」
「ある神社にて、
自分の母親を刺し殺したとして『三尾アヤカ』容疑者は
16:00に自首してきました。」
カチっと17時を知らせるサイレンが鳴り響いた。
『私にもよく分からない…かな。
自分の疑問を言葉にしたら、そういう言葉になっただけだから。
でもね、自分の疑問を解決しないと私は何者にも成れないと思うの』
――だったら俺もいっしょに考えるよ!!ゆっくり考えよ!!
映画とか、紅茶とか飲みながら――『また明日ね』
-―――――――――――-―――――――――――
「君の言う『明日』ってのは7年たっても訪れないものなのかい?」
SCの口からぽっかりとした煙草の煙だけが、黄金色の暖かな空に浮いた。
-―――――――――――-―――――――――――
『うみの飲みかたはわかりましたか?』
『顔がまったく違うんですが。』
行き場のない言葉が巡る中、三島は車を走らせている。
『これ加工とかじゃないんですよね?
私の知る宮城は小柄な女性なんですけど、ビデオの彼女は190センチくらい……大学生のときに30センチ伸びた計算になります。
あと……声は、なんか面影あるんですよね。誰かの声が混じってるけどそのなかに本人の声も入ってるような、』
信号が赤になったため、ブレーキを踏みながら、ガッとサイドブレーキを引く。
「2012年、上崎さんが20歳のときに付き合いだして、姿を消したのがその2年後。
そこから先は完全な行方不明で、突然、何の前触れもなく24区の教師になったのが
ややこしいわね~……、あの女は7年という空白期間に何をしていたのよ。
それに吉田ミョウとの関連も……。」
信号が変わる頃合いをみて、半クラッチにしながらメモ帳を見つめるなか、1つの文章に目がつく。
『どうしてここまで彼女を待てるか?ですか。
彼女自身知っていましたが、精神に乱れが残っているようで――そんな状態で別れ話をしても正しくないように思えて。』
(精神の乱れ?なにか、重大な疾患でもあったのかしら?
たしかにそれを治すための空白期間なら、筋は通る。)
そこで車内に装備している無線機が鳴り響く。
(――――--!!???)
その連絡内容を聞いたとき、再び頭の混乱がよみがえりながらも、坂道を器用に2速発進して、瞬く間に走り去っていった。
-―――――――――――-―――――――――――
20区中央病院 7階
中央病院のなかでもそこそこの高さに位置する7階は、重大な疾患をもった者、もしく重要な患者が入院している階層である。
立ち入った瞬間に、より濃厚なアルコール臭と規則性のある電子機器と、遺族たちの涙が出迎える仕様になっている。
「これは……」
「ここが現人類の営む病院なるものです。
祈りを救いと考えるのはとうの昔のようで、このような無機質な電子コンピューターを扱って命を救いだす形になっています。」
あっけに取られている超鳥を横目に、医者の替わりに体内エネルギーを治癒能力にする『万樹』がガイドを始めた。
シネスティアは黒いヒールを鳴らしながら、たったいま誰か亡くなったのか悲しみに暮れる家族を一瞥する。
「人間の特徴ですじゃ。
常日頃から群れているからこそ、その空虚に耐えられずああやって崩れて落ちる。
他の生命には見られない光景です。」
「ですが――その唯一の感性があったからこそ、この世界が黎明したのです。
……万樹よ案内なさい。
未だ根差しているあの、忌々しい朱目の子に。」
女王とその側近は、目的の人物に会うために闊歩する。
「注意してくだされ。
心を読むのが得意なあなた様であれば不快な思いされかもしれません。
この万樹と読み取れた限り、『大浜ナオミ』や『三尾アヤカ』なるものが知己な存在のため、会いに来てくれればマシとは思いますが……。」
その病室は白だった。机はおろか、椅子1つなく、ベッドだけあった。
3人用と思えるほどの巨大なベッドの上に、ちょこんと1人の女の子が座っている。
その左目は、ただただエゴによって無責任に塗りつぶされた、朱い目であった。
(さて、あの青年と同じか異なるか。)
亀とカラスが固唾を飲む中、
シネスティアの吟味が始まった。
-―――――――――――-―――――――――――
17区交番
「あれはホントなの!?
間違いだったらどうなるかわかってるんでしょうね!!??」
「厳密に聴取しました……!!
しかし、いまのところ矛盾点はありません……っ」
交番のなかに、イラついたような呆れたような足音が響く。
「三島刑事、あちらの部屋に容疑者がおります。
たったいま自首してきまして、われわれも混乱していて……」
警官のたどたどしい説明を他所に、三島は乱暴にドアを開ける。
部屋は異様に暗くなっていた。
椅子が2つ、机1つの小さな取調室。
その奥の椅子に、ただただ極限まで、冷たくとがらせた黒瞳の女の子が座っている。
「どうして……っ!
傷ついたカズミちゃんを助けてあげられるのは、お友達のあなたが必要なのに……!!」
「ある神社にて、
自分の母親を刺し殺したとして『三尾アヤカ』容疑者は
16:00に自首してきました。」
カチっと17時を知らせるサイレンが鳴り響いた。