其の八十四 特別措置者№3 ペルム
文字数 1,782文字
四体目の特別措置者『サンジョウ』の力を使い、救済の代行者『メアリー』と互角の戦いを繰り広げる『早妃ショウゾウ』。
辺りは自然発火を起こすほどの熱を帯び、原っぱは黒焦げに、川は沸騰し魚が白い眼をして浮かび上がってきていた。
メアリー自身も服や体に焼けどを負い、内臓が溶けていくのを感じている。
そんな中観戦に徹していた『早妃フミコ』が選手交代といった感じに、彼女の目の前に立ちはだかった。三体目の特別措置者『ぺルム』の力を使って……
「聞かせなさい。お前達が惑星を滅ぼす理由を……」
身構えながらも、息を整う時間を稼ぐように問うた。
「簡単なことよ。そう命令されたから。ただそれだけよ。」
フミコは表情一つ変えずに言葉を紡いでいった。
「言ったでしょ?私たちは役者に過ぎない。監督の言う通りに『惑星を滅ぼす』ためのセリフと動作を行うだけ。アドリブなんて『それ以外』の物は求められていない。いわば物語を成り立たせる使い捨ての歯車なのよ。」
辺りの炎は海のように広がり、猫や犬、ウサギに昆虫たちの皮膚を剥がしていった。
「そうね、それを見越して言うならば、『私』はそれだけの理由なの。ただ『地球生命体 』が単に邪魔なのよ。」
メアリーは眉をひそめる。
「親が子供を愛する――そんな法則なんてないでしょ?」
フワっとフミコは宙に浮かび、彼女とその周辺をみおろした。
どこか懐かしみを含んだ朱い瞳は、誰にも察せられることなく、殺意を帯びたものへと切り替わった。
「息は整ったかしら?次は私に見せてみなさい。あなたの力を――!!」
女は空中で指揮をするように腕を掲げた。
その直後、メアリーは地中からうごめく何かを察知する
ミミズのように何かが不規則に動いている――そう考察した瞬間に足元から、緑色の巨大な触手が姿を現した。
「これは!?」
その触手はニュルニュルと、艶めかしいテカリを見せながら炎すら飲み込み、彼女を囲むように展開された。
そこから抜け出すため、彼女もまた宙に浮かび、上空にいるフミコの下へと向かう。
それらの様をフミコは冷たい眼とヌルりとした笑みを浮かべていた。
「お前を殺せばッッ!!」
彼女は拳に力を集中させて、一直線に女に放った。
「!?」
しかし拳は届いていない。
先程の巨大な触手が、女の盾といった感じにメアリーの拳を受け止めていた。
「あッ!」
呆気に取られている内に、メアリーはその触手に叩き落とされてしまった。その際頬に一本の切り傷が入る。
「なんなのよ!!あれは!!」
植物を模したような触手にイラつきを露わにしながら、早妃フミコに目をやった。
「フフフフフフフ。」
口元を手で隠して、上品にも笑いを上げている。
そんなフミコの様子を呆然していく頭を使って観察していると、不意に鋭い痛みが腹を襲った。
「ッ――」
恐る恐る確認してみると、全長20センチメートルはあろう巨大な『カブトムシ』がその角を突き立てていた。
触手と同じ緑色を、特別措置者と同じ朱い目をしたカブトムシは、四本の足を懸命に動かし角を奥へ奥へと指していく。
赤い血が少女の体からこぼれ落ちていき、メアリーは糸が切れたように膝をついた。
「ぁ……はぁ……ゴホゴホ……」
咳をした拍子に鉄臭くドロドロとした血が口から吐き出された。血を押さえようと左手で口を押し当てるが、ここで違和感を覚えた。
――人差し指が切断されていたのだ。
切り落とされた人差し指の近くに、カブトムシと同じ特徴を持った『クワガタ』がカサカサと地面を歩いていた。
(痛みも感じなかったってのに……)
一矢報いるためかメアリーは腹に突き刺さっているカブトムシを引っこ抜いてくしゃりと握りつぶし、地面を歩いていたクワガタを一瞬のうちに叩きつぶした。
ついに力尽きて、少女はうつ伏せに倒れた。
「『
音もたてずに地面に着地したフミコは、倒れたメアリーのもとに近づいて行った。巨大な触手は姿を消していた。
「過信は良くないわ。犬神に助けを求めれば良かったのに、あなたは頑なに一人で向かってきた。甘えられないのもまた弱さ。これじゃあ……
フミコは右手で手刀を作ると、
メアリーの首を切り離すように
空を切り裂き薙ぎ払った。
辺りは自然発火を起こすほどの熱を帯び、原っぱは黒焦げに、川は沸騰し魚が白い眼をして浮かび上がってきていた。
メアリー自身も服や体に焼けどを負い、内臓が溶けていくのを感じている。
そんな中観戦に徹していた『早妃フミコ』が選手交代といった感じに、彼女の目の前に立ちはだかった。三体目の特別措置者『ぺルム』の力を使って……
「聞かせなさい。お前達が惑星を滅ぼす理由を……」
身構えながらも、息を整う時間を稼ぐように問うた。
「簡単なことよ。そう命令されたから。ただそれだけよ。」
フミコは表情一つ変えずに言葉を紡いでいった。
「言ったでしょ?私たちは役者に過ぎない。監督の言う通りに『惑星を滅ぼす』ためのセリフと動作を行うだけ。アドリブなんて『それ以外』の物は求められていない。いわば物語を成り立たせる使い捨ての歯車なのよ。」
辺りの炎は海のように広がり、猫や犬、ウサギに昆虫たちの皮膚を剥がしていった。
「そうね、それを見越して言うならば、『私』はそれだけの理由なの。ただ『
惑星
』にとって『メアリーは眉をひそめる。
「親が子供を愛する――そんな法則なんてないでしょ?」
フワっとフミコは宙に浮かび、彼女とその周辺をみおろした。
どこか懐かしみを含んだ朱い瞳は、誰にも察せられることなく、殺意を帯びたものへと切り替わった。
「息は整ったかしら?次は私に見せてみなさい。あなたの力を――!!」
女は空中で指揮をするように腕を掲げた。
その直後、メアリーは地中からうごめく何かを察知する
ミミズのように何かが不規則に動いている――そう考察した瞬間に足元から、緑色の巨大な触手が姿を現した。
「これは!?」
その触手はニュルニュルと、艶めかしいテカリを見せながら炎すら飲み込み、彼女を囲むように展開された。
そこから抜け出すため、彼女もまた宙に浮かび、上空にいるフミコの下へと向かう。
それらの様をフミコは冷たい眼とヌルりとした笑みを浮かべていた。
「お前を殺せばッッ!!」
彼女は拳に力を集中させて、一直線に女に放った。
「!?」
しかし拳は届いていない。
先程の巨大な触手が、女の盾といった感じにメアリーの拳を受け止めていた。
「あッ!」
呆気に取られている内に、メアリーはその触手に叩き落とされてしまった。その際頬に一本の切り傷が入る。
「なんなのよ!!あれは!!」
植物を模したような触手にイラつきを露わにしながら、早妃フミコに目をやった。
「フフフフフフフ。」
口元を手で隠して、上品にも笑いを上げている。
そんなフミコの様子を呆然していく頭を使って観察していると、不意に鋭い痛みが腹を襲った。
「ッ――」
恐る恐る確認してみると、全長20センチメートルはあろう巨大な『カブトムシ』がその角を突き立てていた。
触手と同じ緑色を、特別措置者と同じ朱い目をしたカブトムシは、四本の足を懸命に動かし角を奥へ奥へと指していく。
赤い血が少女の体からこぼれ落ちていき、メアリーは糸が切れたように膝をついた。
「ぁ……はぁ……ゴホゴホ……」
咳をした拍子に鉄臭くドロドロとした血が口から吐き出された。血を押さえようと左手で口を押し当てるが、ここで違和感を覚えた。
――人差し指が切断されていたのだ。
切り落とされた人差し指の近くに、カブトムシと同じ特徴を持った『クワガタ』がカサカサと地面を歩いていた。
(痛みも感じなかったってのに……)
一矢報いるためかメアリーは腹に突き刺さっているカブトムシを引っこ抜いてくしゃりと握りつぶし、地面を歩いていたクワガタを一瞬のうちに叩きつぶした。
ついに力尽きて、少女はうつ伏せに倒れた。
「『
強さを以て悪を挫き、誇りを以て生道を歩み、魅力を以て先導する
』あなたの口癖だったわよね。己の強さに自身を持つことはいいことよ。でもね……」音もたてずに地面に着地したフミコは、倒れたメアリーのもとに近づいて行った。巨大な触手は姿を消していた。
「過信は良くないわ。犬神に助けを求めれば良かったのに、あなたは頑なに一人で向かってきた。甘えられないのもまた弱さ。これじゃあ……
生前の過ちを繰り返しているだけじゃない
。」フミコは右手で手刀を作ると、
メアリーの首を切り離すように
空を切り裂き薙ぎ払った。