其の四 遠足(起句)
文字数 2,524文字
五月中旬の蒸し暑くなってきたこの時期、室内に役員全員が揃い議会を行おうとしていた。
「会長、確認終わりました。全員揃っています。」
ありがとうと言ってシンは前に出て、アヤカは一歩前に下がった。
それでは、と議会を始めようとしたため、私はここで一言モノ申す事にした。
「はい」
「?。何か言いたいことでも?」
席から立ちあがり、左手の指でナオミの膝上に乗っている黒猫を指した。
「名前を呼んであげようよ!せっかくここの部屋ん中にいるんならさ!おまいらだって分かるだろ⁉そこにいるのに名前を呼ばれない辛さはよぉぉ~。」
大きな動作と声で堅牢な空気をひしゃげてやった。硬い空気は好きではない。
「あぁ、ホントお前は役員には向かないって感じさせてくれるな。」
シンは呆れながら長机の接地させている教卓に、資料を挟み込んでいるであろう分厚いファイルをドンと置いた。
「でもでも、ミョウのおかげで、お堅い空気とは無縁の生徒会になりたっているから私は感謝してるわ。」
「僕も楽しい雰囲気のほうが気が楽ですから助かります。」
ハチとスイが賛同してくれたので気分はちょっと好調になってきた。そこはそことして、黒猫は困惑した顔を浮かべている。
「いや、儂自身ここにいることが場違いな気がして気が引けるのじゃが…。」
「何言ってんだラック。あたしがここに連れてきたんだ。誰にも文句は言わせねえよ。」
うわ、こうしてみるとおっぱいのついたイケメンじゃん。こうしてみると。あー、くっそ頭撫でられている黒猫に嫉妬が沸いて出てくる。
パンパンと拍手の音が聞こえた。
「はいはい、早く議会を終わらせよう。早めに帰りたいでしょ?」
……。
……………。
「二週間後に行われる遠足。往復二十キロのコースを歩くため、かなりの疲労が蓄積されると思われます。だから休憩も兼ねてクイズ大会を各所で行う形式が良いかと−−。」
さすがはアヤカ。二年生でありながら副会長を任された人間である。長から出される意見を上手くまとめ上げて一つの意見に落とし込む。私にそんなことは出来ない。尊敬するべき所ばっかりだ。
「吉田先輩。」
「ひゃい⁉」
いきなり意識がオレに向けられたため、驚いて可笑しな声を出してしまった。
「私の体をジロジロ観察するのは構いませんが…ちゃんと話は聞いてますか?」
うぐ、恐ろしく冷たい声…。女性はみんなこの声を出せるのだろうか。
「あ、当たり前だ。」
見栄を張る。
「では、先輩は列のどのあたりに位置するんですか?」
あ?列?位置?そんな話になってたっけ?
チラっと左手にいるヨウに目配せをする。
「……………。」
こいっつ!目だけ合わせて何も教えようとしねぇ!ダチが困ってたら助けるのが友情ってもんだろ⁉
「もういいです。先輩あなたはここですから頭にいれてください。」
ホワイトボードをコンコンと人差し指の爪で指しながらたしなめられた。
『教えてくれよおぉー。オレたちの仲だろうぅ?』
小声でヨウに話かける。
『聞いてなかったあなたが悪いです。』
至極まともなことを言われる。
『そうよミョウ。アヤカちゃんは確かに魅力的な女の子だけど、人の話はちゃんと聞かないと♡』
右手にいるハチも聞いていたらしい。耳の痛いことを言われる。
ホワイトボードを見てもう一度確認をする。オレは列の…最後方だった。行きはオレとヨウ。帰りはオレとナオミか。なんとも複雑な気分になる。
列の並び方もクイズ大会のこともスケジュール諸々決まり終わった。しかし大きな懸念点が一つ残っていた。
「大窄カイ…。」
誰か一人がポツンと呟いた。だがそれに応える人はいない。役員全員が沈黙するくらいの存在なのだ。彼らは優しい人間だから、生徒全員、とはいかないまでも一人でも多くの生徒に楽しんでもらいたいと考えているのだろう。しかし一つの出来事でイベント全体が台無しにされてしまうことが頭によぎっている状態になっている。
「吉田。」
シンから名指しされる。
「−−頼めるか?」
待ってましたといわんばかりに、オレは勢い良く立ち上がった。
「オレに任せと−−」
宣言はしようとした。大きな声で。しかし声は口からでず変わりにいぼガエルのような吐息が吐き出された。
腹の方を見ると細い腕が突き刺さっていた。
「−−ッガ—おまッ−。」
「ごめんなさいね、耳障りだったものだったからついね……。」
蟲嫌いな彼女は腕をスルリと、それ以上に汚ないように慎重に引き戻した。
腹をやられたオレは椅子に崩れ落ち机にガッシャんと突っ伏し、それを黒猫とハチとヨウが同情した顔で見ていた。
「会長、吉田君は気分が優れないみたいだから、今回はここで区切りを置いた方が良いかと。」
さも当然のようにナオミは進言した。
「あ、あぁ。議題はまとまったし、今回はここまでしよっか。」
こうしてあっけなく議会は終わり役員はそれぞれの場所に戻った。
−−ただ一人を除いて。
議会は終わり、皆はそれぞれのいるべき所に戻った。物理室にはオレとラックが優雅なるティータイムを楽しんでいた。オレはズズ…とブラックコーヒーを。ラックは女性陣が仕入れたであろうミルクをぺろぺろとなめていた。
「小僧大丈夫なのか?」
一しきりミルクを味わった黒猫が聞いてきた。
「議題に上がっていた『カイ』という男は恐ろしいヤツなんじゃろ?シンがお前さんを指名をしておったが儂は心配でな…。」
窓側に向けていた体を黒猫に向けてカップをコツっと置いた。
「正直…メッチャ不安!」
大声で吐いた。
「当たり前だろぅ⁉気に入らない人間をその拳で次から次へと叩き潰した暴君やぞ!そんなヤツの相手したら僕ちゃん死んじまうぜぇ⁉」
腕をグワングワンを振り回し咽び喚いた。
「お、落ち着け小僧!…だったらシンに断りに行った方が−−。」
「それは駄目だ。」
動きをピタリと止めてハッキリと口にした。
「こんなオレでも一応は役員だからな。イレギュラーだけど…。だが、あ、与えられた仕事ぐらいこなしてみせるさ!」
声高らかに宣言した。
「小僧、む、無茶はするなよ…!。」
ハハ、ダイジョブダイジョブと流した。
「会長、確認終わりました。全員揃っています。」
ありがとうと言ってシンは前に出て、アヤカは一歩前に下がった。
それでは、と議会を始めようとしたため、私はここで一言モノ申す事にした。
「はい」
「?。何か言いたいことでも?」
席から立ちあがり、左手の指でナオミの膝上に乗っている黒猫を指した。
「名前を呼んであげようよ!せっかくここの部屋ん中にいるんならさ!おまいらだって分かるだろ⁉そこにいるのに名前を呼ばれない辛さはよぉぉ~。」
大きな動作と声で堅牢な空気をひしゃげてやった。硬い空気は好きではない。
「あぁ、ホントお前は役員には向かないって感じさせてくれるな。」
シンは呆れながら長机の接地させている教卓に、資料を挟み込んでいるであろう分厚いファイルをドンと置いた。
「でもでも、ミョウのおかげで、お堅い空気とは無縁の生徒会になりたっているから私は感謝してるわ。」
「僕も楽しい雰囲気のほうが気が楽ですから助かります。」
ハチとスイが賛同してくれたので気分はちょっと好調になってきた。そこはそことして、黒猫は困惑した顔を浮かべている。
「いや、儂自身ここにいることが場違いな気がして気が引けるのじゃが…。」
「何言ってんだラック。あたしがここに連れてきたんだ。誰にも文句は言わせねえよ。」
うわ、こうしてみるとおっぱいのついたイケメンじゃん。こうしてみると。あー、くっそ頭撫でられている黒猫に嫉妬が沸いて出てくる。
パンパンと拍手の音が聞こえた。
「はいはい、早く議会を終わらせよう。早めに帰りたいでしょ?」
……。
……………。
「二週間後に行われる遠足。往復二十キロのコースを歩くため、かなりの疲労が蓄積されると思われます。だから休憩も兼ねてクイズ大会を各所で行う形式が良いかと−−。」
さすがはアヤカ。二年生でありながら副会長を任された人間である。長から出される意見を上手くまとめ上げて一つの意見に落とし込む。私にそんなことは出来ない。尊敬するべき所ばっかりだ。
「吉田先輩。」
「ひゃい⁉」
いきなり意識がオレに向けられたため、驚いて可笑しな声を出してしまった。
「私の体をジロジロ観察するのは構いませんが…ちゃんと話は聞いてますか?」
うぐ、恐ろしく冷たい声…。女性はみんなこの声を出せるのだろうか。
「あ、当たり前だ。」
見栄を張る。
「では、先輩は列のどのあたりに位置するんですか?」
あ?列?位置?そんな話になってたっけ?
チラっと左手にいるヨウに目配せをする。
「……………。」
こいっつ!目だけ合わせて何も教えようとしねぇ!ダチが困ってたら助けるのが友情ってもんだろ⁉
「もういいです。先輩あなたはここですから頭にいれてください。」
ホワイトボードをコンコンと人差し指の爪で指しながらたしなめられた。
『教えてくれよおぉー。オレたちの仲だろうぅ?』
小声でヨウに話かける。
『聞いてなかったあなたが悪いです。』
至極まともなことを言われる。
『そうよミョウ。アヤカちゃんは確かに魅力的な女の子だけど、人の話はちゃんと聞かないと♡』
右手にいるハチも聞いていたらしい。耳の痛いことを言われる。
ホワイトボードを見てもう一度確認をする。オレは列の…最後方だった。行きはオレとヨウ。帰りはオレとナオミか。なんとも複雑な気分になる。
列の並び方もクイズ大会のこともスケジュール諸々決まり終わった。しかし大きな懸念点が一つ残っていた。
「大窄カイ…。」
誰か一人がポツンと呟いた。だがそれに応える人はいない。役員全員が沈黙するくらいの存在なのだ。彼らは優しい人間だから、生徒全員、とはいかないまでも一人でも多くの生徒に楽しんでもらいたいと考えているのだろう。しかし一つの出来事でイベント全体が台無しにされてしまうことが頭によぎっている状態になっている。
「吉田。」
シンから名指しされる。
「−−頼めるか?」
待ってましたといわんばかりに、オレは勢い良く立ち上がった。
「オレに任せと−−」
宣言はしようとした。大きな声で。しかし声は口からでず変わりにいぼガエルのような吐息が吐き出された。
腹の方を見ると細い腕が突き刺さっていた。
「−−ッガ—おまッ−。」
「ごめんなさいね、耳障りだったものだったからついね……。」
蟲嫌いな彼女は腕をスルリと、それ以上に汚ないように慎重に引き戻した。
腹をやられたオレは椅子に崩れ落ち机にガッシャんと突っ伏し、それを黒猫とハチとヨウが同情した顔で見ていた。
「会長、吉田君は気分が優れないみたいだから、今回はここで区切りを置いた方が良いかと。」
さも当然のようにナオミは進言した。
「あ、あぁ。議題はまとまったし、今回はここまでしよっか。」
こうしてあっけなく議会は終わり役員はそれぞれの場所に戻った。
−−ただ一人を除いて。
議会は終わり、皆はそれぞれのいるべき所に戻った。物理室にはオレとラックが優雅なるティータイムを楽しんでいた。オレはズズ…とブラックコーヒーを。ラックは女性陣が仕入れたであろうミルクをぺろぺろとなめていた。
「小僧大丈夫なのか?」
一しきりミルクを味わった黒猫が聞いてきた。
「議題に上がっていた『カイ』という男は恐ろしいヤツなんじゃろ?シンがお前さんを指名をしておったが儂は心配でな…。」
窓側に向けていた体を黒猫に向けてカップをコツっと置いた。
「正直…メッチャ不安!」
大声で吐いた。
「当たり前だろぅ⁉気に入らない人間をその拳で次から次へと叩き潰した暴君やぞ!そんなヤツの相手したら僕ちゃん死んじまうぜぇ⁉」
腕をグワングワンを振り回し咽び喚いた。
「お、落ち着け小僧!…だったらシンに断りに行った方が−−。」
「それは駄目だ。」
動きをピタリと止めてハッキリと口にした。
「こんなオレでも一応は役員だからな。イレギュラーだけど…。だが、あ、与えられた仕事ぐらいこなしてみせるさ!」
声高らかに宣言した。
「小僧、む、無茶はするなよ…!。」
ハハ、ダイジョブダイジョブと流した。