其の七十九 救済の代行者 

文字数 1,258文字

浅界 礼拝堂

「………。

以上が地上にいる犬神からの伝達内容です。」

超鳥は訝しむように、万樹の顔を覗き見る。

「ぬぅ。」
一つ短めのため息をついて、万樹は報告を声に出して。

「『一人の人間種族体から、我が母の(におい)を感知しました。』……か。

これはどういうことだ?いくら地球人といっても、我が母(惑星)と直接的な関りはないはずだ。」

「左様。我らの管轄外で、何かが行われている可能性があるかと。

で、あれば

?」


「一体では負担が大きすぎるか。」

………。

万樹と超鳥は、後ろの聖母像を仰ぎ見た。


―――――――――――― 


11区 牛神像の神社


「ゴホ……ごほごほ……」

意識を飛ばすほどの痛みに、むせ返りながら桜は辺りを見渡した。
太陽光だけが光源のためか、薄暗く呼吸をするたびに、ホコリが喉に付着するのが感じ取れる。
生温かい血液が口元を伝っていくのを感じた。

「刑事さんよ、いい加減教えてはくれねぇか?『神官』と『代行者』についてなーー。」

小屋の入口から、早妃ショウゾウが首を鳴らしながらズカズカと入ってきた。

「痛いのは嫌だろう。早く教えてくりゃあ、俺たちもこんなことをしなくて済むんだ。

どうせお前達は死ぬわけだし。」



「敵に…情報を与える、バカだと思うか……?」
「お前は自分より、周りを優先するタイプか?
やめておけ。ろくなことがないぞ?」



その言葉に抵抗するように、桜は拳銃を撃ち放った。




………。

……………。



己の実力を見せつけるように、ショウゾウはのっそりと、手から弾を落とした。

「もう少し、痛めつけるか。」
「く、クソったれめ―――!!」



突っ込んできた大男の攻撃を、刑事は両腕で防御した。

「ガッッ!!?」

一度目の攻撃はなんとか受けきったが……
その強大無比のパワーに圧倒され、刑事の体と腕はマヒして動くことができずに

「どぉれ――もう一発うう!!」
「!!――」


コンクリートで出来た小屋の壁ごと、刑事は吹っ飛ばされていった。




「ガあああああああああああ!!!????」


桜の左腕――その肘から先は千切れてしまったのか存在していなかった。


「クスクス……人間ってホントに脆いわねぇ。」

早妃フミコはルビーのような瞳を煌めかせながら、日傘をさして佇んでいる。


「刑事はどんな感じだ?」
「まだ遊べるわよ。」
「ほぉ、そうか。」


ショウゾウは、血まみれの桜の首を掴み上げた。

「最後のチャンスだ。『神官は何人いる?』『救済の代行者は誰から送られてきた?』」



飛行機が――1本の筋を空に書き残していく。


ツクツクボウシが鳴いている。


平和だった日常を、刑事は空想しながら………


「誰が教えるかよ………

ばぁか……!」

血と泥が混じった唾を、男の顔に吐いた。





「では、死ね。」



男の手刀が、刑事の大動脈を掻っ切る




コンマ2秒前



「グッッ!??」

「なッッ!??」

殺しを確信した男と

観客に徹していた女が、ほぼ同時に神社の社へと吹き飛ばされた。






「遅れました。


もう大丈夫です。」



意識が途切れる寸前、桜が垣間見たのは――


血のような真紅の眼とは対照的な、


大海のような瑠璃色の目をした


救済の代行者であった。

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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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