其の十五 六月の頭の痛み

文字数 1,442文字

 朝六時十分、リズムの遅い目覚まし時計に合わせてアヤカは起き上がる。
寝ぐせでボサボサになった髪を櫛で丁寧にとかし、寝巻から制服へと着替えた。
カッターシャツのボタンを綺麗に差し込み、スカートのチャックをキッチリと閉めて、首元に蝶々結びでリボンを作った。
 鏡で自らの姿を確認したあと、黒いヘアゴムを手に取り総髪(ポニーテール)を結わえた。
 髪を結い、制服を綺麗に整えた。しかし彼女は鏡に映る自分を見続けた。その後蟲を殺したような表情を浮かべてヘアゴムを一層硬く結び直した。八つ当たりのように。
 頭が痛かった。


 水平線沿いに朝日は見えなかった。暗くどんよりとした雲が、空を覆い霧雨を立ち込めさせている。そして深夜に雨でも降ったのか地面はじっとり濡れており、雨の匂い――ペトリコールが香水のように世界に染み込んでいた。


「ア~~クッソ、最近寝つき悪いわー。」
ロングがイライラした口調で、べらぼうな物言いをする。
 「ホットミルクを勧めるよ。」
 アヤカが助言をする。
 「ちがうちがう…課題の問題なんだよ‼多いんだよ‼この学校は‼やたらと‼」
 「うん、そこに関してはロングに同感。」
 しっとりした言触でウルフが賛同する。
 「ここの学校の課題はシンプルに多い。まじめにやっても深夜までかかっちゃう……。まぁ、昨日は大雨で睡眠妨害にはなったけど。」
 「アヤカは早めに終わらせた?」
 ロングが純粋な疑問を口にした。
 「もちろん。」
 アヤカは当然のように軽く言った。
 「ゲぇ、まじか~……アヤカはスゲェなぁ。バレー部のキャプテンになって、生徒会やってて点数だって取れるんだもんなぁ。あたし達もそうなりてぇなー。」
 コクコクとウルフも頷いた。


 そこからアヤカは普通の学校生活を送った。
 三人で机をくっつけて弁当を食べた。ロングをチキンを噛み千切り、ウルフはフリカケを掛けたご飯をほおばっていた。
 掃除時間では、ほうきをセカセカとゴミを取っていった。ホコリやクリップ、破れた紙切れなど。
 授業でもちゃんと答えるべき所は答えた。立たされた人はいつものごとくいたがアヤカ自身は立つことはなかった。
「なんで、そうなるんだよ~……」
 ロングは嘆いていた。
 「適当に言って当たるなんて、運も実力の内ね。」
 ウルフは自己分析していた。
 そうして日が傾き放課後になった。彼女はどこにでもいる高校生のように、授業を受け、友人としゃべり、笑った。ただ頭痛は収まらなかった。薬を飲んでも、友人と関わっても。


 「手伝ってほしいことがもう一つ?」
 段ボールの中身を確認しながら、アヤカは言った。
 「あと、2,3週間もすれば期末テストだろ?そのためのポスターやらスケジュールやらをプリントで整理しないといけない。」
 数年前の教材が入った二つの段ボールを、焼却炉にぶち込みながらシンは一通り説明した。
 「それで手伝ってほしいんだけど、大丈夫か……?」
 確認した状態のまま膝をついているアヤカに尋ねた。
 「――大丈夫です。大丈夫ですから……。」
 制服のシワを直すように、アヤカは二の腕をさすった。
 「十分後に手伝いに行きます…。どこでやるんですか?」
 ずっしりと立ち上がって涼しい言葉で述べた。
 「場所は物理室だ。暇な吉田にもやらせようと思ってね。」
 「さすが会長。それは妙案ですね。」
 そうしてシンは一足先に戻っていった。


 両手を口に当ててアヤカは息を吹きかけた。
 心臓の鼓動に合わせて頭が締め付けられる。
 寒い。寒い。
 「ホント最低……」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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