其の四十 二学期へ……

文字数 995文字

 九月三日 午前11時37分

 三区 鬼岳山頂上 

 青いスカーフを締めた少女がベンチに腰掛ける。
 息を吐きながら、疲れを和らげるように。

 彼女の目の前には、息をこぼすほどの街並みがうかがえる。
 左を見れば畑が広がり、右を見ればミニチュアのような建物が無数に展開されている。
 人々は普通に歩く。車は普通に走る。生徒は普通に学習する。
 そこに

を見ることはできない。
 「ずっと見てましたけど、気持ち悪いですね。行動に一貫性がないっていうか。」
 腰まである黒髪を、迷いなくヘアゴムで結んでいく。
 その少女の足元に年老いた亀がよちよちと歩いて来ていた。
 「――この惑星すべてに倒錯的な感情(コンプレックス)を抱く『存在』……それが『吉田ミョウ』という人間の

にすぎんからな。」
 「二重人格ですか……?」
 「厳密には違う。その『存在』が吉田を演じてるだけだ。ヤツにとって我々は害虫みたいなものだ。ゴキブリ、クモ、ムカデ、アリ、………、それらを殺してゴミ箱に投げ捨てる。――人間や動物を殺すのはそれと同義、というわけだ。」
 「なんのために?」
 「意味などないだろう。『

。』しか思ってはいまい。」
 少女は唇に人差し指をあて、湿った吐息を吹きかけた。
 「だが、

のおかげで

。……驚くべき自我の持ち主だよ。」
 亀は、青い空の奥を眺める。


 「神官である万樹さんは何でもしってますね。そういえば他の神官の方々はどこへ行ったのですか?犬神さん、超鳥さん、あと鶴の千流さんは?」
 亀は少女に向き直り嫌そうな顔を浮かべた。
 「犬神も、超鳥も別の仕事だ。鶴のバカはおおかた他の現場監督でもしとるんだろ。」
 んん、と咳払いをし亀――万樹は表情を整えると、
 「ではメアリー、今後の調査を頼むぞ。この地球(わくせい)のためにな。」
 「…………」
 運動靴の泥と草を手で拭き上げながら、少女――メアリーは立ち上がり、立ち去っていく万樹に声をかけた。
 「あなた方であれば、その『存在』の正体も分かるのではないですか…?」
 揺れ動く芝生を歩くなか、万樹は振り向きもしなかった。
 「言ってしまえば、我々が作り出した『特別措置者(イレギュラー)』だ。」


 「――そういうわけだ。わかったかな?

の成り立ちというものが。」
 学ランをなびかせながら彼は言った。凝縮されたすべての感情を、その底の無い真っ黒な瞳に堕として。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み