其の五十二 死に至る病 

文字数 967文字

 
 死――全ての生命の祝福のなかで、最大の公正さを有するもの







 




 22時30分

 26区 丸木港


 ざざあぁん。ざざあぁん。

 月光を反射する波は、ノックをするようにテトラポットに身を寄せる。

 透き通るような波音は

 そのとおりに

 誰の耳にも残らず

 どこかへ消えていく。

 
 「――――」

 白いカーディガンを羽織っただけの薄着の少女は、お構いマシと言わんばかりに、腰どころか、背中までつけて寝転がっていた。

 右手には、ワイヤレスイヤホンのケースを赤子のように握りしめている。

 しかし、スマホの画面は無表情のままである。

 『……ありがとうございます。

  でも大丈夫ですよ。ナオミ先輩。

  私はお父さんとお母さんの分まで

って決めたので。』


 後ろを向きながら、表情を隠すように、その短くなった髪を整えながら、

は言った。

 それは少女に嘲りを含んだ、呆れを起こすだけだった。

 誰にも



 誰にも



 



 ――
 ―――――

 それは彼女を孤立させて

 破滅させて

 やがては死に追いやるのだろう

 先輩として友達として、ナオミは助けるべきと、もちろん感じている。

 ではその方法とは?
 
 両親を失い、片目を失い、『世界そのもの』を失った彼女に何を言えるだろうか?

 ――言えない。

 それこそ
 ナオミ自身もまた、家族をすべて殺されて、駄目押しと言わんばかりに、片目を潰して、

 ようやく同じ立場というもの。

 あなたにはできる?
 友達とはいえそんなバカげたことできる?

 「できるわけないわ――。

  フフフ……無責任ってあたしは言われるのかしら。

  うるさいわね。

  アイツがそう言ったんじゃない。あたしが関わることじゃないでしょ……!」

 生ゴミに蓋をするような、突き放した言葉で一人言を言う。
 
 少女の言うことは間違っていない

 

のだから。









 「すみません。」
 不意に声がかけられた。

 この時間に出歩く人は滅多にいないため、ナオミはバッタのように飛び起きた。

 「ここは26区の『まるき港』ってところですか?」

 ナオミよりも幾分か幼い女の子が立っていた。

 真夜中で、小柄なのに、目を離せない存在感をはなっており

 月光にあてがれ

 

は白くぼやけていた。
 
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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