其の百四十六 特別措置者№1 オルドビス
文字数 2,008文字
赤く煌びやかな爪を、フィギュアスケートのように【美】を振りまいて、氷の銃を的確に放つ宮城。
カウンターをかわし、さらに熱を上げて、追尾し続ける黒豹。
爆風と氷晶は嵐のごとく突風を呼び木々をなぎ倒していく。
(おそるべき適応力と言っておくわ。
私には分かる。あなたは私の戦闘スタイルを全く知らないで攻めている…!
それでいながら、これだけのリズムを1人で作っているなんて、信じられない才能よ。)
腕をかすめ、足元の土砂が削れ、川底に落ちていく。
(でも。遊びはここまでよ。
次のカウンターアタックで、黒豹を落とす!!)
黒豹の顔に一本の傷跡が入った。
これまでの攻撃は、皮膚の硬さにより氷はすぐに砕けていったが、ここで初めて傷を負う。
「グルぅ……ッ!」
宮城の腕に創られた無色透明の氷が、赤色無明へと開花していく。
「人間の血液には【鉄分】が含まれている―――。
馬鹿じゃなかったら、言いたいこと分かるわよねぇ??」
空中に再度、氷の武器監獄が展開され、
透明だった氷が、次々と赤く染色されていった――
-―――――――――――-―――――――――――
24区避難キャンプ
「寝ないんですか? ナオミ先輩。」
「うん、こんな時間に起きることなんて滅多にないから。」
時刻は午前5時を過ぎたあたり。
12月ということで、未だ真っ暗闇の静けさだった。
二か月前――10月に破壊された24区はガレキのままそっと置かれている。
誰も住まず、誰も帰らない家々は、なにを思っているのか。
「お~~い~~、帰ったぞぉ~~」
「あ、キンノスケたちが帰ってきた!」
遠くほうから半袖半ズボンの力士みたいな男子が近づいてきた。
その隣に、トボトボと付き合わされたと思われる細身の男子が見える。
「あっはは!ケンジのヤツめ、日ごろぐうたらしてるから、いい気味よ!」
「クッソぉ……、いかれてやがる…。
3時に起こされ海に連れていかれ、釣りさせられるし、このデブはパンツ一丁で素潜りとか、いま冬やぞ……。」
川原ケンジの愚痴を聞かず、ミナコはビチビチと音を立てる袋をのぞく。
「うっはぁ!アジに、イカに、タコまであんじゃん!!」
魚を両手に持ってウハウハと喜ぶミナコを横目に、ナオミが前に出る。
「ねぇ…、黒猫 といっしょにいたんじゃないの?」
「はぇ? あいつ帰ってきてないんすか?
おっかしぃなぁ、帰ったら【取りたて!!新鮮お魚パーティー!!】をやろうっていったのに。」
首を傾げながら、キンノスケは頭をポリポリと掻く。むせるほどの海水の臭いが漂う。
「あー、黒猫のなんすがね。途中で『出掛ける用事がある』っていって、別れたんですよ。
キンはそれを覚えてないすけど。」
ナオミは一呼吸おいて、息を整える。
「どこにいったか、わかる?」
「えっとですね……、あっちの方向へと。」
ケンジは持ってる釣り竿ごと、指をさす。
そのさきは、町でも何でもない、小さな町の方向である。
この意味を端的でも理解できたのは大浜ナオミだった。
「11区……!もしかしてそこにいったんじゃ……!?」
その言葉に周りの3人も息を呑んだ。
――注意勧告がなされていた。
【11区には危険性の高い立ち入り禁止エリア】だと、【そこでは命の保障はできない】と。
「ま、まさか……!」
冷や汗をだす川原ケンジ。
「えぇ……っ」
魚を持ったままの立ち尽くす有喜ミナコ。
「んんがががが……」
喉奥から変な声をだす堺キンノスケ。
4人の間で沈黙が生まれたとき、一歩離れたところで1人の隻腕の刑事が聞き耳を立てていた。
「くろねこが、、……11区に?」
-―――――――――――-―――――――――――
「ガアァァッッ!!」
腕と足、胴体に捌けなかった赤い氷が突き刺さりながらも宮城に突っ込んで行く。
襲い掛かる黒豹の腕を、鉄棒の逆上がりのように用いて、宮城は空中に舞い上がった。
「フフん」
笑みを作りながら、ここにきて7メートルほどの巨大な大槌を、赤い氷でかたどる。
冷たい月の光を内部で反射させるそれは、ギャラリーを圧巻させるほどの【美】に溢れていた。
そして垂直落下しながら、女は大槌を振り上げた。
(真正面から突っ込んで行く!
あの黒豹あいてにパワー勝負する気なの!!??)
メアリーもまた例外ではなかった。
赤く白く辺りを燃やし尽くす剛爪と、美と愛を表した大槌がぶつかり合い、蒸気と蜃気楼が辺りを包み込む。
その衝撃波により、近くにいたギャラリーたちは紙飛行機のように飛ばされていくなか、
救済の代行者である2人だけが、かろうじてその状況をのぞくことができていた。
(あ……!!)
2人の目にははっきり映っていた。
黒豹の立っている地面そのものが、氷のように砕けていくところを。
それによって黒豹の態勢が徐々に不安定になっていき、赤い大槌が優勢になっていくところを。
(地面が崩れて行って……、あれじゃパワーを維持できない!!)
地面は土砂崩れのように、勢いよく、川に向かって転がり落ちていく。
(黒豹が、落ちる……!!!)
カウンターをかわし、さらに熱を上げて、追尾し続ける黒豹。
爆風と氷晶は嵐のごとく突風を呼び木々をなぎ倒していく。
(おそるべき適応力と言っておくわ。
私には分かる。あなたは私の戦闘スタイルを全く知らないで攻めている…!
それでいながら、これだけのリズムを1人で作っているなんて、信じられない才能よ。)
腕をかすめ、足元の土砂が削れ、川底に落ちていく。
(でも。遊びはここまでよ。
次のカウンターアタックで、黒豹を落とす!!)
黒豹の顔に一本の傷跡が入った。
これまでの攻撃は、皮膚の硬さにより氷はすぐに砕けていったが、ここで初めて傷を負う。
「グルぅ……ッ!」
宮城の腕に創られた無色透明の氷が、赤色無明へと開花していく。
「人間の血液には【鉄分】が含まれている―――。
馬鹿じゃなかったら、言いたいこと分かるわよねぇ??」
空中に再度、氷の武器監獄が展開され、
透明だった氷が、次々と赤く染色されていった――
-―――――――――――-―――――――――――
24区避難キャンプ
「寝ないんですか? ナオミ先輩。」
「うん、こんな時間に起きることなんて滅多にないから。」
時刻は午前5時を過ぎたあたり。
12月ということで、未だ真っ暗闇の静けさだった。
二か月前――10月に破壊された24区はガレキのままそっと置かれている。
誰も住まず、誰も帰らない家々は、なにを思っているのか。
「お~~い~~、帰ったぞぉ~~」
「あ、キンノスケたちが帰ってきた!」
遠くほうから半袖半ズボンの力士みたいな男子が近づいてきた。
その隣に、トボトボと付き合わされたと思われる細身の男子が見える。
「あっはは!ケンジのヤツめ、日ごろぐうたらしてるから、いい気味よ!」
「クッソぉ……、いかれてやがる…。
3時に起こされ海に連れていかれ、釣りさせられるし、このデブはパンツ一丁で素潜りとか、いま冬やぞ……。」
川原ケンジの愚痴を聞かず、ミナコはビチビチと音を立てる袋をのぞく。
「うっはぁ!アジに、イカに、タコまであんじゃん!!」
魚を両手に持ってウハウハと喜ぶミナコを横目に、ナオミが前に出る。
「ねぇ…、
「はぇ? あいつ帰ってきてないんすか?
おっかしぃなぁ、帰ったら【取りたて!!新鮮お魚パーティー!!】をやろうっていったのに。」
首を傾げながら、キンノスケは頭をポリポリと掻く。むせるほどの海水の臭いが漂う。
「あー、黒猫のなんすがね。途中で『出掛ける用事がある』っていって、別れたんですよ。
キンはそれを覚えてないすけど。」
ナオミは一呼吸おいて、息を整える。
「どこにいったか、わかる?」
「えっとですね……、あっちの方向へと。」
ケンジは持ってる釣り竿ごと、指をさす。
そのさきは、町でも何でもない、小さな町の方向である。
この意味を端的でも理解できたのは大浜ナオミだった。
「11区……!もしかしてそこにいったんじゃ……!?」
その言葉に周りの3人も息を呑んだ。
――注意勧告がなされていた。
【11区には危険性の高い立ち入り禁止エリア】だと、【そこでは命の保障はできない】と。
「ま、まさか……!」
冷や汗をだす川原ケンジ。
「えぇ……っ」
魚を持ったままの立ち尽くす有喜ミナコ。
「んんがががが……」
喉奥から変な声をだす堺キンノスケ。
4人の間で沈黙が生まれたとき、一歩離れたところで1人の隻腕の刑事が聞き耳を立てていた。
「くろねこが、、……11区に?」
-―――――――――――-―――――――――――
「ガアァァッッ!!」
腕と足、胴体に捌けなかった赤い氷が突き刺さりながらも宮城に突っ込んで行く。
襲い掛かる黒豹の腕を、鉄棒の逆上がりのように用いて、宮城は空中に舞い上がった。
「フフん」
笑みを作りながら、ここにきて7メートルほどの巨大な大槌を、赤い氷でかたどる。
冷たい月の光を内部で反射させるそれは、ギャラリーを圧巻させるほどの【美】に溢れていた。
そして垂直落下しながら、女は大槌を振り上げた。
(真正面から突っ込んで行く!
あの黒豹あいてにパワー勝負する気なの!!??)
メアリーもまた例外ではなかった。
赤く白く辺りを燃やし尽くす剛爪と、美と愛を表した大槌がぶつかり合い、蒸気と蜃気楼が辺りを包み込む。
その衝撃波により、近くにいたギャラリーたちは紙飛行機のように飛ばされていくなか、
救済の代行者である2人だけが、かろうじてその状況をのぞくことができていた。
(あ……!!)
2人の目にははっきり映っていた。
黒豹の立っている地面そのものが、氷のように砕けていくところを。
それによって黒豹の態勢が徐々に不安定になっていき、赤い大槌が優勢になっていくところを。
(地面が崩れて行って……、あれじゃパワーを維持できない!!)
地面は土砂崩れのように、勢いよく、川に向かって転がり落ちていく。
(黒豹が、落ちる……!!!)