其の九十七 悪人の道筋

文字数 1,882文字

さざなみが耳をくすぐる
鼻をつく
ゼンマイ仕掛けのような口を開く。

「題名のない本って面白いのかな?」


話を終えた二人は帰り道を歩き、今すぐにも彼女は家に帰りつく直前だった。

そのときに先程のセリフを吐いたのだった。


「これは最後の質問。あなたは何を思って生きているの?」




彼女にとってもっとも気に入らないのは自身の中に

であった。


勉学に励む理由も。

武道に励んでいた理由も。

生徒会に入った理由も。

努力をしてきたのは全て環境の方針によって決められただけ。

それ故に試験で良い点数をとっても生徒会に選ばれても、ただ言われた通りにやった感しか残らなかった。

操り人形になっている自分を容易に想像し嫌悪をする。抗おうともがけばもがくほど力は抜けて、苛立ちが募る結果ばかり。



『な、なにすんのよ、、ただノリで言ってただけじゃ、、――』
机と椅子が土砂崩れのように倒れ、周りの生徒が恐れの目を向けていた。


自分を馬鹿にしていた奴らを力でねじ伏せるのはとても気持ちが良かった。
もっと殴ってやりたかった。私の方が強いんだと。私のしてることは正しいことだと認めさせたかった。


「周りの人間はおかしい奴らだと言ったけど、実際わたしもよ。

私も悪人なの。
背徳感に興奮して、人を支配するのが心地いいと感じる悪人。

知りたいの。周りがどんな考えをもって生きているのかをね……」


そこまで言って彼女は息を深く吐いた。
自分の本音と向き合うののは余程疲れたように見える。


復讐――吉田ミョウ

自分の友達へ――福栄シンゾウ

亡き父への自慢――三尾アヤカ

妻への矜持――ラック

音響創造――堤ヨウ

魅力への憧れ――雨宿スイ

誇りへの一歩――久木山レン(ハチミツ)

強者への意志――大窄カイ

(羨ましいなぁ。そんな道筋があって。)



【題名のない本】

前にあった神官【千流】

そこからあらゆる言葉を結び、神の名を冠する代行者は瞳を晒した。



「『監獄実験』を知っているか?」

「かんごく……?」

「外国で行われた【役を羽織った人間の末路】を示した心理学的実験だ。」

「役を羽織った……」
飲み込むように彼女は繰り返す

「ああ。名前のとおり監獄、実験希望した一般人を【看守役】と【囚人役】に分けて監獄で二週間過ごすというものだった。過程に起きる変化を観察するために。だがな――」

「どうなったのよ。二週間経って……」

「一週間も経たずに中止された。
何の経験も犯罪も犯していない彼らは見事に



正義という大義名分を振りかざして、囚人役に罰と称した拷問の数々を平気で行い始めた看守役。

人権を盗られ、番号で呼ばれることも拷問を受けることにも違和感を持たなくなった囚人役。

彼らは見事に役にハマったのだ。」


「そ、それが、あたしの質問と何の関係があるのよ。」

「【役】、君の考える【筋】というのはそれと同じ意味合いだろう。

君の言う通り筋を見つけるのは、己の【存在意義】を【動機】を大きく底上げしてくれる道しるべみたいなものだ。
しかし、それはあくまで

を選択した場合だ。」

「ただしい…道筋……」

彼の瞳が蒼色を帯びる

「監獄実験の人々――あれは実験とはいえ、彼らは決まった型にハマろうと


それ故に狂気にすら目を背けた。

人間は怠惰で脆いもので、厳真正(がんしんせい)よりも怠偽善(たいぎぜん)を100%選ぶ。

一度道を決めると君たちは自分を変えることはしない。」

ルシフェルの物言いは彼女の後ろに人々に向けるようにどこか遠い響きを得るものだった。

「救済者も神官も物理的な行動は出来るが、精神性までに道しるべは指せない。
それは洗脳と変わらないのだ。

千流の言った【無題】とは白紙を維持するという意味だ。来るべき理想の自分のために。

君たちは若い。願わくは厳しい道を歩み正しい筋を得てほしい。

我らとは違い君たちは今を生きる賢い者なのだから。」







5:55 三区 鬼岳山頂上 ルシフェルと千流


「随分と、長いおしゃべりだったな。」

「お前が変な入れ知恵をしていたからだ。解説する身にもなれ。」

彼は短くため息をついた。

「それで儂の仮説はどうだった?」

「ばっちりだった……。」

今度は千流が長く深呼吸をする。

「お前の言う通り、我らの目標は先ず【24区校の宮城キョウコ】で間違いない。
三島刑事から預かった指紋を24区校の職員室で調べたらバッチリ合ったものが一つだけあった。
あんたが前に違和感を覚えたあの机に。」

「よりによって学校で教師をしているというのか。」

「おそらく教師生徒全員が人質なんだろ。

どうするんだ千流?」

「決まっておる。人質など関係無い。

強行掃討作戦を提案する……!!」

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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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