其の百三十八 遺志自我
文字数 1,470文字
【浅界】
「は……っ…!!
はーー……っっ!!
犯された??夢??私が!!??
たかが人間の男に!!??」
「目が覚めたか?行くぞ。
休憩時間は終わりだ。」
常夜灯すらつけられていない真っ暗闇の部屋で、メアリーと千流が落ち合った。
毅然とした立ち振る舞いの鶴と逆に、キャミソール一枚の薄着の汗だく少女の二人しかそこにはいない。
………。
……………
「行くってどこにですか……??
今は敵の気配も一切感じられなくて、いくあてなんて……。」
「25区校生徒会長、福栄シンゾウ――の形をした代行者のところだ。
【吉田ミョウ】が生み出したらしいんじゃが……戦闘を見るに同じ【朱】でも目的は違うらしい。ヤツの目的を明らかにするためにな。
浅界には超鳥も万樹もシネスティア様もおらんが、犬神が鍛錬という名目で留守番しておる。儂らも謎を解かねばな。」
ぺったんぺったんと、黄昏というか夕焼けのような空模様の下を、黒スーツの少女と神官1羽が歩く。
(目的か。ルシフェルさんも言ってたっけ。目的がないと力も出ないって。)
「千流さんちょっと聞きたいんですけど。
代行者って誰がえらんでいるんです??」
「……急になんだ?」
思ってもみないことに足を止める千流。
「いままではそんなことって思ってましたけど。なんだか違う感じがして。
【吉田ミョウ】も【ルシフェル・ミラ・イース】も、選ばれたから仕方なくってわけじゃなくて、自分で選んだような、すごく、その、圧力を感じるときがあったんです。
わたしも代行者なのに、すごく気遅れしちゃってるような、自分だけ何もできてないような気がして……。」
そこまで言ってメアリーは下を見つめた。
下にはアリが群れからはぐれたのか一匹だけ、テクテク歩いている。
「お前もだぞ。」
「……!」
「吉田ミョウは知らんが、
確かにルシフェルには目的があって、儂のもとに志願した。
生前 共に世界を生き抜き、そして万樹の秘書として、お前たち以前に遣わした代行者たる【妻】を探すというな。いまは行方不明だからな。
だがそれはお前もだ。メアリーよ、お前も自分で、この神官の下にきたのだ。」
それはメアリーには【思い当たらないこと】だった。
「わた…しが……!?
教えてください!!――。なにか――知っていることは全部!!!」
「できぬ……!」
千流は知っているメアリーの知らない部分を、なぜメアリーがここまで聞いてくるのかを。
「お前に話すことはできない。そういう取引を【お前 】と課した。
強いて言えば、メアリー お前の【記憶喪失】は、この【千流】自らが施した。」
「あなたが……!??どうして私の記憶なんかを……!!」
罰の悪いこの空気にも関わらず、千流は彼女の目からそらすことはなかった。
正しさの証明のように。
「そうせねばならなかった。そうせねば、お前は代行者として【成り立たない】からだ。」
想定外の言葉の連続で、メアリー軽いめまいを覚える。
ずっと前から感じていた違和感。自分自身のことなのに他人のように、ふわふわとした情報しかない【私】。自分ですら感知できない【遺志自我 】が、勝手にお膳立てした気持ち悪さが込み上げてくる。
「これを行ったの最終的に儂じゃ。代行者となったほうが良かれとな。
だが、その期待に反したのならば、儂を殺せ。」
「殺せ…って――」
「この先、天国となるか地獄となるかわからぬ。
それが、メアリーを不幸にしたのならば【復讐】でもなんでも、儂は受け入れる。それが【道理】と儂は考えておる。
それまでは、この小さな星にすら安寧を保てなかった【弱者 】に手を貸してくれんだろうか。」
メアリーは、何も言わなかった。
「は……っ…!!
はーー……っっ!!
犯された??夢??私が!!??
たかが人間の男に!!??」
「目が覚めたか?行くぞ。
休憩時間は終わりだ。」
常夜灯すらつけられていない真っ暗闇の部屋で、メアリーと千流が落ち合った。
毅然とした立ち振る舞いの鶴と逆に、キャミソール一枚の薄着の汗だく少女の二人しかそこにはいない。
………。
……………
「行くってどこにですか……??
今は敵の気配も一切感じられなくて、いくあてなんて……。」
「25区校生徒会長、福栄シンゾウ――の形をした代行者のところだ。
【吉田ミョウ】が生み出したらしいんじゃが……戦闘を見るに同じ【朱】でも目的は違うらしい。ヤツの目的を明らかにするためにな。
浅界には超鳥も万樹もシネスティア様もおらんが、犬神が鍛錬という名目で留守番しておる。儂らも謎を解かねばな。」
ぺったんぺったんと、黄昏というか夕焼けのような空模様の下を、黒スーツの少女と神官1羽が歩く。
(目的か。ルシフェルさんも言ってたっけ。目的がないと力も出ないって。)
「千流さんちょっと聞きたいんですけど。
代行者って誰がえらんでいるんです??」
「……急になんだ?」
思ってもみないことに足を止める千流。
「いままではそんなことって思ってましたけど。なんだか違う感じがして。
【吉田ミョウ】も【ルシフェル・ミラ・イース】も、選ばれたから仕方なくってわけじゃなくて、自分で選んだような、すごく、その、圧力を感じるときがあったんです。
わたしも代行者なのに、すごく気遅れしちゃってるような、自分だけ何もできてないような気がして……。」
そこまで言ってメアリーは下を見つめた。
下にはアリが群れからはぐれたのか一匹だけ、テクテク歩いている。
「お前もだぞ。」
「……!」
「吉田ミョウは知らんが、
確かにルシフェルには目的があって、儂のもとに志願した。
生前 共に世界を生き抜き、そして万樹の秘書として、お前たち以前に遣わした代行者たる【妻】を探すというな。いまは行方不明だからな。
だがそれはお前もだ。メアリーよ、お前も自分で、この神官の下にきたのだ。」
それはメアリーには【思い当たらないこと】だった。
「わた…しが……!?
教えてください!!――。なにか――知っていることは全部!!!」
「できぬ……!」
千流は知っているメアリーの知らない部分を、なぜメアリーがここまで聞いてくるのかを。
「お前に話すことはできない。そういう取引を【
強いて言えば、メアリー お前の【記憶喪失】は、この【千流】自らが施した。」
「あなたが……!??どうして私の記憶なんかを……!!」
罰の悪いこの空気にも関わらず、千流は彼女の目からそらすことはなかった。
正しさの証明のように。
「そうせねばならなかった。そうせねば、お前は代行者として【成り立たない】からだ。」
想定外の言葉の連続で、メアリー軽いめまいを覚える。
ずっと前から感じていた違和感。自分自身のことなのに他人のように、ふわふわとした情報しかない【私】。自分ですら感知できない【
「これを行ったの最終的に儂じゃ。代行者となったほうが良かれとな。
だが、その期待に反したのならば、儂を殺せ。」
「殺せ…って――」
「この先、天国となるか地獄となるかわからぬ。
それが、メアリーを不幸にしたのならば【復讐】でもなんでも、儂は受け入れる。それが【道理】と儂は考えておる。
それまでは、この小さな星にすら安寧を保てなかった【
メアリーは、何も言わなかった。