其の九十一 空しい決着

文字数 2,295文字

「あなたには無茶させちゃうけど、」

右こぶしに血管が浮き出る。

「一発で仕留めるから……ッ」









(?。刑事がメアリーから離れた。
刑事の肩を借りなきゃ動けないというのに、
あの状態で私を殺すつもり?)

目を潰されて暗闇を見ながら、早妃フミコは思考する。
虚空の眼からひっきりなしの出血を感じる。

(刑事はほっといてもいいわ。
問題はあの子。あの子は確実に私が殺さないと。)

ガリガリとネバネバと液体を散らした角を引きずりながらメアリーの元へ歩く。


右ひざが砕かれた。


(あー、そういうことね。
離れたのは私を動けなくするためってこと。)







「あと一発、左ひざにあてれば……」

手先の震えを押さえながら雨に濡れた銃に力を入れるバケモノがこっちへ方向を変える

『あなたの銃は、犬神さんの工夫で、アイツにもダメージは入る。』

残り一発の弾を込める。

『一歩だけ動けるから
アイツの機動力を奪えば、
あとは私がやるから……!』

ガリガリガリガリと土砂と石を削りながらバケモノが近づいてくる。
肩から生えた角はよっぽど重いのか一歩一歩、踏みしめる感じで近づく。

(メアリーの言う通りさっきまでの戦闘で疲弊しきっている。スピードは遅い。
落ち着いて、左ひざを打ち抜けば――)

深呼吸を重ねて三島は手の感覚に集中する。
しかし恐怖心は消せないのか震えは止まらない。

その一瞬の隙をバケモノは見逃さなかった。

「なッ……!??」

土砂や石を引き裂き角を引きずりながら、三島へと突っ込んでいった。

「しまった……!!」
猛毒の角は間一髪で避けたが、手にしていた銃は弾かれてしまった。

バケモノは角のない身軽な方で三島を掴むと、抵抗できないように角を足に突き刺した。




「馬鹿な子ね。
人間の力では敵わないってわかってたんでしょう?」

「あぁ……ッッ!!」

「痛みで声もだせないか

……惑星や救済に、神官に代行者……人間のあなたには全く関係ない。

その関係ない事物のために死ぬなんてバカなの?」

先のない眼孔から液体が垂れ落ちてくる。
右足に突き刺さった角は、ノコギリのようにギィィコギィィィィイいいコと骨を冷たい感触が骨を削っていく。

「………」

「いつの時代も勇者と愚者は紙一重、
さよなら。」

バケモノが左拳で、顔面を砕こうとする時、三島は咄嗟に首にヘッドロックを掛けた

この動作はバケモノにも予想外だったらしく驚きの表情を見せた。

「ウうぅうあああ!!!」

「うそでしょ、足に突き刺さった状態でどこにそんな力が!?」

三島のヘッドロックを外そうともがくが、メアリーと犬神との立て続けの戦闘に、無理やり生やした黒い角により身体が上手いこと動かなかったのである。

さらに首元に力が加わり骨が軋み始める。

(こいつッ、ただ首元を攻めてるだけじゃない!
あたしの首を――)

「はな、すものかぁぁあ!!!!」

(折るつもりか!!

それはマズイ!!今の体力でこれ以上の損傷を負ったら死んでしまう!!)

「ハハハ、警官を、人間を、なめるな!!!!」


体力のハンデもあってか辛うじて力が拮抗していた。
しかし、もともとの力の差は歴然であり、
徐々にバケモノの優勢になっていた。

さらに三島の足は突き刺さっている角から猛毒が入り込んできており、

「ごプッ――」
口から鼻から耳からの出血が始まっていた。

「アァ……!!」

「人間にしてはよくやったと褒めてあげる……

でも――」

風船に刺さった枝木を連想させるように、三島のあばら骨が肺へと刺さった。

彼女の横腹にバケモノの左拳でめり込んでいる。
それでも彼女は首を外さなかった。
「ぁ……」

「あの子に負けず劣らずの頑固さ……でももうそれも終わり。」

そしてスッと左拳を三島の顔に移動させた。


(あれだけ、部下にイキっておいてこの始末かぁ……

人間の力なんてちっぽけな――)

遠くの空の、一匹の鳥を眺めたとき




「ハぁぁあああ!!???

まだ居たのかこの蟲風情がああぁぁあああ!!!!」


突然騒ぎだしたバケモノに混乱を示しながらされど、チャンスだと感じた三島は思い切りっといったように一押しにバケモノの首を捻じ曲げた。

たった一つの隙からの光明だった。

「ぎいいぃいががががあああああぁぁああ!!!!!!」

そして最後の力を振り絞りバケモノを蹴り飛ばした。
口から目から紫の液体をまき散らしながらバケモノは騒ぎ続けていた。

「おわえたちに、いあまらおときにいぃいいい!!!」


「そう、お前たちは!!、、あたしら、、のパワーに負けたんだ!!!!」

いつの間にか地面から消えていたメアリーが

20メートルの空中から、全重心を掛けてバケモノの顔面を打ち砕いてみせた。

「ありがとう、、ございます。三島さんのお陰で、、無事に撃破、、、しました。」





そのときメアリーの顔は強敵を倒した安心感でいっぱいであった。

その顔を見ながら、バケモノの左膝が砕かれていることに気づいた。

(私が壊したのは右ひざだけだった。誰が……)

メアリーの、

バケモノの死骸の、

その奥に、


『だいたい……
今まで起こった事件は――彼らが勝手にやってきたから起こったんですよ。
神官とか救済の代行者とか名前が違うだけで……ッッアイツ等の内輪揉めのせいであたい等が死ぬ目にあってるんですよ!!』


三島が弾いた銃を手に持った、名前も覚えていない

が転がっていた。




「本当に、、あり、、が、、、、とうございます、、、」

メアリーが心底嬉しそうに三島に礼を述べる

「いえ、、仕事が、できて、、よかっ――」

嬉しさと虚無を100%ずつ混ぜた吐き気のする感覚とともに三島は意識を閉ざした。



「………」

大神――もとい犬神もまた決着を付けてその様を見ていた。

その後方には原型をとどめていない男の死骸と夕月が傍にはあった。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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