其の五十五 N/M

文字数 1,584文字

 緑髪の不良が一人で煙草をふかしていた。

 「いっつ、あのガキ(雨宿スイ)にやられたところがまだ痛むぜ。」

 雲ひとつない空に、真珠を連想させるほどの白い満月に煙を吐く。

 「あのガキ、なにものだったんだ。

  ん――?」

 遠くから、犬の遠吠えのような甲高く、同時に体に響くほどの轟音が
目の前の道路を横切っていった。

 「――ッ、ビビったぁ!なんだぁあの大群の単車は!?

 あっちはたしか……37区――おいおいヤクザとやり合おうってか!?」

 声こそは震えていたが、不良は顔を真っ赤にするくらい興奮していた。

 「あそこら辺治安は悪いが……、こんなビックイベント見逃せるかよ!!」

 緑髪の不良――『川原ケンジ』は煙草を投げ捨てて、ウキウキで走り去った。










 「なんかさむいわねぇー、ねぇ二人は平気なの?」
 ぼんやりと赤く光ってる防災装置を横目に
 まえを歩く二人に、寄りかかるようにナオミは聞いた。

 「ふん、生命体というものは不便だな。」
 無関心な千流。

 「どうぞこちらを掛けて下さい。」
 自分の上着を貸し出すメアリー。

 「ありがとう。あんた年下なのにしっかりしてるわね。
 メアリーって言うの?変わった名前ね。」

 「ええ。それが……わたしの名前です。」

 「ふーん。」
 (この制服見たことないのよねー。どこの中学かしら。)

 制服を羽織りながら、ナオミは辺りを見渡す。

 月明かりが差し込み、暗闇ながらも明るさが目立つ。

 蛇口から溢れた小さい水滴が、

 虫たちがさえずる声が、

 車の通る音が、

 風の音が、

 耳の中で妙に入り込んでくる。

 彼女はその感覚に馴染めぬまま二人のあとをついていく。

 「………」
 「………」

 なにを考えているのか全く予想がつかなかった。
 鶴はペタペタと足音を出すだけで、
 少女もコツコツと出して、眉一つ動かさず見渡してるだけである。

 そんななか、一つの教室のまえでナオミは立ち止まった。

 黒板に残った文字が目についたからだ。

 『9月17日文化祭開催決定!!!!

 一年A組 カフェ店 服装準備開始いぃぃぃいい!!!

 男子 カッケーーーやつ!!!!
 女子 カッケーーーやつ!!!!

 自分を

!!!

 by カッコイイ泉ソーーーマ!!
   カワイイ 有喜みなーーーこ!!』



 ブフッとナオミは噴き出した。

 高校生でありながら小学生のような幼稚な文章。

 

みたいに『!』をつけているところをみると、
よっぽどはしゃいでいたことが想像できる。



 『ナオミちゃんってさ、しょうみ何でもできるけど

。』
 『わっかるうー。』
 『確かに俺たちよりも才能はあるんだろうけどな。』
 『なんか、最短ルートばっかり辿ってるから、おれたちと話がかみ合わないんよね。』
 それな それそれ うんうん
 『あたしらとは見てる

が違うってことよね。』

 あはははハハハハハははははははは―――


 剥ぎ取るように、彼女の顔から笑みが落ちて行く

 (……………)
 彼女の口内に鉄臭い風味が漂う。

 「楽しむ―――?」
 得体の知れない苛立ちが泡立ってくる。


 「大丈夫。」
 「!――」

 先に行ったはずのメアリーが、いつのまにか彼女を後ろから抱きしめていた。

 「………どういうつもり?」
 少女の体温をかんじながら、ナオミは問う。

 「

には、これが一番効いたんです。
殴り合ったあと、なかなか泣き止まなかった子には、
こうして抱きしめたら治まった経験が――あったんです。」

 そう言いながらメアリーは彼女の体を一層抱き寄せた。

 「中学のくせに、ずいぶん実った体型しちゃって……。」
 腰に当てられた腕に、自身の手をそっと被せた。





 「もう大丈夫よ。あたしは、

 子供じゃないんだから。」

 「あなたの名前を聞いても…?」

 「――遅くなったわね。25区校の大浜ナオミよ。
よろしくね。」

差し出された彼女の手を、少女は

握手をした。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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