其の百三十二 顔
文字数 2,251文字
「――早妃カズミに会いにいきます。」
シネスティアは歩きながら、服のボタンをパチパチと外し始めていた。
「あ、あなた様自らまた地上にいかれるのですか?
立場を考えて下され!!総大将ともあろうかたが――って~~~~~~!??」
主に諫言をと思って、口を開こうとしたが、
そこには男であれば目が潰れるほどの清白な裸があった。
あられもない女体に、一瞬にして超鳥は顔を赤く染める。
「な、なにをしてるんですかーーーーーーーー!!!!!!」
「人間界の病院に行こうというのに、こんな偉そうな聖服でいったら目立ってしまうでしょう。
それにリーダーである私が現状を理解しようとするのは当然です。
よって、超鳥あなたはいまから、私に合う人間用の服を持ってきなさい。」
彼女は神秘的な素材でつくられた聖服をぴらぴらと、空中で振り回しながら、超鳥と向き合った。
「イっっ!!??
分かりましたから!!!そこを動かないでくださいーーーーー!!!!!」
-―――――――――――-―――――――――――
20区 中央病院
服を調達し、着付けをして、到着するまで1時間でいどであったが、カラスの神官すでに眩暈を覚えるような感覚に陥っていた。
「人間が活性化している昼間に行動するのは初めてですが、こうやって歩くのも悪くないですね。」
「もう、金輪際、着付けは女官させてくだされよ……!」
涼しい顔のシネスティアと、火を連想させるほどの赤い顔の超鳥は、病院のなかに入るため歩いていく。
季節は冬へと移り変わったせいか、奥にある山々が雪のように白く霞んでおり、そこから大気中の水分を反射させているため、白を加味したオレンジ色が、2人の影を細長く斜めに作り出していた。
超鳥は、野生のカラスと寸分変わらないほどに、戦闘時と比べて小さくペタペタと可愛らしいものだった。
一方のシネスティアも、男だったら抱かれたいと思う程のボディラインを出しながら歩いているが、どこかぎこちのない歩き方だった。
「気にしなかったのですが、私の着ている服はなんというものですか?」
「とっさでしたので、なぜか保管されていたリクルートスーツ(パンツスタイル)です。」
「そうですか。」
超鳥はもとがカラスなのでなにも感づいていないが、
(いつもはいているブーツと違ってとても硬いですね……)
シネスティアの足に小さな痣が形成されていた。
-―――――――――――-―――――――――――
27区 住宅街
「どうぞ。」
鹿島刑事に任された人探し。
その『上崎レイジ』はなんの苦労もなく発見できた。
ただ車を走らせて、近所の人から情報を聞き出しながら歩けばすぐそこだった。
「お茶を淹れます。そちらに座ってください。」
断る余地もなく、もてなされる。
あの女 との交際関係がある以上、罠と疑って部屋を見渡すがどうにもそれらしき物は見当たらない。
簡素な机と、簡素な机、となりの部屋には『心理学上級演習』と書かれた教科書がチラっと見えた程度で他にはなにも……である。
「あ、コーヒーで良かったですか?」
「え!?いや、はい!それで構いません!」
いつのまにか置かれていたカップと、暴力団を思わせるスキンヘッドの彼に驚いて、素っとん狂な声が先行してしまった。
「――三島さん、でしたね。
私にお聞きしたいことがあるとか。」
「え、ええ。
先日の25区校で起こったことはご存知ですよね。」
「もちろん。生徒は無事だと聞きましたが、
仲良くしてくれた先生方、そして慣れてきた校舎がなくなってしまうのは、残念です……」
上崎は無念そうな、かすれた声で俯く。
そこに嘘はなかったように見える。
「あなたの出席簿を確認しましたが、その出来事が起きる1日前に休みを取られています。
いままでは一切休みを取られていなかったのに、なぜピンポイントで休まれたのかと思いまして。」
あの25区戦線のときは普通に学校はあったのだが、この上崎レイジだけが休暇をとっていたのである。
警察はそこに目をつけた。さらに24区を氷漬けの廃墟に追いやった『宮城キョウコ』の関係者であるなら尚更であった。
単刀直入本題の切り出しに、上崎は何も動じず、聞かれることを分かっていたように一通の手紙を机に置いた。
「これは……?」
三島の問いに、肯定の意を促すように手を動かしながら、彼は話し始めた。
「休んだのはその手紙が届いたからです。
宮城とは、高校のときに会いまして付き合ったのは大学生のときですが……。
そのときから、約7年ほど連絡がなかったんです。」
手紙には子供が書いたような大きな字で、一言書かれていた。
「ずっと後悔してたんです。彼女の変化に、わずかな変化に気づいていれば、
彼女を助けられたかもしれないって。」
【うみの飲みかたは分りましたか?】
その一言、されど真意を隠したような曖昧な気味悪さがそこにはあった。
「それは最後に会ったとき、彼女が別れ際に言ったものです。
いまでも分かりません。それがどういう考えでいったのか。」
三島は情報を整理しつつ、今後のことについて注意喚起を行った。
今後もまた事件が起こるかもしれないから、そして関係者なるもの、『宮城キョウコ』『ルシフェル・ミラ・イース』『超鳥』など、超常現象が起きた24区での『ビデオ』を見せながら説明をした。
「――これが宮城?」
そんななか、上崎はビデオで映った女教師を指さす。
「はい、さっき説明していたあなたの交際者の――」
三島は口を止めた。
いままでスムーズに話していた彼の顔が曇る。
「いや……誰ですか?
私の知る『宮城キョウコ』と顔が全く違うんですが……。」
シネスティアは歩きながら、服のボタンをパチパチと外し始めていた。
「あ、あなた様自らまた地上にいかれるのですか?
立場を考えて下され!!総大将ともあろうかたが――って~~~~~~!??」
主に諫言をと思って、口を開こうとしたが、
そこには男であれば目が潰れるほどの清白な裸があった。
あられもない女体に、一瞬にして超鳥は顔を赤く染める。
「な、なにをしてるんですかーーーーーーーー!!!!!!」
「人間界の病院に行こうというのに、こんな偉そうな聖服でいったら目立ってしまうでしょう。
それにリーダーである私が現状を理解しようとするのは当然です。
よって、超鳥あなたはいまから、私に合う人間用の服を持ってきなさい。」
彼女は神秘的な素材でつくられた聖服をぴらぴらと、空中で振り回しながら、超鳥と向き合った。
「イっっ!!??
分かりましたから!!!そこを動かないでくださいーーーーー!!!!!」
-―――――――――――-―――――――――――
20区 中央病院
服を調達し、着付けをして、到着するまで1時間でいどであったが、カラスの神官すでに眩暈を覚えるような感覚に陥っていた。
「人間が活性化している昼間に行動するのは初めてですが、こうやって歩くのも悪くないですね。」
「もう、金輪際、着付けは女官させてくだされよ……!」
涼しい顔のシネスティアと、火を連想させるほどの赤い顔の超鳥は、病院のなかに入るため歩いていく。
季節は冬へと移り変わったせいか、奥にある山々が雪のように白く霞んでおり、そこから大気中の水分を反射させているため、白を加味したオレンジ色が、2人の影を細長く斜めに作り出していた。
超鳥は、野生のカラスと寸分変わらないほどに、戦闘時と比べて小さくペタペタと可愛らしいものだった。
一方のシネスティアも、男だったら抱かれたいと思う程のボディラインを出しながら歩いているが、どこかぎこちのない歩き方だった。
「気にしなかったのですが、私の着ている服はなんというものですか?」
「とっさでしたので、なぜか保管されていたリクルートスーツ(パンツスタイル)です。」
「そうですか。」
超鳥はもとがカラスなのでなにも感づいていないが、
(いつもはいているブーツと違ってとても硬いですね……)
シネスティアの足に小さな痣が形成されていた。
-―――――――――――-―――――――――――
27区 住宅街
「どうぞ。」
鹿島刑事に任された人探し。
その『上崎レイジ』はなんの苦労もなく発見できた。
ただ車を走らせて、近所の人から情報を聞き出しながら歩けばすぐそこだった。
「お茶を淹れます。そちらに座ってください。」
断る余地もなく、もてなされる。
簡素な机と、簡素な机、となりの部屋には『心理学上級演習』と書かれた教科書がチラっと見えた程度で他にはなにも……である。
「あ、コーヒーで良かったですか?」
「え!?いや、はい!それで構いません!」
いつのまにか置かれていたカップと、暴力団を思わせるスキンヘッドの彼に驚いて、素っとん狂な声が先行してしまった。
「――三島さん、でしたね。
私にお聞きしたいことがあるとか。」
「え、ええ。
先日の25区校で起こったことはご存知ですよね。」
「もちろん。生徒は無事だと聞きましたが、
仲良くしてくれた先生方、そして慣れてきた校舎がなくなってしまうのは、残念です……」
上崎は無念そうな、かすれた声で俯く。
そこに嘘はなかったように見える。
「あなたの出席簿を確認しましたが、その出来事が起きる1日前に休みを取られています。
いままでは一切休みを取られていなかったのに、なぜピンポイントで休まれたのかと思いまして。」
あの25区戦線のときは普通に学校はあったのだが、この上崎レイジだけが休暇をとっていたのである。
警察はそこに目をつけた。さらに24区を氷漬けの廃墟に追いやった『宮城キョウコ』の関係者であるなら尚更であった。
単刀直入本題の切り出しに、上崎は何も動じず、聞かれることを分かっていたように一通の手紙を机に置いた。
「これは……?」
三島の問いに、肯定の意を促すように手を動かしながら、彼は話し始めた。
「休んだのはその手紙が届いたからです。
宮城とは、高校のときに会いまして付き合ったのは大学生のときですが……。
そのときから、約7年ほど連絡がなかったんです。」
手紙には子供が書いたような大きな字で、一言書かれていた。
「ずっと後悔してたんです。彼女の変化に、わずかな変化に気づいていれば、
彼女を助けられたかもしれないって。」
【うみの飲みかたは分りましたか?】
その一言、されど真意を隠したような曖昧な気味悪さがそこにはあった。
「それは最後に会ったとき、彼女が別れ際に言ったものです。
いまでも分かりません。それがどういう考えでいったのか。」
三島は情報を整理しつつ、今後のことについて注意喚起を行った。
今後もまた事件が起こるかもしれないから、そして関係者なるもの、『宮城キョウコ』『ルシフェル・ミラ・イース』『超鳥』など、超常現象が起きた24区での『ビデオ』を見せながら説明をした。
「――これが宮城?」
そんななか、上崎はビデオで映った女教師を指さす。
「はい、さっき説明していたあなたの交際者の――」
三島は口を止めた。
いままでスムーズに話していた彼の顔が曇る。
「いや……誰ですか?
私の知る『宮城キョウコ』と顔が全く違うんですが……。」