其の百四 世界でもっとも辛い人は自分です

文字数 2,070文字

――驕るなよ。メスガキが……ッ!

刃物ような爪を黒いカラスは構えた。

「……そーれーッ!!」
道路に沿うように一直線に赤い氷山が細く鋭く生成される

合わせて超鳥は空高く飛び上がる

「追いなさい。」
女教師の言葉に応じて水珠が二つ、縫うように追尾を始めた。




夜中の雲を高速でかき分けながら超鳥は状況把握に努め、
「邪魔だ。」
水球を威圧で弾けさせる。

弾けた水球が、意志を持ったかのように球体を構成するのを観察し、
さらに上空を見上げる。

「空を飛べるのはあなた達だけじゃないのよ!!」
宮城キョウコが急降下しながら、左腕の赤い氷刀で切りかかる。

「その力、誰に授かった!!!」

「あんたに教える義理は無いわ!!」

氷刀と翼がぶつかり合い、闇夜に一粒の明かりが灯る。

「この程度で、儂が倒せると思ったのか!!」
氷刀を受け流し、サッカーボールのようにキョウコを蹴り落とす。

「ちィッ……」
空中で態勢を立て直し、神官を見上げる。

超鳥を中心に蒼い光る物体が数百、数千と漂っている。

「あれは――?」

「――見せてやる。
儂との実力の差をな。」

より一層、超鳥の瞳が蒼く光ると、
その8Ⅿはあろう両翼を大きく振りかぶった。



赤い氷の仮面にビシっと亀裂が入る。

蒼く光る黒い羽根が一瞬で地面に突き刺さった

「ッ――!!」
呼応して、数千を超える羽が一斉にキョウコの方へと向かっていく。

「ガフッ!!
ゴホ、ゴホ……」
氷と水で防御しようにも、数の暴力のままに地面へと墜落し、
余り余った羽も地面に突き刺さる。

「ひれ伏せ。」

瞬間、突き刺さった羽は青白く発光し、数百発の爆発を引き起こした。

――――――――――――――――――――――
「ルシフェル殿!!この揺れは!??」

現実の24区では震度6弱程の地震が引き起こされていた。

転ばないよう、桜は片腕で体を支える。

「おおかた、超鳥のやつが暴れてるんだろう。

次元を確立していなかったら住民はおろか
警察隊も全滅してただろうな。」
ルシフェルは冷静に、ポケットに手を突っ込んだまま直立不動でいた。

「だが、ここまでくるとな。

桜刑事、この住宅街の住民を23区まで避難させてほしい。」

「23区に避難ですか!??

次元ってもので目標を捕らえていれば安全なのでは?」

「次元は内側からだとほぼ破れないが、
外側だと一定の力で割れる弱点がある。

超鳥がここまでやる相手だ。他に何か策があるかもしれん。

俺は三島刑事の元へ行くから、頼んだぞ。」

そういってルシフェルは飛び立った。


「えぇ…何でもありじゃないかあの人たち」
そのとき桜のトランシーバーが鳴り響く。

「こちら桜。
どうし――」

『こちら北大、、!!北大通り!!!。

たった、、ま、黒い、、、ケ、モが、、突破していきました!!

目標は、、作戦領域、、向かっていると思われる……!!

だ、だ、か救援されたし、、救援されたし!!!

我々、、北部隊は壊滅的打撃……生存者は、、おそらく、、0に、、、、――---』

「は?」
――――――――――――――――――――――

「バカな人間だ。
力を持てば敵う相手と思ったのか?

何があったのか知らんが
楽しく人生を謳歌していれば良かったものを。」

住宅街が消し炭となった跡地で女教師のもとへと歩を進める。

「人間というのはちょっとした嫌なことで、
やさぐれるというがお前もその類か。

そこまで思いつめんでも

。」

重いか軽いのかはおいといて
その声は同情であった。

「ふ、はは……」
氷の鎧と刀は完全に砕け、血だらけのキョウコがガレキを背に座っていた。

「最後に聞かせろ。
その力は誰から貰った?」

「……人生を楽しく過ごせって?

そんなのは強い人しかできない生き方よ。」

それまでのうるさく楽しそうな声は、ここで苛立ちの声に変わっていた。

「あなたは分かる?

本当に弱い人ってのは

なのよ。
意味不明と思ったら、おめでとう。あなたは幸せ者よ。

――幸せなんて祝えないし世界ってのは自分より辛い人がたくさんいるみたいね。

気に入らない。

私は【自分より幸福な人間を苦しむ人間を認めない】」

女の瞳は傷具合に反比例して、真っ赤に染まっていた。

「なんと自分勝手な。」

「自分勝手でも、意志の無い弱者男よりはマシよ。」

女の首に、大きな翼が添えられる。

「残す言葉はそれだけか。」

こほんと女は咳払いをする。

「ねぇ、さっき【自分より幸福な人間を苦しむ人間を認めない】って言ったじゃない。」

――――――――――――――――――――――

24区の気温が氷点下まで落下する

――――――――――――――――――――――

「だからね。ずっとこの24区に住んでる人たちも気に入らなかったの。」

超鳥は空を見上げる

「あなたには敵わなかったけど、町人だったらどうかしら♡」

朱い眼をもった【黒いサーベルタイガー】がヒビの入った空から次元の中に入ってくる。

女は氷刀を作り、気を取られた神官の胴体に突き刺した。

「あなたは確かに強かった。

でも守るべきものもあった。

大変よね。弱者を守るが強者の務め。

同情するわ。」

あっという間に大カラスの氷の像が出来上がった。

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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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