其の六十七 早妃

文字数 1,116文字

細い糸のような雲をだしながら、飛行機は大空を横切った。

チチチチチチ………―――

小鳥が、平和を象徴するように鳴いている。


そんなごく普通の風景に

青いスカーフを外した少女は、とある家の前に立ち尽くしていた。

顔も呼吸も一切変えず

「ただいま―――?」

『早妃家』と書かれた表札を凝視しながらつぶやいた。








24区校文化祭 10:40分



「ねぇ…キン?この領収証は間違いないの?」
ナナは両手に握りしめられた領収証を、意をつく目で眺めている。

「おいに言われてもなぁ……、あがも調子に乗った結果じゃなかが?」
キンとよばれた――堺キンノスケは冷静に答える。

「調子に?私が?」
「おう。途中から『じゃんじゃん持ってきなさい!!責任は私がとるから!!』と笑いながらいっちょったじゃねぇか。」
くしゃりとナナは領収証を

くらいに丸め込む。
「いやしかし、あそこまで盛り上がるとはぁ、何かいいことでもあったんか?いさは――」
スパーんとキンの眉間に丸められた領収証がシュートされた。

「とめなさいよ!!あんたの力だったら止めれたでしょう!?

ああ!!もう!!!

急いで店を回しなさい!!取り返すのよ!!!」

ナナは教室内の9人の店員に激を飛ばした。


(止めるゆうても、お前と吉田ってやつが、親友のように話してて割って入れんかったのよう。)
キンは心のなかで嘆息した。



「おーい。」
教室の入口からしわがれた男の声が入ってきた。
「はい!っらしゃいませ!!えっと、奥のせきに――」

「おいしいオレンジジュースを貰えるかな?諫早の嬢ちゃん。」
高身長の刑事は室内に案内された。








楽しい思い出があるから苦しい?

あぁ分かるよ分かる。君はまさにクソったれな気分だろ?

忘れようとしても忘れられないから。

なぜわかるか?それは、貴様のその、潰れた目を見ればわかるってやつ。

だからでしょう?さっきのカフェコーナーで一切笑わなかったのは。

苦しい思いをしないためには、そもそも楽しい思いをしなければいい。

私、とっても素敵な考えだと思うな!!

作り笑いは疲れるしね。六月の三尾アヤカを思い出す。

――反吐が出るよ。


「あ――」

カズミは足を引っかけて転びそうになる。

しかし、地面に顔があたる前に、体に暖かな体温を感じた。

「片目の感覚、君はまだ慣れていないみたいだね。」

お姫さまのように彼女は軽々と持ち上げられた。

「さて、次はどこに行こうか?

ふふふ、ん?顔が赤いな。可愛い顔しちゃって。」

彼はそっと彼女を下ろした。



内面――どんな色をしているのかわからないが

一見――彼らは普通の男女の仲に見える。

ただ、彼らの見ている景色は

周りを歩く、男子、女子、父親、母親、祖父、祖母、教師、刑事……

とは全く異なるというのは確かであった。


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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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