其の百七十八 「俺は死なない――

文字数 1,444文字

月光が洞穴内を照らした
光に驚き、ゴキブリやクモ、フナムシがカサカサと身を隠していく

「やっと見つけたぞ……!」

「ケンジ君……。」

川原ケンジは泥だらけの制服を気にせず、崩落した岩々をドッスンドッスンとどかしながら、入口に足を付けた

「どうして、ここがわかったの……?
町はずれで、こんな防空壕なんて、見つからないと、思ってたのに。」

息が詰まりそうになりながらも、諫早ナナが問いかける
震える彼女に、彼は一つの【スマートフォン】を指さした

「【雨宿スイ】って人のスマホ。
それが、この場所をGPSで示してたんだ。
じゃなきゃ、こんなところ分かるわけないだろ。」


…………


「なに…?
このバイクの騒音……。」

ケンジに背負われたナナがつぶやく

「おまえ、そのスマホで【久木山レン】って人に連絡しただろ。
その人がな、暴君【大窄カイ】 37区隊とその隊長【泉ソウマ】、そして24区に避難している人たちに連絡して、みんなが47区に向かってるんだ。
戦える人は戦場に行って、俺みたいな弱い奴は、こうして負傷者に救出をしてるんさ。
45区に野戦病院がある。
そこまでゆっくりしとけ。」

歩くたびに揺れる乗り心地に、ナナはちょっとだけ乾いた笑みをうかべた

「はは……、夏に襲ってきたヤツに助けてもらったなんて――」

――この行為はなにか?
恩を被せて、女になにかさせるためなのか。
手を差し伸べて、女の英雄気取りをしたかったのか

それは彼自身にもわからない わかりたくないため

ただ、彼女は笑っているくせに、小刻みに冷たく震えていたのは事実だった――



-―――――――――――-―――――――――――


「ちゃーーーーーッッッッ!!!!」

「だあああぁりゃあああぁぁぁーーーッッッ!!!」


ハチミツとカイが、地面に足跡を刻みながら二人して突っ込んで行った

4本の手 
4本の足

それぞれがそれぞれの意思を持って、一斉に、宮城キョウコへと襲い掛かる

彼女はなんの構えもとることなく、仁王立ちしているのみであった

ハチミツは右腕を、大窄カイは左腕を振り上げて、瞬きの暇なく攻撃を放っていく

2人とも、幼いときから暴力に明け暮れていたこともあって、並大抵のスピードではない。
一発当たれば、一般人であればシャボン玉のように顔面は破壊できる。

「ふん……」

しかしこの女には届かない
殺意の宿したものが8つの方向から来るが、二つの腕だけですべてさばかれていった。

「……っ――!!」

カイが勢いに任せて飛び蹴りを放つも、首を動かすだけで躱され、

「この……っ!!」

ハチミツが腹に正拳突きをヒットさせても、まったくの無傷であった

「腰が入ってないわね、坊やたち。」

宮城はギチリと拳を握ると、お手本のように、正拳突きを繰り出した。
ハチミツの神経はその動作を目に入れたとき、脊髄反射で守り態勢で受け止める。

「ぃづ――!?」

ピシりと両腕の骨にヒビが入り、地面に足が沈み込んでいき、

「とびなさい。」

体が後ろめりになっていき、ハチミツは立ったまま密林のなかにぶっ飛んで行った。

「レン――!! ぐぅ……!??」

飛び蹴りで浮かび上がっていたカイはその隙を突かれて、顎を蹴り上げられて海のなかに落ちていった。

「みっともないわねぇ。
男子高校生が命を張って戦ってるっていうのに、
教師であるあなたは結局、何がしたかったの?
そんなところで寝っ転がってるのなら、早く家に帰りなよ。
邪魔なだけじゃない。」


戦意のなくし俯いている上崎レイジに、一方的に言い放つと、
宮城キョウコは密林に吹っ飛んでいったハチミツを追いかけていった。
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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