其の百九十一 ルシフェル快進撃!

文字数 3,226文字

男子高校生は

男教師は

目の前に映る、神秘を放つ代行者を目にした

死を思わせる凍えさから一転して
生を抱かせる暖かさが
彼らを優しく包み込む



「現代人が必死にやっているから、
こっちも命を賭けようと思ったのさ。」


コートがビリビリに破かれているものの、
ルシフェルの表情は諦めのない実にクールな笑みを浮かべている


「あなた……
その気はいったいどういうことなのよ。」

宮城キョウコは崩れた顔に怒りを表しながらも
言葉は冷静を保っていた

その冷静さから、彼女は気づいたのである

ルシフェルの放つ気は、
【黒豹を思わせる熱気】だということを

「ククク――。
この俺が、
お前(宮城)と黒豹の戦闘を
ただ黙ってみていただけだと思ったのか?
お前が強くなったのなら、
こっちも強くなるに決まってるだろ。」


彼は両方の拳を握りしめた


「俺は救済の代行者、
ルシフェル・ミラ・イース。
そして――
これが――
俺の全力ウウウウーーーーーッッッ!!!!!!


蒼炎が内側から猛り爆ぜ、
森や崖どころか、
氷や海すらも蒸発し、干上がらせていく


「だーーーーーーッッッッ!!!!

蒼き炎は天を衝く勢いで
昇り上がり、
オレンジ色の朝日が一瞬で塗り替えられる

その熱から状況を察し、
人間である男たちは身を隠せる場所に各々避難を始め、

あとは地面から見上げている女だけが残った


「そんな、
そんな――小細工で、
私に敵うと思うなーーーッッッ!!!!


彼女は手のひらから、
殺すことだけに特化した氷の槍を投げつける

怒りに飲まれ始めた宮城は
エネルギー効率ガン無視の戦法となっており、
その槍もまた重量だけで大地に痕を残すほどのものである

それを朱の者が全力で投げつけたら
留まることも知らぬものだろう

しかし
こと今回に限っては
この男もまた、魂を燃やし始めた

――右手だけを差し出し、
槍の
それも最も殺傷力のある
切っ先からワザワザ受け止める


「―――フン。」


浄化の炎と共に、
皆殺しの氷一欠けらもなく爆砕される


「さぁ、決着をつけようぜ。」


―――-―――――――


「ど、どど、どういうことですか!?
千流さんあなたが代行者の担当でしたよねこれ
どうなってるんです!?

「ぬぅ――、ちょっとは落ち着け超鳥。」

千流はまくし立てる超鳥を引っぺがして息を整える

「す、すみません…。
ですが、聞いてませんよ……。
今回の代行者は二人とも、人間ベースの
ノーマル属性でしたよね……。
なんだって、急に炎が出てきたんです?」

水晶玉に映っている
青白く輝いているルシフェルをみながら、
超鳥はオロオロとしている
犬神もまた同様であった

千流が、【ルシフェル】【メアリー】を創り出した神官であるが、
千流自身も何か知っているわけではない。

が、ルシフェルの顔に流れている冷たい汗には気づいていた

「代行者といえど、
元は人間――。
おおかた、
気が乗ってしまったんじゃろ……。」


-―――――――――――


「ああ男というのはいつもこれだ。
女が苦労して得たモノを、
男というのは涼しい顔で、
さも当然のように手に入れていく……。
だから、己が幸せなことに気づかず――
だからこその悪になる……、
女が行えば善となることも、
男が行えばこれらすべて悪に堕ち、
故に罪となるのよ――」

と、宮城キョウコが言い切った所で
彼女の顔はグニャリと変形して殴り飛ばされていった

スタッとルシフェルが着地する

「すまねぇな、ガラ空きだったもんでよ。」

軽い挑発であるが、彼の表情はどこかカラ元気なものだった
無理に笑ってるように見えるほどである

なにを隠そう、
ルシフェルの蒼炎は【黒豹の真似事】だからである

黒豹は、【特別措置者№5 チクシュ・ルーブ】の力を使って、
熱エネルギーで、肉体の身体能力を限界ギリギリまで高めていた
重要なのは、この芸当は命を削る自然界の野生動物だからこそできていたことだ

なにせ、
この力――限界のデッドラインを超えると
体が保てずに崩壊し自死しかねないからである

1を100の力に引き上げることは、それなりのリスクが伴う

黒豹は野生の勘と【ルーブ】のガイドがあったからこそ、そのラインが見えていた

だが、ルシフェルは代行者と言っても元は人間であり、
強化自体はすべて自己コントロールである

デッドラインを超えぬよう制御しつつ――

デッドラインを超えたら死――

加減しすぎたら凍死――

そのプレッシャーが彼を襲っていたのである

だが、彼は笑う
笑うしか、他に誤魔化す方法を知らないからだ

「さぁ、かかって来いよお姫様。
貴様の理屈はもう聞き飽きた……!!

服にも髪にも気に掛けずに
無様に寝転がっている宮城キョウコに対して、
ルシフェルは手をクイクイを自分に向ける

「さっさと捻りつぶしてみな。
互いに――
限界が近いだろう……ッ」

彼女は、整合性を失って狂ったように
アンバランスに立ち上がる

彼女もまた、理解していたのだろう
体を巨大化させて、
彼を完膚なきまで叩きのめした、筋肉形態になる

「懺悔は聞かないわよ……。
男おおおーーーッッッ!!!!

その空間が、世界から削り取られたように
ルシフェルが先程まで立っていた場所は、凍てつかせられ、氷の針地獄と化していた

高速化させた思考と
底上げした身体能力を駆使して、

彼女の居場所を感知する

「上か……ッッ!!

剛腕が彼を襲い、
崖からその一直線上の森のなかの
大木の木々をなぎ倒していく

そんな力の濁流を流し受けて、
ルシフェルは蒼炎を纏い
即座に彼女の方へと回り込んだ

ガレキと土埃、
ナイフのような氷が飛び交うなか
宮城の腹に一発、拳が入った

「―――ッ!?

「まだだ………ッ!!

彼女の腹部に連発させながら、
駄目押しに
顔面に回し蹴りをたたき込む

ゴムのように首をグニャリとさせ
血を吐きながらも
彼女は歪んだ笑みを見せつける
1つ
2つ――
空間に点在する原子と分子を強引に凍らせて、己の支配下にし


「ん――っ」

いとも簡単に、凍てついた飛ぶ斬撃を繰り出した
放たれたそれは大木を真っ二つに切断し、
動物に至っては断面から血も出ない無機物に変えられていく

その空間を蒼が駆け巡った

限界を超えたオーバースピードでのパワー勝負――

斬撃のあとに隙のできた宮城キョウコは
蒸気の中から出てきた手に反応することができなかった

手は宮城の顔面を正面からつかみ取り
彼女本体ごと地面に押さえつけた

「どうした……!!

蒸気からルシフェルが姿を見せる
筋肉繊維がブチブチと切れていきながらも
口に油を塗ったように
彼は喋りつづける

「女の力はこれっぽっちか!!??」

ルシフェルは
右手を女の顔に
右足と左手でもがこうとする、女の両腕に
体全体で圧し掛かって拘束していた

女の右顔にはピシりと、
ヒビが入っていきヘドロの侵食部分が広がっていく

だが、宮城キョウコもまた
諦めたわけではない

「思い上がんな――っっ」

体内でなければ
大地の中に

仕込ませていた冷気を、一気に起爆させる

「ぐ…っ―――!!??」

大地から救済を殺すためだけの氷山が
生成されていく

爆風と冷気のなか
彼は空中で受け身の態勢を整えて
地面をスライディングしていく

そんななかでもルシフェルは見逃さなかった

自分に向かれてた殺意の拳を

彼は咄嗟に左腕を出し
女の右腕とぶつけ合いを始めた

「でええぇえああああああああああああああ!!!!!!!」

「はあぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!」

蒼き無限のエネルギーと
朱き絶対のエネルギーがすべてを無秩序へと帰す

大地は蒼炎に浄化されて
天空は朱氷に衝かれていく

炎は氷を喰い
氷は炎を侵していく

拮抗しあう嵐のなか
ルシフェルがわずかに軸足をずらした

ほんのわずか

だが、ジェンガで一押しをするように――

男の女の、力の支点がブレた

ほんの少し、

されど天変地異を起こすほどの強大な力に対してであれば――


「あああああ―――ッッッ!!??」

指数関数的に力場は変動する

事実――

宮城キョウコの右腕は千切れ飛び
その流れで、男の拳は彼女の顔に炸裂した

元々が脆くなっていたために
この瞬間に
宮城の右顔は完全に割れる

その皮膚の中から
感染症に侵されたと思える
爛れた別の女性の顔が垣間見えた


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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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