其の百九十五 LAST CHRISTMAS

文字数 4,857文字

「お、おい――
大丈夫なの、か?」

裏返りそうな声でカイは呼びかけた
なにせさっきまで心肺停止だった人が急に立ち上がったのだ
普通の事じゃない

だが上崎は至って普通に立ち上がった
血も吐かないし、足の震えもなくなっていた

「ちょ、ちょっとまだ安静にしとかないと駄目よ!!
右腕も無くなってるし、身体だって冷たくなっていたのよ!!
そんな無理しないで!!

火の番をしていたハチミツがそう叫ぶが、
上崎は肩を回したり
首を動かしたりと準備運動をしていた

「大丈夫ですよ。
少し怠いですが、もう動けます。
それより作戦を聞いてください。」

上崎は二人に背を向けて話し始めた

「作戦だと?
この状況で俺たちができることなんてねぇぞ先公。」

「ええ…。
外に出ただけで死んじゃうわ。
あのルシフェルって人に頼るしかないのよ。」

男子高校生二人が顔を俯かせるなか、
焚火がパキっと爆ぜた

「いいえ。
作戦とは、いまではなく――
この後にやることです。」


-―――――――――――


男たちが洞窟で話すなか、
そのはるか上空で【朱】と【蒼】の閃光は
絡み合ったままであった

朱い氷が無から精練され続けるたびに、
蒼き炎が際限なく燃やし続けていく

「どうした!!??
怒りに任せたその姿じゃ!!
俺の動きにはついてこられないか!!??」

功の隙間を縫って縫って
蒼炎が近づいていく

【朱】があまりにも強く出ているためか
パワーは有り余っているが
宮城の人格がもはや張り付いているだけになり、
肉体を思うように動かなくなったのである

迫る蒼に成すすべなく
距離を詰められ

「くたばりやがれぇぇ!!!!

あえなく大地へと落とされた


-―――――――――――

「それが作戦か…。
作戦っていうより、
特攻だなそれは。」

変わらず背を向けている上崎に
カイはあえて触れずに、言葉を続ける

「どうしてもそれをやらないといかないのか。
ルシフェル…に任せるんじゃなくて。」

「スポーツカーは燃費が良いのかってことです。
これだけ災害じみたことをやっているのですから、
有効打を与えても
致命的には至らない
まして、あの青い炎を始めてやっているのであれば
冷静に急所を刺す、その余裕すらないでしょう。
だから、
さっき述べた作戦で完全に――……
あの女に殺します。
それでいいですね?」


「1つ聞きたいんだけど、」

ハチミツが火にあたりながら
上崎の方を見ずに声を出す

「先生にとって、
あの【宮城キョウコ】って人、
そんなに大事なの?」

そのとき、
洞窟の入口からすさまじい暴風とともに
熱気と寒波が入り込んできた

焚火がロウソクのように
音をかき消されたまま鎮火する

男たちは
動きも驚きもしなかった


「シングルベッドを狭く感じさせてくれたのは、
彼女が初めてだったってだけだよ。」


ここで始めてカイとハチミツが笑う

「は――ハハハハハ!!!!
なんだそりゃくっっだらない。
そんな理由でアンタは死ぬつもりかよ。」

「ええホントに。
女性1人に
そこまで意地になるなんてバカのすることよ」


――でもそれが【彼氏】になる資格かも


「その考え、すごく気に入った。
わかった。
俺たちは情けはかけんぞ。
先公の望みどおりにしてやる。
あの女ともろとも、
地獄にいけ。」

「それまでの道は、
わたし達がつくるわ。」



-―――――――――――


まるで隕石が落下したようなクレーターがそこにはあった
火と氷の極端な温度差によって辺りには霧が立ち込める

「ッ――」

蒼い瞳の男は
一人、両腕を抱え込んで悶絶していた

「ああクッソ自分が情けねぇ――ッッ
あんなに気合入れた結果が……ッ
このザマか――ッ」

ルシフェルの両腕は灰になっていた
余りにも高温だったのか
炎が解けた状態でも
両腕は灰となって散り続け、
髪の毛はもちろん
顔の皮膚もベラりと剥けている

「あと一手、
あと一手が……
足りなかった……ッ」

クレーターから女が姿を現す

「お互い――無様な姿になッたわね……。」

女の右半身は、腐り落ちた肉塊を保つために
赤黒い氷に覆われて、
対して左半身は普通の女性と、
もはや人間の形はなかった

「ほんとに……、
あんたの(ココア)の体じゃなかったら、
ここまでもたなかった。」

―――いまだ。

ズシンズシンと
彼女が
ゾウのように重い足を歩ませていくとき

ほんとうに、

ほんとうに――

本能的に感知した

(まって。
あの三人は?
あの三人の気はどこ?)

目のまえに
あのルシフェルがいるというのに
体が停止した

(違う
私の近くに誰かが
いるのそこに―?)

「ヴぅあああ!!
ここだ間抜けぇぇ!!!!

宮城の懐に、
いつの間にか大窄カイが忍び込んでいた

身を屈ませた彼は、
体をバネのように弾ませて
宮城の顎にアッパーカットをお見舞いした

(やってくれたわね……ッ!!)

顎に打ち立てられ、
宮城は体をよろめかせる

(あたしの油断もあるけど、
死角をついて不意打ちをしてくるなんて。
それも生身の人間が!!

彼女は態勢を整えて、
視界を治める

「まず間違いなくあたしが強い。
だけど、あのルシフェルのせいで体力がもう尽きてる…ッ
冷気を最低限にしないと、
(ヤツ)にトドメをさせない……!!

左半身の自由が利く範囲で
彼女は冷気を集める

「ここにきて、
人間のしつこさを実感してしまうわ…
でも、あたしだって――
マジにはなれる!!

目先の標的はカイに切り替わった

「こいよ…!
暴君のやり方ってモンを見せてやる…!!

カイは生身のまま突っ込んで行った
冷気に掠れば即座に凍傷になること――
それを承知の上で、拳と蹴りを放つ

宮城キョウコに接近し続けれると、
それもまた凍傷を負ってしまうため、
ヒット&アウェイに徹していく

(仕留めようなんて考えるかよ。
俺に注意を引きつければ十分…!!
片膝つかせりゃ持って来いってもんだ!!

肉弾戦になっているなか、
宮城は力を抜いて、フッと息を吹きかけた
ロウソクが消えるかどうかのレベルだが
それでもちょっとの範囲が凍り付く

軽傷とはいえ普通の高校生のカイにとっては
それだけでも足を取られてしまう

受け身をとったとき、
地面につくられたツララが手足に突き刺さる

「くそ……!!

「悪く思わないでね。
力比べが全てってわけじゃないのよ…ッ」
(この男子だったらこの程度でなんとかなる。
ただ――)

宮城はチラっと目を向ける

(ハチミツって子と上崎と、
ルシフェルすらも見失った――。
マズイ、
このままだとあたしがマズイことになる……ッ!!

宮城の焦りを
カイもまた察知していた

(良い傾向だぜ。
この女は頭が良い――。
一度状況を見えなくしてしまえば、
あらゆる可能性を考えせざるを得ない。
それも根拠のないものを無作為に。)
「俺の攻撃をさばきながらな!!

注意を引き付け、
状況を乱し、
相手に考えさせながら、
相手に考える時間を与えない

その作戦が、
疲労困憊満身創痍の彼女に
じわじわと焦りを出していた


(いる…。
場所はいまいち特定できないけど、
確実に、
あたしを仕留めるための
鋭く熱い気を感じる――っ)

(この女の攻撃は意識するな。
状況を見ろ。
環境を見ろ。
姿勢を崩したら、
俺が一発であの世行きになる――。)

―-―――――――――――


「……―――。」


―――-―――――――――

「頼みますよ。
あなたのその力が、
この戦いを終わらせる切り札なんですから。
そのために、
いまわたし達が命を賭けてるんです。」

「ああ――任された……ッ」


-―――――――――――


「冗談をやらないでよ…ッ
いくら、
あたしが疲れてるからって――
こんな高校生一人、
殺せないっていうの……ッッ!!!!

宮城がイラついたそのとき、

「その胸ぐらに――!!

カイは
一歩大きく踏み込んで、
体中に突き刺さるツララや剣をお構いなしに、

「ロケットパァぁああんんチいいいい!!!!

一発どでかく
彼女の腹部に拳をキメた

彼女の血が
彼の顔に飛び散る

「こ、このクソガキぃぃいいいい!!!!!!!」

「よっしゃいまだーーーー!!!!

宮城が大きくよろけ膝をついたとき、

カイは左側に
気配を消していたハチミツは右側に

「場所を外すなよレン!!

「タイミングずらさないでよカイ!!

2人がそれぞれ走り出す――

頭に血が上っていても
宮城は見逃さない

2人の手には小さな爆弾が握られていることに

「舐めてんの……!?
馬鹿正面に突っ込んできて…!!!!

立ちあがろうとしたとき、
彼女の体が拘束される

「また、
また――
またアナタかああ!!!!
上崎レイジいいいいい!!!!!!

宮城キョウコの異形の肉体に
また一人の男が背後から羽交い絞めをする

「まだ終わってないんだぞ…ッ。
あの大学時代から――!!

そしてまた注意を引かれたときに、
カイとハチは
宮城キョウコの肩付近にペタリと
【超強粘着質小型爆弾】を張り付けた

刑事部の特注品である

「っ――」

声を出す暇もなく、
二つの爆弾は火を弾けさせた

「しゃあ……!!
はは、上等だ…。」

爆弾。
とくに火力に特化させたもののため
氷を扱う宮城には弱点となっていた

彼女の腕は、
肩の筋肉繊維が焼き切れてしまったため、
腕を上げることが敵わなくなってしまった

「どうだ…っ
うちの生徒は、24区の生徒にも負けてないだろ――っ」

その爆撃は上崎をも巻き込んで

「いまので鼓膜と鼻とか無くなったが、
まだまだだぞ……っ」

そして終わりを告げるように
森のなかから青い炎の柱が立ち上った

木々が容赦なく
焼き崩されて灰となって、
2人の男女の真正面にその姿を現す

人の姿形を失い、
炎そのもののと化したルシフェルが見える

「あれで、あたしを殺そうっていうの…?
上崎レイジ…!!
そんなところにいたら、
私どころか、
あんたも死ぬことになるのよ!!!!

「へへ……
だったらいっしょに死んでやらぁ――ッ」

森のすべての木々を薪として
さらに蒼い炎が女を飲み込まんとする

「そんなので、
そんなのであたしを殺せると思ってんのかぁあああああ!?

宮城が異形化した右手を開き
中に生成した赤黒いスターダストを無理やり掲げた

焼け付いた筋肉が音を立てながら千切れていくが
そのダイヤモンドは輝きに満ち溢れている

「もう終わりなのよ…
終わりにしたいんでしょ!?
あたしが…
あたしがぜんぶの時間を止めてやるわよ!!!!

宮城の冷気が一点に集中していき
キラキラと絶対零度を成していく

「やべぇぞこりゃ……。
ルシフェルはまだ動けない…
先公は手が離せない…
かといって俺たちが突っ込んでも、
もう止められない――」

(ほんとになんにもできないの…!?
せっかくここまでやって、
わたし達の負けのなの…――)

ダイヤモンドはカットされていき
文句の付け所のない眩さを放っていく

その輝きに
その場にいるものたちは
時間を奪われたように微動だに動かなくなった

(まったくここまで追いつめられるなんて、
ルシフェルはともかく、
残りの人間たちにこうも手こずるなんて…
認めるしかないわ。
あなたたちは本当に強かった――)
「それでも勝つのは【(わたし)】よ。」

輝きを成した白銀の星が
いま完全な形を現ずる

「完成したわ――
勝つには勝ったけど……」

(諦めんぞ……、
隙があれば
絶対に仕留める……――!!!!

蒼き炎がさらに強まっていく

――鉈が振り落とされる
待ち望んだように
長い戦いを終わらせる
安息をつくように

「……!!??」

1つの薬莢がカランと落ちた

時が動き出す

凍り付いた世界に
一発の弾丸が
ねじ込まれる

「いいえ、
勝つのはわたし達です。
宮城先生……ッ」

「アヤ…カ……アア――!!

少女の弾丸が
宮城の心臓(炉心)を穿った

エネルギー中枢を失った
白銀の星は急速に光を霧散していく


「覚悟はいいな……
偉大なる戦士よ――」

「やれーーーーーーーーー!!!!


遅い

もう遅い

すでに手遅れ

宮城キョウコの
人間としての生存本能が
彼女自身の心中を凍らせた

「ひっ……」


一速(low)
「ルシフェル・ミラ・イース…
(貴様)が――」
蒼き炎がノッソリと動き出す

二速(second)
「救済を騙るのであれば――」
勢いを付けて

三速(third)
「其の敵を撃ち堕とし――」
刃のように尖り

四速(forth)
「偉大なる戦士への――」
臨界点を突破し

五速(top)
「生贄となれええーーーーーっっ!!!!
紫電を纏った紅蓮の弓矢へと至る

「やめて」

迷いなく、

「お願い」

淀みなく

「あああ―」

平等に公正に、

「やめてえええええええええええ!!!!!!

男と女を貫いた
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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