其の百八十七 誇り高き其の人よ

文字数 2,783文字

月に照らされて
風に流されて
カーテンがひるがえる

「現時刻をもって、
鹿島ユキちゃんを死亡と判断します。」

「は?
な、なにを―言ってるんですか――、
だ、だって、まだ、ま、だ――
心臓マッサージもなにもやってなかったじゃないですか――?」


早妃カズミは震える声を抑えて、冷静に努めようとする


「まだ、まだ――生きてるに決まってるじゃないですか!!
どうして――
どうして、
どうしてそんなに簡単に諦めちゃうんですか!!
ユキちゃんなんですよ!!
あのユキちゃんが、、たかが心臓病だけで、
死ぬわけないじゃないですか!!
夏の時から、千羽鶴を完成させるために、
ずっとやってきたんですよ!!
まだ、まだ、終わってないんですよ!!


早妃は主治医の胸倉を掴んで
殴りかかる勢いで、体当たりをした

椅子と机が崩れ落ちて、
カルテやペン、
ガラスのコップが砕け散る

「………………。」

「………………。」

しかし、
主治医と看護婦はまったく同じ目をして、
息を乱す早妃を見つめていた

「は…は……は………――?」

体から魂が切り取られて、
幽体離脱の感覚に襲われたとき
早妃は、病室の違和感に気づいた―――


-―――――――――――


【おじいちゃん、
クリスマスが来たね。】

【………。】

【あたしさ。
サンタさんが来てくれるように
いい子でいたんだよ。
サンタさんが来てくれて、病気を治して、
そして皆で、新年に迎えれますようにって。】

【ユキ、
敵が来た。
おじいちゃんはこれから、行かなくちゃならねぇ。】

………

【敵の勢力を見るに、
俺たち、警察や消防隊の救命機関を壊滅させるつもりだ。】

【………。】

【おじいちゃんは死んでくるつもりだよ。】

ユキはガラスの向こうにある景色をぼんやりとみている

【どうして?
おじいちゃん強いんだから、
死なないよ?】


鹿島は、
孫娘のユキと目を合わせるために
腰をおとした


【おじいちゃんな、
頼まれちまったんだよ。
パパとママから、ユキを迎えに行くようにって。】

【パパとママから?】

【ああそうだよユキ。
パパとママは、
大きなクリスマスケーキと、
ユキの着たがっていた綺麗な洋服を準備して待っているって。】

【でも、あたしは、まだ……】

【いいんだ。
もういいんだよ、ユキ。】


-―――――――――――


「ウワハハハハハハハハハハ!!!
所詮は人間風情のゴミ同然!!
朱に逆らおうと、
運命に逆らおうとするのが間違いなのですじゃ!!!
弱いなら弱いなりに、
嫌なら嫌なりに、
とっとと死ねばいいのですじゃ!!
現状を変えたくないなら、腐っとけば楽なのですじゃ!!
人間というのは、
いっつも、
生きる勇気も
死ぬ勇気も持ち合わせない
生まれながらの出来損ないなのだから!!!
ウワハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!


-―――――――――――


【ユキ、
お前は、
もうおまえは、我慢しなくていい。
もうおまえは、強がらなくていい。
何もしなくていいんだ。
周りの期待に応えようとしなくていいんだ。
優しくなくていいんだ。
何も
考えなくていいんだ。】


-―――――――――――

老刑事の
切り落とされた
右腕と
左足から血の噴水が止まることはない


「やめてくれ……。
もう、やめてくれよぉ………!!!!


破損によって吹き抜けた上階から、
涙と鼻水だらけの桜が嘆く


「どうして、
どうして……
俺たちはただ――
普通に生活できりゃあ
それ以上のことはいらないのに……っっ。」


-―――――――――――

【ははは――。
やっぱり、
サンタさんはあたしの前に現れたよ。】

ユキは
冷たく枯れ枝のような手を
鹿島刑事に委ねた

-―――――――――――

「クククク、
ハハハハハハハハハハ………!」


鹿島は笑い出した


血を吐きながら
切断された右腕と左足を震わせて、
だけど、絶対的優勢の朱を嘲笑うように


「―――?
ついに気が狂っちゃったのですかい?」

タコは打撲痕の残った体を
のっそり動かして
拳の血管を隆起させる

「まったく。
最初から抵抗しなければ
ここまで時間が掛からなかったんですが。」


大拳のセット完了――
あとは打ち下ろせば
鹿島刑事は体ごとトマトジュースになれる

だが、
鹿島はタコを見るどころか
のんきに
防弾チョッキと防火コートを脱いでるだけだった


「お前を殺す方法をようやく思いついた。」


-―――――――――――


【ねぇおじいちゃん。
お願いしたいことがあるの。】


ユキは施された
呼吸マスク、心電図、抗がん剤などの
【医療器材】をすべて取り外し、
鹿島刑事に力なく抱き着いた


【あたしといっしょに死んで。】


-―――――――――――


「二度と復活しないように、
こなごなに吹き飛ばすことだ――。」

防弾チョッキの下から
これ以上ないくらい
びっしりと、
爆薬が巻き付かれていた


「な……――。」

この行動にタコは唖然とした
合理主義の朱には、予測不能だったようだ

「正気ですかい!?
そんなものつかったら
間違いなく、自分自身も無事じゃすみますまい……!
そ、それに朱の耐久面から
たかが、爆薬程度では死にませんよ……っ」

タコの口ぶりにもまた
刑事は笑いを上げるだけだった

「本館と、この別館の地下にはな
【もしものときの保険として】、自爆用地雷原が仕込まれてんのさ。
ちょっとや、そっとじゃ動かんが、
発火すれば、
この町にどでかい奈落を容易く作れるレベルさ。」

そのとき、
初めてタコは冷や汗を出し、
本能的に刑事の首を切断しようと切りかかった。

「おっと~~。
やめとけよ。
俺を殺しても、もうこの爆弾は起爆する。
ましてや、危害を加えようもんなら、
その瞬間にドカンだ。
寿命が、縮むだけだぜ。」

その瞬間、
タコは行き場をなくした拳を床に叩きつけた

「桜ーーーーっっっ!!!」

次に、桜刑事が呼ばれる

「鹿島さん……。
そんな、そんなことって――。
鹿島さんまでいなくなったら、
俺は………」

桜は子供のようぬ涙を流すなか
鹿島は煙草に火を付けた

「俺はお前をずっと見ている。」

そういったとき、
桜の体が急に空へと持っていかれた

「やめてくれ……、
やめてくれええええええええーーーーーー!!!!!!
鹿島さあああああああああああんんんんーーーーーーっっっ!!!!!」

小さくなっていく桜と、メアリーに、
鹿島は最後の笑みを手向ける


命令がなく呆然とするしかなかった
朱の兵隊たち

そしてタコは震えながら、
鹿島に指をさした

「逃げるどころか、
本当に自爆するつもりですかい……
自分の命を、
1つの命を、なんとも思わないのですかい!!??」

「クハハハハハハハハハハ!!!
どの面むけて喋ってやがんだ朱野郎。
自分の命。
男に生まれたときから
ふんどし締めて使うに決まってるだろう。」


月光から、小さな少女が舞い降りる
白髪で
目は無く
だけど、笑みを浮かべて
鹿島の首元を抱きしめる


「あばよ。
可愛い孫娘を待たせるわけにはいかん。」



煙草の灰が零れる


光が漏れ出て

色どころか、その周囲の境界を焼き消していく

壮絶な光の彼方

老刑事と朱の軍隊は
奈落へとその身を堕とした
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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