其の百八十 恋と罪と安寧と闘争

文字数 1,455文字

「ねぇカイ、聞きたいんだけど、上崎先生どこいっちゃったの?」

腕のツララを引き抜きながらハチミツは口を尖らす
カイは面倒くさそうに頭を掻いた

「ウザかったから海に落したよ。」

「落とした!? なぁにやってんのよ。
いま真冬なのよ!
常人なら凍死コースまっしぐらよ!!」

「……それは、俺に対する嫌味か?」

カイはずぶ濡れになった学生服を脱いで、上裸になった

「そうさ常人なら死ぬ。
女を置いて先に死ぬ最低な男ならな。」


空っ風の吹くなか、青みを帯びた氷の刀が仄かに月光を反射する


「久木山レン――あなた、言ったわよね。
【殺す気で幸せになる】って。
なら、あなた達を殺すってことも、文句ないわよね。」

宮城は笑っていなかった

「ねぇカイ、もう一つ聞かせて。
あなた、人の命に重さを感じてないでしょ。
どうしてそういう考えになるの。」

「……?
最初から価値のある命なんてないだろ。
命の重みってのは、【結果】を出した人間に初めて与えられる。
この世に生まれてきたこととかな。」


氷の刃が向けられる


「私のために、死んでちょうだい。」

「「上等だッッ!!」」



-―――――――――――-―――――――――――



(………)

冷たい水が全身を飲み込む
神経を奪いとっていったのか、体の感覚が無くなっていた

塩辛く、ヌメヌメとした液体が口のなかに洪水を起こしていく

暗くて冷たくてまるで 【死んだの。あのときに全て。】

(………)

遠ざかっていく 月がたわんでいって 【私の名前も、下の名前で呼んでほしいな。】

3.11……  【ねぇ見て上崎■■君。 海ってこんなにもキレイなんだね。】

【でもね、私には人間の■に見えるの。 
見た目は綺麗でも、底が無くて、飲めば飲むほど渇き続けていく。】

2011…… 【ねぇ■■君……、あのとき、親を見殺しにするしかなかったのかな……】

宮城…… 【うみって、どうやって無くなるのかな。】


海の飲みかた
膿の飲みかた?
うみ

うみ?

――クソ、クソ……ックソッ!!

宮城キョウコ 宮城キョウコ…ッ

君の声や顔はもう擦り切れた

この数年間、空想の君と話した
でも、あれは【俺の中の君】であって【(宮城キョウコ)】じゃない。

さっきまで顔を合わせたあの女は、彼女じゃない

顔も声も混ざりものだ 

頭の中の彼女にも、顔も、体もなにもかもモザイク状だ

彼女はなにを持って彼女なんだ?

本物の彼女とはなんだ?
偽物の彼女とはなんだ?

………。

……………。

俺は、
俺は……、

彼女になにを求めてるんだ?



-―――――――――――-―――――――――――


「人間は【安寧】を求める。
それは家族に、
それは兄弟に
それは恋人に……だ。
なぜだがわかるか? 【自由が怖いからだ。】」

朱い眼差しが向けられる

「人間は生まれた時から罪人だ。
【自由という罪】を背負った、な。
自由ほど恐ろしいものはない。」

「調子に乗って饒舌になる口なの?
()が目の前にいるのに呑気なものね!!」

アスファルトが抉れ、クレーターが出来上がった

「さっきから避けてばかりで、あなた何しに来たのよ!?
やることないなら死んでくれる!!」

メアリーはイラついた様子で舞い上がった塵を見上げた
それさえもかわすように、【朱】の衣服がヒラヒラと吹かれる

「【人間は自由の刑に処せられている。】
かの哲学者が言い残した言葉ね。
それがなんだと言うの??
まさか……【(あなた)】がイエス・キリストにでもなるつもり?
十字架でも用意しときましょうか!!」

メアリーの蹴りによって、コンクリートブロックが弾丸のように吹き飛んで行った

「解は≒。
【万人の万人に対する闘争】。
(オレ)は【リヴァイアサン】になるつもりだ。」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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