其の百七十一 メアリー 出撃

文字数 1,949文字

「人の女の体を、メチャクチャに使いやがって。」
冷気が立ち込めるなか、ルシフェルは吐くように放った




「あのタコさん。 俺たちはどうしましょうか。」

警察、刑事一同のほとんどを殺しつくした兵隊たちは、その場で立ってることしかできなかった
彼らの常軌を逸した戦いには手も足も出せないのである

兵隊たちは初期編隊に位置したままの兵隊たちは立ち尽くすのみである

「宮城しゃんの戦いに入ったところで凍らせられるだけです。
わしらには、わしらのやることがあります。」

「やること……?」

「【黒本(リンフォン)】の回収を――」





-――――――――――――――――――――――

浅界

彼女の頭に数々の言葉が繰り返されていた

【想いが俺たち人間の力だ。】

「………。」

【自分の身を投げうってまで、ソレ(代行者)はやり遂げたいことですか?】

自分の幻影までも 自分に問いかける 自分が分かってないと知りながら

【よくできた人間は、筋とか、義理とか、論理とかってのを大事にする。
だがよ、それってそんなに大事なことか??】

二人目の救済の代行者の言葉――

「戦いたいから戦う……
守りたいから、守る……!」


それは根拠も思い入れもない、空っぽの義 (さが)からの義の正
メアリーにはそれしかなった



「なんだ……?
ルシフェルはもう47区に出向いたぞ。」


目の前にいる鶴の神官が言葉をかける
息があがり、怯えと勇ましさを含んだ お互いの蒼い瞳が重なる


「千流さん ずっと前におっしゃいましたよね…?
私の記憶を戻すことはできない、と。
ならば1つだけ――1つだけ教えていただきことがあります。
救済の……
救済の代行者は……
わたし自身が選んだ道ですか……?」


千流はただ彼女を見つめるのみである


「ずっと前に 夏くらいに【大浜ナオミ】という女の子と行動したのを覚えていますか?
あなたは彼女に【動機など必要ない】と言いました。
動機は、カッコつけたいがためのメッキに過ぎず、誰もなぜこうしたのかを覚えていない、と。」


「……。」


「私も…ルシフェル氏から似たようなことを言われたのです……。
義理や道理は必要ない、と。」


メアリーの拳に力が入る


「わたしは【守りたい】という自分の遺志を感じ得ました。
しかし……これは、私が望んだことなのですか……!?」


千流は顔は何も変わっていない


「理由や義理、その動機は必要なくとも――自分自身を知るための真実は、必要なのではないでしょうか……。」



しばしの沈黙
女も鶴もなにも発しない

永遠の黄昏が不気味に両者の横顔を照らす

「あ……。」

鶴はペッタンペッタンと背を向けて歩き去っていく

(やっぱり駄目なのかな……。)




「自分の道を真っ直ぐ進め」


「……!」


「勝って来いよ。」


パタンとドアが閉まり鶴の姿は見えなくなった
残されたのは少女1人となった
されど、その顔つきは異なっていた

(千流さん ありがとうございます。)



歩く
歩く歩く
歩く歩く歩く――!


もやの掛かった根元が見えた

会ったことの無い自分からの、唯一の託された遺志

それをここで示さねば それこそ自分自身を亡くしてしまう それも今の自分の手で

なぜ救済の代行者を選んだのか

なぜ死んだ後も戦うことを選んだのか


「救済の代行者 メアリー 出撃します!!」


それはいつの日か 絶対に教えてもらおう


-―――――――――――-―――――――――――


47区の街中で二人の代行者が未だに争っている
氷 エネルギー波が飛び交い かつての穏やかな街並みは廃墟に変わっていた

「ふ、フハハハハハ……!! さぁすがは救済の代行者さまぁ。
死後も健気に戦いつづけるなんて。
かつて自分たちを処刑した人類という種族に、そんな思い入れがあるのかしら。」


「……。」


「なぜ【朱】はこんなことができるのかですって?
逆よ逆ぅ!
殺したいから殺し、死にたいから死ぬ。
こんな勇気付ける自由があるのだから、使わなくっていつ自由を行使するの?」


闇夜に紛れているせいか宮城キョウコの顔は見えず ただ朱い光だけがそこにあるだけだった


「ずいぶんと…余裕があるんだな……。
いくらお前が強くなったからって、俺と互角になっただけで、勝つことが決まってるわけじゃないだろうに。」

ルシフェルの言葉に宮城は目をまん丸とさせた
信じられないといった顔をしながら、そしてブフっと笑い声をあげた

「ハハハハハ。
あっハハハハハハハハ……ッッ!!」

「―――。」

その笑いざまに、彼が思わず言葉を無くすほどである

「【無知は幸福を指し示す】――。
フフ……ッ。死んだくせにまだあの男に転がされちゃってる。
やっぱり全部、脚本に沿っちゃってるんだ。 この惑星という舞台の……ッ!」

「なにを―言っている……。」

女は笑い飽きたのか、コホコホと咳払いして
1本の人差し指を指したてた

「一段階――あと一段階、私はパワーフェーズを上げることができる。
この意味が分かるかしら?」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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