其の百九十 男の戦い

文字数 2,601文字

完成した景色を口ずさむと
なにも話すことがなくなるから、

この手で隠しましょう?
誰にも見られず、私たちの好きな事しましょうよ

さぁ口を開いて舌を出して

どんなにすごい本や、どんなにすごい映画よりも

私はあなたをずっと見ていたいの

あなたためなの
君のためなんだ

この愛のターミナルが
君を傷つけてしまうかもしれないけど
それでも君は愛してくれるよね?

どんなに凄い賞や
どんなにすごい人に褒めてもらったとしても

俺は小さなアパートで、
君といっしょに過ごせたほうが一番だったんだ


「まずいわ……、
あのままだと、上崎先生本当に死んじゃう……!!


冷気のなか、男と女は踊っている
女は誘うように
男は蟲のように


並んで立てていた
もしかしたら運命の人かもって
もしかしたら自分を愛してくれるかもって

瞬きも勿体ないくらいの幸せだった


「敵うと思ってんの?
たかが人間の、
たかが男のくせに、
私に――
(わたし)に敵うと思ってんか?」


――でも、もうない
――そんな幻想もうない

冷気によって上崎の体が着実に硬直していく


「そんなに私と交尾したんだったら、
とっとと死んで、天国でいってこい。」


冷気に加えて、尖った氷が散らばっていく
彼女の意思が入ったそれは、
男の全身を隈なく刻んでいく


――終わった話の先を描くために


「言っただろ……っ、
君もいっしょに連れていくと……ッ」


上崎は凍り付いた腕をつきだした
皮膚どころか、間接まで凍りきった腕は
ロボット同然の硬さで彼女に迫る

しかし
無常なものである

彼は生身の人間
彼女は人を捨てた血同然

「―――!」

絶対零度をまとった彼女には
時が止まったように、彼の腕が振れることがない

見えない壁が彼を阻む

壁だけでなく、氷が彼の腕を削り取っていく

「わたしはあなたとは違うの。
あなたが私を愛しても、
私はすべてを愛さない。
私の幸せは復讐による、すべての破滅。
それ以外になにもないのよ――。」


「それで、自分もいなくなって終いか?」


上崎は腕を削り取られながらも、
なおも進撃をとめない
腕の皮膚は剥がれ落ち、骨が見え始める


「全部壊して、
満足してやることがなくなったら
自分もろともお終いにするつもりか?」


「―――。
ええそうよ。
それが私の幸せなの。
それが私の望みなの。
だからここまで沢山の人を殺し続けた。
もう昔の自分には戻れないようにね!!
おかげでいまは良い気分よ。」


彼の手の指が凍傷によって壊死し、
もぎ取られていく


「違うなそんなの。
お前は復讐どころか、自分が本当にしたいことすら分かっちゃいない!!

「なんですって……。」

宮城は言葉に詰まった

「復讐とか男と女のこととか、
お前は言っているが、お前はそれを通してなにを目指している!?
それをやり遂げた後に、自殺するってんなら、
そんなの復讐ですらない!!
独りよがりの寂しい、
ただの八つ当たりだ!!

「っ……!?

彼女が一歩後ずさりをする

「復讐っていうのは、
やり遂げた後に自分が幸せに行為のことだ!!
お前のやっていることはただの破滅行為の自殺願望だけなんだよ!!

「黙っていれば好き放題言いやがって……!!
あんたに私のなにが分かるっていうのよ!!

彼は足に力を入れる

「自分1人だけで抱え込んで、
俺を彼氏に選んだのであれば、
俺もいっしょに巻き込んでみろよ!!
分かるわけねぇだろうがーーーッッ!!

勢いを付けて、一気に前のめりに彼はなる

氷に削られて、槍のようになってしまった
腕の骨を利用して、
唖然とした彼女の右顔面に突き刺した

骨が目玉を突き破って、
皮膚ごと剥がれ落ち、鮮血のシャワーが降り注ぐ

「あ……、」

宮城は言葉を無くしていた

「あ、…あ、そんな、
あたしの、顔が、……」

貫通した右目を中心に、
彼女の顔が崩れ始めていた

そこは少し前に黒豹によって負傷した箇所であるからだった

タコの施術で普通の顔を装っていたが、
黒豹の攻撃力の高さと、超高熱エネルギーが、
彼女の顔を焼き続けていたのだ

そして彼の一撃でその崩壊が始まり、
紫色のヘドロ状のものが見え隠れしていた


「あた、あたしの顔が――、
よくも……、
よくもーーーーッッ!!!!

「ウッ―――!?

それが感情の漏れをキッカケとしたのか、
力を使い果たし、ぐったりとした様子の上崎を蹴り飛ばした

「あたしの顔が、
せっかく化粧して、
せっかく吉田ミョウに用意してもらった綺麗な顔がああああ!!!!
許さない許さない!!
許してなるもんかーーーッッ!!!!


彼女に共鳴するように、
氷が辺り一帯を飲み込んでいく

木々は氷樹となって息を殺され、
動物は穴という穴をツララに突き刺され、

水色の氷が徐々に赤く染色されていく


「やば、いわよ――これって――」

「クソ――が――」

ハチミツこと久木山レン
暴君と呼ばれた大窄カイもまた氷に飲み込まれていた
体の半身を包まれ、その場から一歩も動けずにいる

「カイ――あんたは――どう?」

「ダメだ――、無理に動くと、手足が千切れる――」

そしてその2人の前に、宮城が現れる
綺麗な氷刀ではなく
ささくれまみれの押しつぶす大金槌を背負って

そのギラギラと光る朱い瞳を見るに、
手加減してもらえるような者じゃないことは
一瞬で察することができる

処刑人のように近づいてくる彼女を見て、
ハチミツは不気味な笑みを浮かべるしかなかった

「あぁ――私たちも――ここまでって――ことかしら――」

カイもまた、諦めるような顔である

「まだ――全然分かってないことばっかりで――死ねるか――」

顔の右側を紫の膿で覆った女が、金槌を振り上げた
死を覚悟して青年2人が目を閉じる

【遅くなって悪かった、ここからは俺も出る。】

「え――?」

「これは――」

突然、2人の頭のなかに声が響き
周囲を見渡してみる

宮城キョウコもまた気で感知したのか、
後ろを振り返って、滝を見つめた

「――!?

突如として、地面が揺れ始めた
なにかが海底で大爆発を起こしたのか、
滝が一瞬で蒸発し、
急激な温度変化のせいか
海の塩分だけが残って、塩の柱を打ち立てていく

「何が――起こって――これって――」

「あったけぇ――……」

海から浮き上がってきたオレンジ色の光は
森や動植物、カイやハチミツ、上崎を覆っていた氷を溶かしていき
今を生きていくものに、
柔らかな温かみを与えていく

「あなた、まだ生きていたのか……!!

オレンジ色の光から、1人の男が姿を見せる

「現代人が必死にやっているから、
こっちも命を賭けてみようと思ったのさ。」

コートが破けながらも、
ルシフェル・ミラ・イースは再び戦場に返り咲いた
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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