其の百八十一 平和な世界へ

文字数 1,530文字

「リヴァイアサン……。」

「そうだ。
近代政治学の祖の1人、ホッブズが唱えた概念だ。」

2人は動きを止めて、互いににらみ合った
朱と蒼の瞳がキラキラと輝く

「前提として、人間は【欲】に支配された【性悪な存在である。】
食欲や性欲は限界があるが、(オレ)のいう欲とは、名誉や名声を求める限度の無い精神的欲望なのだ。
だから闘争状態は避けられない。」

「人は根っこからの悪人とでも言いたいの?
バッカじゃないの。そんな常時戦争状態であれば、どうして世界は滅ばなかったのよ。
滅ばなかったのは、人は他者を思いやれる【憐憫(れんびん)】があったからでしょう!
人を悪と決めるのは性急だと思うけど。」

蒼の瞳がギラギラと鋭くなっていく

「違う。 
滅ばなかったのは【恐怖を想定した社会を創り続けた】からだ。
我々人間は、自らの上に【恐怖】を置いてやっと共存の道を模索し始める。
つまり闘争状態は集結するのだ。」

朱の瞳が柔らかくなっていく

「………。
闘争状態の終結とは、具体的にどんな状態なの?」

メアリーは呼吸を整えながら疑問を口にした
ほんの好奇心である。

「闘いの道具となる【力】を、1人の絶対的君主、もしくは1つの絶対的国家に譲渡することだ。
こうして我らを強い力で支配し、闘争状態の終結となる。」

「わたし達を支配する強い力とは、いったいどういう意味?」

「すなわち【政治権力】である。
人間は己の上に君臨する【恐怖】が無くては【秩序】を保てないのだよ。
人間は性悪な存在だ。
そうでなければなぜ、国家、憲法、法律が存在するというのかね。」

朱の男の言葉に、メアリーはため息をついた

「やっぱり、納得できないわ。
人には、他人を思いやる【憐憫(れんびん)】という感情がある。
自分だけで独占せずに、
他人と分かち合う優しさを持っている。
他人を思いやる優しさを持っている!
だからいままで世界は成り立ってきたんでしょう!!」

彼女の眉間にシワが寄っていく

「国家や権力は必要ないと言いたいのか?」

「わたし達が行うべきことは、国家や政治ではなく、もっとも小さい単位の【共同体】を作るべきということよ。
そのなかで、助け合っていけばいいじゃない。
助けて助け合って、分けて分け合って、それが思いやりというものでしょう。」

今度は男がため息をつく

「【蒼】らしい考えだ。
あまりに楽観的で聞いているこっちが恥ずかしくなってくる。」

「あんたは、絶対的国家があれば戦争は終わるって言ってたわよね。
では、国家の話となれば次は国家同士の戦争が起きるんじゃないの?
そうなったら【共同体】以上に、惨たらしく凄惨なことになってしまうのよ。」

「そう言ってくると思った。
確かに、これに関してはお前のいうとおり、国同士の戦争になることが極めて高いだろう。
現に、これまで2回も世界大戦が起こったしな。
しかし、それ故にだ!!」

男の気が解放され、瞬く間に赤い竜巻が豪風を成し、高層ビルや戦車、焼き焦げた死体を吹きあがっていく

「それ故に人間は性悪な存在なのだ!!
あらゆる者たちの訴え、恨みを、魂すらもまるで学習せず、ただただ殺戮を破壊と欲望を貪り喰らう!!
それ故に人間は愚かな存在なのだ!!
それ故に、(オレ)が【リヴァイアサン】という恐怖の象徴となり、民たちを導く必要がある!! 
全てはこの(オレ)が管理する!!
そのための【新世紀】なのだ!!
【平和の世界において!!安寧の世界において!!自由など不要なものなのだ!!!】」

「違う!!!
そんな!!
【そんな恐怖で支配される世界に平和という概念なんてあるもんか!!!】
あなたの言う事は!!矛盾も矛盾だ!!!」


赤き豪風のなか、青き烈風が真っ向から押さえつけんとする

【朱】と【蒼】それは互いに相容れない存在である。
相容れないのであれば、どちらかが死滅するまで闘争するしかないのだ
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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