其の百六十一 宮城先生

文字数 1,456文字

「ふぅ……ええ、もうよろしいですじゃ。
あなた様の顔は元通りになりました。」

タコのように腕をフニャフニャさせた坊主は、手術台の女性に声を掛けて一歩下がる

女は目を開くと、腕と足を確認しながら起き上がった。


「……ずいぶん掛かったじゃない。
たかが目の修復なんでしょう?」

「まったく簡単に言ってくれますわい。
あなた様の肉体は【合成体】なのですぞ。 普通 DNAが二種類とかありませんわい。
それを手術できたことが儂が凄いんですじゃ。」


女は裸のまま歩き始めると、立てかけられた鏡の前で顔をペタペタと触った。
変わりのない朱い瞳が映される。


「合成体ねぇ。 いいじゃない。 そのおかげでこの肉体になったんだから。
バストと 足と ヒップと 顔 どれをとっても文句なし。
声がちょっと混ざってるけど。」


宮城は布もかかってない乳房をタコ坊主に見せつける。
男ならぜひ見てみたい所だが、タコ坊主はどこか不機嫌そうだった。

「けっ、あざとい人ですね。触れせてくれない胸に何の価値があるのです?
もういいですじゃ。 あんな大手術をしてお礼なしなんて。
残業代もらってMM号AVを大人買いしてきます。」

「あ、そのまえにあたらしい服用意してくれる?
黒豹のせいでスカートは破けて、タイツは伝線して使い物にならないの。」


マイペースな宮城に、タコ坊主は顔をしわくちゃにしながら、


「だから!! わしは――!!!」

「くたびれたブラとシミのついたパンツと、着圧タイツあげるからさ。」

「タイツは黒でお願いします。」



……

…………


「そもそもなんで合成体になったんです?
そんなに大けがでもされてたんですかい?」

タコの質問に、宮城は下着をみながら口を開く

「キレイになりたかっただけよ。」

「それだけですかい……?」

「それだけよ。 女の子が化粧するのと同じように、吉田に全身整形してもらったの。」


タコはため息をつく

「吉田ミョウがですねぇ。 もう死んだというのに引っ張ってきますねぇ。」

「っていうかそれが取引でもあったのよ。
朱になるかわりに、キレイにしてくれって。 そしたらこの肉体を用意してくれたの。
いいでしょ。 【ルシフェル・ミラ・ココア】 あいつの妻の肉体はとっても馴染むのよ。」


「それでDNAが二種類も出てきたんですねぇ。 せからしいことこの上ありましぇん。」

納得した顔でタコは腕を組み、宮城は黒タイツに足を通す。

「だからルシフェルとはある意味 因縁みたいなものがあるの。
24区のときは手も足も出なかったけど、次こそ私が勝って見せる。 そしてクリスマスプレゼントを貰うのよ。」


「プレゼント?」

「そうそう。 聖夜ですもん 【男と寝るに決まってるじゃない】。」


宮城はスカートのチャックを閉めて、胸元のボタンを引っかける

「―――……これに他意はないの?」

鏡に映る自分の姿を見る――

「始まりと終わりは同じところにありますからねぇ。」

白いワイシャツに、黒いタイトスカート、つやのあるパンプス――

「そう――。 【先生】としていけってことね。」


あれはもう昔の思い出
4~7月までしかなかった、夢であり現実となった教師としての自分

髪を結ぶ 硬く 固く もうほどけないように

あれは一時の夢であり、やりのこした自分への最後の時間

そして8月となり、冬へと向かうこの季節は、友人も恋人も失った、自分に送る復讐喜劇


【宮城キョウコ――あなたはどうして、この世界で生きるべきと考えた?】


世界に生まれたこの私は――生きるべきか死ぬべきか……

「すべての部隊を47区に向かわせなさい。
この聖夜で――全てが決まるわ。」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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