其の百六十四 救い

文字数 1,992文字

「はいこれ」

三尾アヤカは目の前の老婆囚人からライフルを受け取った
すぐ横には気絶した看守が横たわっている。

「それでわしの頭を撃ちぬいておくれ。」

「どういうつもり? 脱走するためにこんなことしたんじゃないの?」

「脱走はするとも。この【世界】から。」

「……。」

老婆は壁に寄っかかったまま背中を向けている

「綺麗な子じゃな。 あがはこの先まだ長い。 生きる価値がある。
じゃが、儂にそれはもうない。

老いぼれになって頭も体もぼけた。 夫も子ももうおらぬ。 帰るべき家も無い。
どうして生きようと思える? いいや思えんわい。」


アヤカは銃を構える


「それでいい。 儂にとって【死こそ救い】なのだ。」


パン


彼女は深く呼吸をすると、再度ライフルを構えて錠を破壊し、監獄から歩み出した。

自分の過去――その終編に決着をつけるために



-―――――――――――-―――――――――――


第3隔壁破壊 第2層に侵入されました!

「一個師団分の戦力投入か。 占拠は時間の問題だな。」

桜は乱れた髪をかき上げながら、荒れていく47区のモニターを見やる

「桜くん……、あとを頼むわ。」

皆が血眼で機械を操作するなか、コツンと紅茶を飲み切った三島は落ち着いた様子で、主モニター室から立ち去った


「分かっています。 紅茶――飲み切ってくれて嬉しいです。」



武装した兵隊は連携をとりながら、持ち手の身体能力で身を潜めながら、確実に戦力を削いでいく。

強固な隔壁をバズーカで警官ごと吹き飛ばし――

戦意を失って逃走している警官には、空中からのヘリコプターガトリングで一匹残らず駆逐していく。

そうして町そのものがロウソクのように、揺らぎながら燃え広がり、影はすべて朱い瞳の【アリ】にまみれていった。


第2グループ応答なし!

77電算室 連絡不能!

10番 連絡道路 爆破されました


タチ悪いな テロリストのほうがよっぽどいいよ……っ。

(無理もない。 みんな 化け物とやり合ったことなんてねぇんだから。)


ヒ…っ…ぃ…っ―――あ……ッ
恋人を引きずっていた婦警官は、胸と腹を無作為に撃たれ地面に倒れる

背を向けて逃げ出した警官は、背中を6発撃たれて、糸が切れたように死んだ

「非常ケーブルから優先して切断。」
ハッキングできなかった機械類は、銃の乱射で物理的に断線させていく。


密室に逃げ込んだ非戦闘員には、油をかけて、火炎放射器でジックリ焼いていく


第3層 Bブロックに侵入者! 防御できません!

Fブロックからもです。 メインバイパスを挟撃されました!

桜は次々と遮断されていくモニターを、苦い目で見つめながら
「第3層までを破棄する。 戦闘員は下がれ…!
4703区間までの全道路と非常回線通路の起爆薬に点火。」


01区間から点火開始 完了まであと30システム――
アナウンスの機械音声によって、生存者 死者のあるなし関係なく起爆していく

02区間 点火開始――

「これで少しはもつだろ……。」

桜の疲れた息を1つ吐き、チカチカする目を抑えるも、

「桜刑事…ルート07が寸断されグループ7が全滅しました…!
このままでは本部別館が占拠されてしまいます……!!」

「ッ……非戦闘員の白兵戦は極力避けろ。
もしなんの手段もなく敵が攻めてきたら、投降したほうがいい。
敵は殺しのプロだ。」

桜は銃の装填をすませると、目の前にいる職員に

「すまない。 あとを頼む。」

といって走り去って行った。




山ヶ丘はもういい
海ヶ浜の制圧を急げ もちろん1人も生かしておくなよ

侵略自衛隊は47区の端の部分で、無線を使いながら状況把握をつぶさに確認している

「なんか意外と手間取ってない?」

「【朱】に楽な仕事はありましぇんよ。」

例の2人もまた、望遠鏡で焼けていく街を花火感覚で見ている



桜が走り去ったモニター室では、リラックスさせるためか、職員たちは落ち着いた様子で引き出しから銃を取り出して愚痴を言っていた


「分が悪いよ。 こんな本格的な対人要撃システムなんて、用意されてないからな ここ。」

「まっ、せいぜいテロどまりだ。」

「あんな化け物が本気だしたら、この町なんてひとたまりもないさ。」

「CPUウイルスも冷夏事件のやつと酷似だったんだろ?
今考えたら、夏のときからこの戦いは想定されてのことなんかな。」

「あり得る話だ……うわ――ッ!!??」


そうこうしている内に主モニター室に爆撃が発生

盾とライフルを持った黒い兵隊が、続々と突入してくる


職員は驚きながらも椅子と机に身を隠して銃を構える

「っ……別館よりも先にこっちかよ…!?」

そんななか 女性職員は体をガチガチと震わせて耳を抑えて目を閉じていた。

男性職員は銃を女性に渡しに行く

「ロック外して…!」

「私…私戦えません……」

「訓練で何度もやってるだろ!!」

「でも、そのときは、こんな化け物なんて考えてなかったんですよ!!!」


弾丸が机にぶつかり、火花が飛び散る


「バカ!!!  戦わないと死ぬぞ…ッ。」
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登場人物紹介

吉田ミョウ/パーフィット (AL)


生徒会七人目の生徒


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